探偵稼業をやっていてたまにふと思うのだけれど、人探しや物探しには集中力や洞察力が必要なのは言わずもがな、やはり運というか予期せぬ事象や視点を変化させることによって革新的に進捗する場合がある。
それを僕にもたらしてくれるのが助手の未桜だったりするのだが、あいにく彼女はこの場に居ない。
前置きでこのようなことを云ってしまえば言い訳に聞こえようが、僕と淀鴛さんを含め、他の警察関係者4人ほどで調査を進めたけれど、犯人に結びつくような手がかりは何一つ見つかっていない状況である。
被害者の遺体が残っていれば、もしかしたら何か分かったかも知れないのだが、残念なことに事件現場からとっくに病院へ搬送されいてここにはもう無い。
警察がいくら調べても犯人の使用した凶器はおろか、指紋一つ発見されないのだから驚きだ。
しかしこれだけ調べても何も見つからないのに警察や淀鴛さんはほぼほぼ他殺だと断定しているのか?
僕は拝見していないから何とも判断出来ないのだが、淀鴛さんから聞いた話しによれば、被害者二人が負わされた深い刺し傷や切り傷から明らかなことで、現場を数多く経験している殺人課の警察関係者からすれば、一目で他殺だと判断できるのだという…
僕の特殊能力である「想いの線」も、犯人が使用した凶器や落とし物などの物体が発見されない以上、悔しいが何の役にも立たない。
結局のところ、事件現場ではこれといった手がかりは何も見つからないまま、僕と淀鴛さんは揃って一緒に家屋の外へ出た。
家屋の外には、来た時には大勢集まっていた野次馬も姿を消していて、助手の未桜がただ一人、空を眺めて待っていた。
「未桜、気分は良くなったのか?
僕が声を掛けると、彼女は上空へ向けていた視線をこちらへ移してニコッと微笑んだ。
「うんうん♪心配してくれてありがとう♪でもだいじょうぶだいじょうぶ!二日酔いはすっかり良くなりましたぁ♪」
二日酔い!?だと!?
「…おい。まさかとは思うが、事件現場の惨状を見て気分が悪くなったのではなく、二日酔いで気分が悪かったなどと言っているんじゃないだろうな?」
「えっ!?普通に二日酔いの所為で気分が悪くなったんだけど、何か問題でもある?」
「….フッ、ふははは…」
馬鹿馬鹿しくてただ笑うしかなかった。
まっ、まぁ、僕が手前勝手に勘違いしていただけなのだから仕方がない。彼女には一切の落ち度が無いし、事件現場を目の当たりにしてショックを受けたわでないのら結果オーライである。
真っ当に考えれば今回の「勘違い」はプラスな方だと思うのだけれど、如何ともし難く釈然としない気持ちがやや残った。
だが、そんなくだらない想いに時間を費やすより、優先するべきことを優先すべきであり、さっさと頭を切り換えることこそが良策であろう。
取り敢えず気になっていたことを現職の刑事に訊いてみる。
「そう言えば淀鴛さん、事件現場には早めに居合わせてたみたいですけど、警察から連絡であったんですか?」
「ん?…いやいや違う違う。警察関係の連絡網なんかじゃない。単に朝飯を食って散歩してたら大勢の騒がしい声が聴こえてきてね。それで近寄って話しを訊けば事件が起こった言うもんだから、地元の警察に身分を証して一緒に調査してたってわけさ」
なるほど、これはある程度想定通りだったな…
僕にはもう一つ確かめたいのと同時に実行したいことがあった。
「あの、もし可能だったらでいいんですけど、被害者夫婦の御遺体を拝見したいんですが」
井伊影村には小さな診療所あるが、総合病院のような大きな病院は存在しない。
殺された夫婦の遺体は村から少しばかり離れた街の病院に運ばれたと聞いている。
「そう来ると思っていたよ。だが病院はここからだと車でも最低1時間はかかるがそれでも良いかい?」
「い、1時間、ですかぁ…」
今度の答えは僕の想定を僅かに超えて来た。
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