やしあか動物園の妖しい日常 30~31話

やしあか動物園の妖しい日常

[トンカツソース]


「あっ!新人さんいらっしゃい!注文決まった?」


 ワラさんと目が合うとニコッと笑い直ぐに話し掛けてくれた。


「注文は決まりました。お願いしても良いですか?」


 注文を書いたメモ紙を渡す。

「日替わり2つね!OK!」


 笑顔が可愛くて若い?のにワラさんはハキハキしていて、サービス業が型にハマっているように思う。
 社員用の部屋に行くと久慈さんだけでなく、飼育員リーダーで飛縁魔のリンさんも居た。


「あら、黒川さん。今夜の主役の登場ね。あなたもこの食堂の虜になったのかしら?」


 リンさんの手元には半分くらい食べられた料理が置かれている。

「はい!昨日ここで食べてからすっかりファンになってしまいました。あの、リンさんのそれって…」


「ああこれね、これは日替わり定食よ。ロースカツの脂がいい感じで最高に美味しいわ。あなた達は何を頼んだの?」


「リンさんと同じく日替わり定食です」

「そう、なら良かったわ。やしあか食堂の料理はどれも美味しいけれど、今日の日替わりは格別よ」


「うう、わたしも早く食べたいです」


 話しをして更にお腹が減って来た。

 リンさんの対面に座る久慈さんの横に座り、暫く三人で会話をしていると、ワラさんとカヤさんが定食を手にして部屋に入って来る。


「日替わり定食お待ち~!」


「日替わり定食お待ち~!」


 双子の猫又が綺麗にハモりながらそう言うと、待ちに待った昼食がテーブルに置かれた。
 うわっ!美味しそう!

 今のわたしにはロースカツが輝いて見える。

 ワラさんとカヤさんは忙しいのか、「ごゆっくり~」と言って早々に部屋を出て行った。


「ご馳走様。わたしはこれで失礼するわ。今夜は食べて呑んで楽しみましょうね」


「はい!ありがとうございます」


「リンさんは呑み過ぎないでくださよ。去年の忘年会は大変だったんですから」


「フフッ、確かに忘年会では呑み過ぎたわね。今回は出来るだけ気を付けるわ~、じゃっ!」


 久慈さんの言葉にリンさんはそう返して部屋を出た。


「リンさんて綺麗で優しい人ですよね」


「その分怒った時の反動が凄いんだよ。黒川さんも昨日のミーティングで分かってると思うけど?」


「ハハハ…そうですね。怒らせないように努力します」


「うん、それが良いよ。よし!料理が冷めないうちに食べよう。いただきます」


「ですね!いただきま~す!」


 暖かいお絞りで手を拭き、料理に添えられた小さな陶器の蓋を開けると、中にはトンカツ専用のソースが入っていた。

 味にこだわりのあるやしあか食堂のソースが既製品である訳がない。これは自家製のソースに違い無いだろう。

 わたしはトンカツソースをロースカツにゆっくりと丁寧にかけた。

[ロースカツ&カニクリームコロッケ&貝汁]


 ソースの香りが漂い、ロースカツの見た目も更に食欲を増進させる。
 割り箸を使い右端の一切れを取り口に入れた。
 お、おお!?トンカツソースは少しの酸味があり、甘さも感じて深みがある。そしてリンさんの言っていた通り、良い感じの脂の旨みが口全体に広がって行く。


「美味すぎる~!」


 声を発したあと、口の中に肉が残っている状態で白ご飯を詰め込んだ。
 むふぅ、堪んない…幸せだなぁ。
 定食のおかずが完璧でも白ご飯の出来が悪いと全て台無しだ。

 やしあか食堂に関してはそこら辺もバッチリで、白ご飯に使われている米の種類は分からないけれど、炊き加減が抜群に良く、米の一粒一粒が活き活きしているようで程よい硬さをしている。
 次にロースカツの横で静かにしているカニクリームコロッケに手をつけた。

 箸で真ん中から真っ二つにすると、白くてクリーミィな色をした中身が顔を覗かせる。

 半分に割った片方をパクッと一口!

 はぅっ!最高のロースカツの後に食したカニクリームコロッケが、外はサクッと中はふんわりとして柔らかく、しっかりとカニの味も引き立っている。

 料理長が作ったのかは知らないけれど、コロッケをここまで上品に仕上げてくれたことに感謝!
 おっと、味噌汁をまだ飲んいなかった。

 お椀の蓋をそっと開けると、昨日とは違い貝汁が湯気を立てて姿を現す。

 お椀を口に寄せてズズッと…

 体中に電気信号が走り頭の中で鐘の音が鳴り響く。


「美味すぎ~っ!」


 つい声を出してしまうほどの美味しさ。

 続いてあさり貝を拾い上げ、舌でスルッと口の中に投入する。

 アハッ!心の中で思わず笑ってしまった。

 具は小さいけれど、あさり自体の味がハッキリと伝わり感動すらしてしまう。
 ロースカツの後ろには、新鮮なキャベツがこんもりと盛られている。

 一緒に運ばれて来たドレッシングをかけようとしたわたしは、急に一つ思いつき寸止めした。
 まずはロースカツの皿の端にある黄色い辛子を一切れの肉の上に乗せ、更にトンカツソースを追加でかける。

 それをキャベツ山の頂点にちょこんと置き、ギリギリ一口でいけるくらいのキャベツと一緒に口に運んだ。
 口の中では、ロースカツと新鮮なキャベツが化学反応?を起こして、爆発的で大勝利な美味しさを提供してくれる!


「聞いた話しでは塩をかけて食べても美味いらしいよ」


 久慈さんから突然の持ち込み企画。

「塩ですか!?でも塩は付いて無いみたいですけど?」


「そこの塩で良ければ試してみると良いよ」


 顔を動かして指し示す場所、長いテーブルの端っこに塩や醤油などの調味料が置かれていた。

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