[恥ずかしい!?]
「会話中のところすみません!先ほどから歓迎会のお話をしているようなので、勝手ながら自己紹介をさせていただきます!新人飼育員の黒川紗理亞22歳、目下のところ恋人募集中!」
きゃーっ!?慌てて全く関係の無いことを口走ってしまったーっ!?
幸にして自分では見れないけれど、恐らく今のわたしの顔は火を吹き出しそうなくらい赤くなっているだろう。
「え!?黒川さんて彼氏いないの?」
いち早く反応したのは、話し掛けたサビさんとモモさんではなく、横でぼーっと聞いていた久慈さんだった。
「え、ええ!?いないですよ。何か問題でもあります?」
「いやいや、何も問題は無いよ!ただ、へ~と思ってね」
な、なんじゃそりゃ!?
「久慈さん、そこで『へ~』は無いんじゃ…」
「そうか!?無しかぁ、ハハハ」
笑ってる…丈夫な筈の心がポキッと折れそう。
肝心のサビさんとモモさんはこっちを見て固まっていた。
「ビックリさせてごめんなさい。わたしの歓迎会の事で二人が揉めそうだったのでつい…」
そう思ったのだけれど、二人にとっては余計なお世話だったかも知れない…
固まっていたサビさんの顔がようやく動いた。
「噂の新人飼育員は君か!なかなか可愛い子じゃないか!」
「可愛い子じゃないか」「可愛い子じゃないか」「可愛い子じゃないか」……..サビさんの言葉が脳裏でリフレインする。
ここに来て初めて容姿を褒められてしまった。アハハハ、褒めたのが妖怪とはいえ、女の子のなら嬉しくない人はいないだろう。きっと。
「サビは人間の女が好きなのね。もう良い、分かったわ」
モモさんが不機嫌になり、また?気不味いムードになってしまった。
「モモ!そんな事がある訳無いだろう!ボクが愛してるのは間違い無く君だけだよ!」
それを聞いたモモさんが涙を流しながら返す。
「ああ!サビ!わたしも愛してるわ!」
モモンガとムササビの姿をした妖怪が金網越しにハシっと抱き合った。
とてもシュールな光景。
一体わたしは何を見せられているのだろう。
「歓迎会は良かったら来てくださいね~。久慈さん、そろそろ事務所に戻りましょう」
わたしは早くこの場からとにかく立ち去りたくなっていた。
「あ、うん。そうだね。丁度良い時間かも」
ある意味、サビさんとモモさんの愛の巣である小屋を去り、歩いて事務所へと戻る。
「さっきの妖怪カップルはかなりインパクトありますね」
「ハハハ、やっぱりそう思うかい?3年くらい彼らを見てるけれど、ずっとあんな感じで全然変わり映えしないんだよ」
「3年もあんな感じで疲れないんでしょうか?」
「きっとそれだけ愛情が深いってことなんだろうね」
妖怪にも愛情ってあるんだなぁ…
動物もそうだけれど、妖怪も知れば知るほど奥が深いものだ。
[くじっちのブログ]
「事務所に着いたらホームページの更新をよろしく頼むよ」
「はい!了解です」
ホームページの更新の仕方は昨日習ったばかりだ。頑張ってやってみよう!
事務所に着きパソコンを立ち上げ、やしあか動物園のホームページにログインする。
動物の勉強も兼ねてホームページの更新を始めた。
久慈さんから新しい動物の画像と、説明文のデータを受け取り、順調に切り貼りして行く。
「そのうちでいいからさ、新人飼育員の奮闘記みたいなブログを開設して欲しいんだ。黒川さんに出来そうかな?」
ブログかぁ、文章を考えるのは得意ではないけれど、それほど苦手でもないし…
「やってみます!あの、参考になる文章データとか残っていたら見たいんですけど」
「それだったらホームページのアーカイブに、僕の作ったブログのデータが有る筈だから見てみるといいよ。前もって言っておくけど大した文章じゃないからね」
「アーカイブ、アーカイブっと、あっ、ありました!」
タイトルは「新人飼育員くじっちの動物日記」、久慈さんのイメージと違うタイトルに思わず笑ってしまいそうになる。
ブログの日付を確認すると、ほぼ毎日のようにブログの更新がされていた。
「久慈さんて結構まじめにブログに取り組んでたんですねぇ」
「僕は文章を考えるのが苦手だったから最初は苦労したよ」
「ふ~ん、そうだったんですね…」
過去のブログを最初から読んでみると、確かに久慈さんの苦労が文章に表れている。
そこから20分くらい閲読したけれど、徐々に文章が上手になって行くのが分かり、動物との触れ合いなどが面白おかしく書かれていた。流石に妖怪に関する記事は一切無い。
読み終わった頃には、「よし!久慈さんに負けないようなブログを考えるぞ!」と意気込んでいた。
「ふい~、腹減ったなぁ。黒川さん、今日の昼食はどうするの?」
久慈さんに言われて時間に気付き、急にお腹が減って来た。
「仕事の時のお昼は、やしあか食堂で食べる事に決めてあります!行きましょう久慈さん!」
日替わり定食はなんだろう?楽しみ~♪
やしあか食堂の中に入ると今日も人が多くて賑やかだった。
早速日替わり定食が何かを確認する。
ふむふむ、ロースかつとカニクリームコロッケ定食!最高じゃないですか~!よ、よだれが…
「わたしは日替わり定食にしますけど、久慈さんも同じで良いですか?注文を書いて渡して来ますよ」
「お、ありがとう。じゃあ僕も日替わりで良いよ。先に部屋に行っとくね」
久慈さんは社員用の部屋へ向かった。
メモ用紙に日替わり定食2つと書いて振り向くと、双子の猫娘のワラさんが見えた。
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