一輪の廃墟好き 第64話~第65話「調べる」「思念」

一輪の廃墟好き

 現場を探索すると言っても、焼死体発見当時、警察によってじっくり検証されたであろう現場で何かしらの物証が見つかる可能性は限りなくゼロに等しい。

 だが曲がりなりにも探偵稼業を生業とする僕としては幼児期の淀鴛さんのために、是が非でも物証になりそうな物を探し出してやろうというという気持ちが芽生えていた。

「いいか未桜。君が視た不可思議な存在のことは一時頭から取り払って、この現場で事件に繋がる何かを探し当てるんだ」

「んもぉう、それくらい言われなくてもわかってるよぉ。一輪より早く探し出してやるんだからぁ。何か見つけたらご褒美もよろしくねぇ♪」

 ほほう、それは頼もしいじゃないか。
 だがご勝手に褒美を貰える前提を作るんじゃない!

 僕達は釜戸の周囲を重点的に調べたあと、付近にある木製にの棚に置かれた備品なども注意深く調べた。

 もちろん重ねられた薪木も一本ずつ丁寧に調べたのだが、これといって目を惹くような物は見つからず、虫の死骸や、現役で元気なゴキ○リくらいしか出て来なかった。

 未桜は特に虫が苦手な方ではなかったけれど、突然姿を現すゴ○ブリや蜘蛛やらに悲鳴を上げたものだったが、時間的余裕が無く焦り始めていた僕は一切無視たものである。

 手分けして釜戸部屋の隅々までを調べきった僕達には、しゃがんだり、地面にうつ伏せになったりと、無理な姿勢で動き汚れた挙句、何一つ成果が上がらないまま疲労だけが身体に残った。

 流石の未桜も、顔に疲労感が滲み出ている。

「一輪、残念だけれど何にも無さそうだねぇ…」

「…そうだな、これだけ探しても収穫無しってのは寂しいが…いや、待てよ…」

 僕は腰に手を当て、突っ立ったままの状態で周りをもう一度見渡し、未だ一箇所だけ調べていない場所があることに気付いたのだった…

「未桜、僕達は肝心な場所を調べていなかったようだ」
 
 僕はその「肝心」だと思った場所を彼女に指で指し示す。

「あっ!?本当だ!その中はわたしも調べてなかったぁ」

「灯台下暗し」と言ったところだろうか、僕達は釜戸の中に残っていた灰や炭を調べていなかったのである。
 ある意味「間抜け」だったかも知れないが…

「一輪!これ使えば良いんじゃない?」

 行動の早い未桜が、木製の棚に立て掛けられいた錆びれてボロボロのシャベルを僕に手渡す。

「…だいぶ劣化が進んで傷んでるようだが、何とかこれでいけるかもな」

 僕は手渡されたシャベルを持ち直し早速釜戸の中に突っ込み、物証があった場合のことを鑑み丁寧にすくって手前に運び出す。

 灰や炭は大した量が残っておらず、十回前後で全てを掻き出すことが出来た。

 僕達は灰を吸い込まないよう顔の下半分をタオルで覆って首でとめ、念のために用意しておいた薄く白いゴム手袋を装着し、釜戸の中から出した灰と炭の山を手探りで調べた。

 灰は完全に乾き切った状態でサラサラしており、時折見える黒い炭は薪が燃え尽きたあとの単なる木炭でしかなく、僕達の高まった期待値を裏切り何も見つかることはなかった。

 ここでまでして何も見つからなかった場合、普通の探偵であれば諦めてしまうのだけれど、幸か不幸か僕は普通の探偵とは少しだけ違う。

「試してみるか…これで何も起こらなければ諦めよう…」

「おっとぉ!ここで一輪師匠の必殺技が炸裂するんですねぇ♪」

 だ~れが「師匠」だ!
 そして「想いの線」はそんな物騒なもんでもないわ!

 などと心の片隅で彼女にツッコミを入れながら、崩れた灰の山から灰を右手で掬い上げ左の掌に小さく盛った。

 僕は盛った灰のてっぺんに右手の人差し指をそっと乗せ、自己流の決まり文句を呟く。

「想いよ、導け…」

「ポッ!」

 ガスコンロの火が極弱で点火した時ののような音を立て、手の甲の僅か上に青白いアポロチョコ大の光球が姿を現した。

「やったぞ!上手くいった」

「うんうん♪」

 上手くいくかどうかは「神のみぞ知る」といった一か八かのお試しは功を奏し、発動した青白い線が真っ直ぐ一直線にに伸びる。

 これまで僕の特殊能力「想いの線」について説明したこともあったけれど、少しだけ補足しておこう。

 「想いの線」は触れた物質に潜む人の思念と、その思念と深い関係性を持った人物とを具現化した青白い線が繋ぐ。

 ただこれには「線の繋がる人物は生存していなければならない」といった縛りがあるらしい。

 つまり、僕の能力が上手く発動したということは、掌に乗った灰と深い関係性を持った人物が、この世にまだ生存していることを示していることになるわけだ…
 

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