一輪の廃墟好き 第135話~第137話「予定変更」「鬼ドラ」「気絶寸前」

一輪の廃墟好き

 僕は考える…

 今回の場合、誰からの依頼も受けていないのだから報酬は当然望めない。だが事件に一度首を突っ込んでしまったわけだから…

 時刻は今や午前11時。病院へ行くとなると移動時間などを含めれば3時間を費やしてしまう…

 それにそこまで事件に踏み込めば、ある程度は犯人を絞れるところまで調査を続行しなければ、全くもってスッキリしないのが我が性分というものである。

 となると…

「淀鴛さんはいつまで井伊影村に滞在する予定なんですか?」

「俺かい?…そうだなぁ、有休は週末まで取ってあるからあと二日はこの村に居るんじゃないかな。因みに「村やど」の宿泊もあと二泊の予約が残ってるし」

「…そうなんですねぇ」

 淀鴛さんがまだ滞在することを確認した僕は、未桜の方を向き打診する。

「未桜、民宿の状況次第にはなるが、事件についてもうちょっと調べたい。一泊だけ延長して明日帰ろうと思うがどうだろう?」

「わたしはアパートの一人暮らしだから全然オッケーだよぉ♪気兼ねはいらないので~す♪」

 重そうだった二日酔いから立ち直り、すっかり元気を取り戻した未桜は、実に朗らか笑みを見せて即答したのだった。

 そこから淀鴛さんと一緒に民宿「村やど」へとんぼ返りし、一度別れの挨拶を交わした手前少しばかり気恥ずかしい気持ちもあったが、女将さんに急遽の宿泊を申し出ると、実に爽やかな笑顔でOKをいただくことができた。

 そして、僕たちは淀鴛さんの自家用車に相乗りさせてもらい、被害者夫婦の遺体がある病院へと向かった…

 淀鴛さんの愛車?かどうかは別として、僕たちは彼に促され後部座席に並んで乗り込んだ。

「時間が勿体ない。ちょっと飛ばすが我慢してくれ」

「遠慮は要りません、むしろガンガン飛ばしちゃってください。その方が時間短縮になって僕たちも助かります」

 時間のことばかり気にして後先のことを考えもせずに判断し、行動を起こすとろくでもない出来事に遭遇することが稀に、いや、多くの場合はろくでもないことに遭遇してしまうだろう。

 そして淀鴛さんに「飛ばしてください」などと簡単に言ってしまった結果、
僕たちは地獄を拝見させていただくことと相なった。

 淀鴛さんの運転する愛車(仮)は、信号がないまるでラリーレースのコースのようにくねくねとしたカーブだらけの山道を、鬼のドライビングテクニックを持ってしてアクション映画のワンシーンの如く走らせた。

 敵に追われているわけでもないのに…

 山道は一応アスファルトで舗装はされているものの、手入れはあまりされていないようで、剥がれ凹んだ穴が数多く見受けられ、横へ吹き飛んでしまいそうなくらいの凄まじい遠心力と、時折車内の天井に頭をぶつけるほどの豪快な縦揺れのコラボによって、後部座席に座る僕と未桜の身体は、それはもうボロボロのボロ雑巾のようになった感覚すら覚えたものであった…

「むっ!?むむっ!」

「ひゃっ!?わわっ!!」

 酷い揺れで絵も言われぬ哀れな姿となった僕と未桜の悲鳴が車内に響き続ける。

 グラグラと揺れながらも車内中央のバックミラーを覗き込むと、運転に全神経を注いで集中し眉間に皺を寄せた淀鴛さんの鋭い目が映っていた。

 車での移動中、淀鴛さんとの会話をあれやこれやと準備していたのだけれど、会話ができるような状態ではあろうはずもなく、喋った瞬間に舌を噛みかねないので一言も声をかけることすらままならない。

 ようやく山道を抜けて平坦で長閑な車道へ出た時には、無論、経験したことなどないのだけれど、僕と未桜は「ぐるぐるバット」をしゃにむに100回ったくらいの気持ち悪さでグッタリとなったものである。

 そんな折、平坦な道になり余裕ができたのか、運転速度はそのままに、淀鴛さんが前方を向いたまま話しかけてくる。

「随分と静かじゃないかお二人さん。ひょっとして昨晩の酒がまた回ってきたんじゃないか?」

 酒の所為なんかじゃありませんよ淀鴛さん、僕達が静かなのは全て貴方の暴走とも云える激しすぎた運転の所為なんです。

 と言いたいところであったのだが、車酔いのあまりの気持ち悪さに言葉を発することができない。

 未桜に至っては横になり、口元に若干の泡を浮かべて気絶寸前の有り様であった..

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