やしあか動物園の妖しい日常 24~25話

やしあか動物園の妖しい日常

[仕事の段取り]


 「黒川さん、そろそろ飼料の配合を始めよう。僕が飼料をタンクに入れるから、ここにある飼料袋を全部開けてくれるかな?」


「了解です!魔法でやっちゃいますね!」


 女性が20㎏の飼料袋を扱うのはやっぱり重労働、こういう時は魔法を使うのが一番! 積み重なった飼料袋に魔法をかける。


「ほいっと!袋さんたち整列してくださ~い!」


 わたしがそう言うと、久慈さんの立つすぐ隣を基点として、魔法のかかった飼料袋が一つずつ並んで行った。


「はい!今度は上の口だけ開けてくださ~い!」


 整列した飼料袋が前から順に口をパカッと開けて行く。


「魔法って便利で良いなぁ。よし、こっちもじゃんじゃん入れちゃうよ!」


 久慈さんが機械のタンクに次々と飼料を入れる。袋達がそれに合わせて前へ進み、袋の長い列はあっという間に短くなって行った。


「これでOKですか?久慈さん!」


「ああ!OKだよ!」


 タンクへの飼料投入が終わり、久慈さんがスタートボタンを押すとタンクがグルグルと廻り始める。


「配合が終わるまでにここの片づけと野菜の準備をしよう」


「はい!了解です!」

  こうして朝一の給餌の準備を、昨日より段取り良く済ませる事が出来た。 「黒川さんの仕事覚えが早いから僕も助かっているよ」


「あ、ありがとうございます!何だか照れますね」


 学生時代のバイトでも想っていたけれど、自分が仕事を頑張った時に上司や先輩から褒められると、例え短い一言でも格別に嬉しいものだ。


「時間に余裕があるから、また小動物コーナーの動物と妖怪を紹介しようかな」


「そう言えば、わたしがサトリさんから逃げてしまってから、それっきり他の動物や妖怪を見てませんでしたね」


「ハハハ、昨日も言ったけれど、妖怪を紹介する時は事前情報をちゃんと伝えるよ」


「そうしてもらえると助かります」


 サトリさんの件は昨日のうちに解決したから良いんだけど、初見の妖怪の情報はやっぱり前もって教えて欲しい。


 二人で小動物コーナーに向かい、サトリさんに挨拶したあとネズミの居る小屋を覗いた。
 ハツカネズミやモルモット、テンジクネズミなどが見える。小さくてかわいい…


「実は小動物の妖怪は数が少ないんだ。でも、ここのネズミ達の中には妖怪が混ざっている。どれが妖怪なのか分かるかい?」


 おっと、事前情報を伝えると言ったばかりなのに、早くも情報無しでクイズを出す久慈さん。昨日から密かに想っていたけれど、やっぱり天然が入っているらしい。


 今のわたしは魔力解放モードで妖怪探しなど楽勝!妖気を発しているネズミを瞬時に見つけ指差した。


[鉄鼠のテツさん]

「あの毛がボサボサになってるネズミですよね!」


「ピンポーン、正解。もう妖怪探すのはお手のものか」


 簡単に当てられて久慈さんが残念そうな顔をしている。

「あれは鉄鼠(てっそ)という妖怪でテツさんだ。どんな能力を持ってるかは知らないけど、人間と普通に話せるよ」


 わたしはそのテツさんの傍へ近づき、挨拶することにした。


「おはようございます!テツさん」


 普通に挨拶したつもりがテツさんをビックリさせたらしく、ビクッとして一瞬固まり、小さな木箱の中に素早く隠れてしまった。

「すみません、テツさん。そんなにビックリするとは思わなかったんです。挨拶だけでもさせて貰えませんか?」


 声のボリューム調節して再度話し掛けてみる。

 すると、木箱に空いた丸い穴からゆっくりとテツさんが顔を出した。

「な、なんだよぉ、オイラは「ビビりのテツ」ってあだ名が付くくらいビビリ症なんだぜ。それくらい調べておけよ」


 わたしは久慈さんの方を見て訊く。

「そうなんですか?久慈さん」


「いやぁ、ごめんごめん。伝えるのを忘れてしまっていた。あ、でも今回のは悪気があって黙ってた訳じゃ無いからね」

うぅ、久慈さん… でも顔を出してくれたから挨拶しなきゃ。


「初めまして黒川紗理亞と言います。よろしくお願いします」

「しょうがねえなぁ、鉄鼠のテツだ。次からは驚かさないでくれよ!」


「はい、気をつけますね」


 普通は人間を驚かせる立場の妖怪なのにビビりだなんて…
 ネズミコーナーの隣には、リスやプレーリードッグの小屋があった。


「ここに妖怪は居ないんだ。普通の動物達も可愛がってあげてね」


「もちろんです。と言うか妖怪は可愛がれません!」


 昨日から動物の中に紛れ込んでいる妖怪を見て来たけれど、一つも可愛いという感情は芽生えていなかった。 そもそも可愛い妖怪っているのだろうか?…
 純粋に動物とコミュニケーションを取ろうと、妖怪の居ない動物小屋のリス達に話し掛けてみた。


「おはよう。リスさん達」


「…….」

 目の前のリスは少しこちらを見て目を逸らし、餌のクルミを無心になって食べている。他のリスの何匹かはその場に残り、数匹は逃げてしまった。 

 奇しくもわたしはこの現象に物足りなさを感じる。相手が妖怪ならば必ず何かしらのリアクションをとってくれるし、会話も思いの外スムーズに出来てしまうからだ。


 わたしが魔女という特殊な人間ということもあるけれど、人間の慣れとは不思議なもので、妖怪の居ない動物小屋に早くも、物足りなさを感じ始めてるのかも知れない。

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