覚醒屋の源九郎     36~40話

覚醒屋の源九郎

閑古鳥

 ミニョルがそっぽを向きながら俺に手を差し出す。似合わない分可愛く見える。

「ミニョルもよろしくな!」

 手を掴んでギュ〜ッとしてやった。

「お、おう」

 ミーコも治志とにこやかに握手していた。

「ミニョル、怖がってしまってごめん!これからは仲良くしよう。よろしく!」

 精神力UPの影響か、治志の人柄や雰囲気が少し変わったように感じられる。

「おう、よろしくな治志」

 パートナー同士の心が打ち解けたようで実に微笑ましい。

「じゃあそろそろ帰ります。源九郎さん、この度は本当にありがとうございました!」

「大抵は事務所に居るからいつでもおいで」

 治志とミニョルは並んで会話をしながら夜道へ消えていった。

「ミーコ腹減ったな〜、今夜は牛丼にしよう!」

「源九郎の作る料理は全部美味しいからいつも楽しみなんだ〜♡」

 ヨダレが出ているのは見逃しておこう。

 こうやって波乱の開業初日が終了したのだった。

  “閑古鳥”とは“カッコウ”の別称らしい。

 カッコウの鳴き方ってどうだっけか!?

 開業して一週間経ったが治志が来て以来、一人のお客さんも事務所に来る事は無くずっと閑古鳥が鳴いている。資金は当面大丈夫だから焦っていないのだけれど、仕事が無いというのは個人経営者としては残念無念である。

 一昨日に治志が来て悪鬼を試してみた。今度は気絶せずに自分の意思で悪鬼を制御出来るようになったと喜んでいたが悪鬼を解いた後に疲労困憊になって大変だとも言っていた。

 因みに治志がやってる部活は剣道である事が判明。実家は剣術主体の道場を経営していて子供の頃から習っているとの事。そりゃ悪鬼の力も加わり剣撃が早いのも納得。

 そこで俺は刀の使い方を半日かけて指導してもらい、夕食をご馳走して仲を深めた。

 付け足しておくと俺のスキルが一つ増えた。遠距離攻撃が欲しかったので“攻撃魔法”を選択してファイアやブリザドのような魔法が詠唱無しで使用可能に。ハハハまた強くなってしまった。

 しかし、悪鬼戦を振り返ると身体能力底上げの必要性を感じる。勿論、日頃の鍛錬も怠ってはならないが、いつか選択肢に身体能力UPが出現したらば強化するとしよう。

 話しは仕事の話しに戻り、本日も事務所でタブレットやパソコンをいじったりして過ごしている。広告活動としてホームページだけでなく、ブログやFacebook 、Twitterなども初めた。YouTuberもおもしろそうなので現在ネタを思案中。

 窓の外を見ていると、女性が不意に事務所前の道路を右から左へ超絶なスピードで駆けていった。 あのスピードって人間離れしている。ミーコ以上じゃないか!?俺の動体視力がなければ人間が通ったと判断できないほどの…

「こんにちはーっ!」

 そのスピード女王が事務所を訪れた。

みくる&リアーネ

「こんにちは、いらっしゃいませ」

 ジョギング用のランニングに短パン、ショートな髪型、身長は170cmくらいで出るとこは出てるがスリムな身体つきをしている。顔がボーイッシュで可愛い事も付け加えておこう。

 そんな彼女を普通の対応で出迎えたが悩みのある雰囲気が感じられない。お客さんではないのかな?

 取り敢えずテンプレの自己紹介を済ませた。彼女の名は瀬戸みくるさん。

「此処ってどんな事でも相談に乗ってもらえるんでしょうか?」

「何でもご相談いただけるのが当事務所のコンセプトでして、どのようなご相談でしょうか?」

 女性は躊躇なく話し始めた。

「わたしは大学1年生でまだ友人が少ないんです。その少ない友人の中でも特に親しくしている女の子がここ最近めっきり姿を見せなくなって、電話してもLINEやメールを送っても反応が無くて連絡が取れないんです」

 友人の安否を知りたいといったところか。何だか探偵業っぽいな。

「そのご友人宅には行ってみたんですか?」

「もちろん行きました。ただ、彼女の家は物凄い豪邸でして、門のインターフォンに出たメイドさんに門前払いされて終了です」

「そうですか。よろしければご友人の住所を教えていただけますか?外から様子を確認したいんです」

 俺はペンとメモ紙を彼女の目の前に差し出した。

 友人の個人情報を教えることに負い目を感じたのか、今度は一瞬躊躇したが友人の住所と氏名を書いてくれた。

 友人の名は薬師寺藍里(やくしじあいり)。

「あの、お願いがあるんですけど、彼女に絶対バレないようにして頂けますか?」

「勿論です。もし身分を確認される場面があっても上手く誤魔化しますよ」

 敢えず瀬戸さんの相談は受けた。今回の案件は時間がかかるかもな。

「この案件は取り敢えず分かりました。ところで瀬戸さん、最近あなたに何か不思議な出来事などは無かったですか?」

 俺はさっき見た現象が異世界者との契約ではないかと踏んでいたが、念のため確認しておきたかったのだ。

「凄い!何か分かるんですか?ニ週間前くらいに不思議な体験をしたんです。あっ!」

 瀬戸さんが話を中断して指差す。その先にミーコともう一人の女性が見えた。背中に小さな羽が生えていて、容姿はエルフのルカリに勝るとも劣らない美しさ。その女性と目が合った。

「初めまして、風の精霊シルフのリアーネです。みくる共々よろしくでございます」

「こちらこそよろしくお願いします」

 書籍などによれば、四大精霊は他に水の精霊ウンディーネ、地の精霊ノーム、火の精霊サラマンダーがいる。折角?なので可能なら全て拝みたいものだ。

8人の会食

「もしかして仙道さんも異世界者との契約を?」

「ええ、そこに居るケット・シーのミーコとと契約してます」

「わたしも説明が省けて良かったです」

 瀬戸さんはニコニコ顔でそう言った。

「善かったねみくる〜」

 リアーネが瀬戸さんに抱きつく。治志とグレムリンの初期関係と違いこちらの関係は良好のようである。

「じゃあ、瀬戸さんは依頼者ではなく契約者仲間、つまり今回の件は仲間からの相談という事で協力させて貰いますね」

「ありがとうございます!わたしも実は仲間が欲しかったもので、とても嬉しいです!」

 どうでもいいけれど頭の中で、ドラ○エIIから使用さている仲間が増えた時のメロディが流れていた。

「源九郎、みくるちゃんのこと泉音と治志に紹介したらどうかな?二人も喜ぶかもだよ」

 ミーコもたまにはいいこと言うじゃないか。瀬戸さんも話した感じ良い人そうだからナイスアイディアかもな。

「みくるさん、いきなりなんだけど今夜空いてるかな?紹介したい人が二人いるんだ」

 手前勝手だが、慣れ慣れしさの切り替えの早さは俺の長所だと思っている。

「今夜ですね。いつも暇しているので大丈夫です」

 みくるさんは良い返事をしてくれた。

 善は急げで、泉音と治志に電話して俺の部屋で会食が開かれる事になった。泉音と治志が会うのも初めてだな。

 みくるさんとリアーネは準備してくると一旦自宅に帰って行った。どうやらそう遠くない所に住んでいるようである。

「会食の買い出しに行かないとだな」

「スーパーへレッツゴー!」

 総勢8人の会食、今夜は賑やかになりそうだ。

 夕方になり、治志、泉音、みくるの順で部屋にやって来た。

 俺以外のみんなは初対面という事でそれぞれ自己紹介。初めは全員が緊張していたが、時間が経つに連れその緊張も解れて既に親近感が芽生えていた。

 異世界者を含めると、この部屋にはなんと5人の女性がいる。凄い!凄過ぎる状況。しかも、全員が美人ときている。天国か此処は。

 今回は特に料理せず、みんなで持ち寄った食べ物や飲み物をテーブルに並べて会食を始めた。

 流石にこれだけの人数がいると部屋がいっぱいいっぱいに感じる。次に仲間が増えたらここはもう無理だな。

 会食が進み俺がほろ酔い気分になった頃、女性陣はこっちの世界と異世界の文化の違いを確認してあーだこーだ盛り上がっている。その中に治志も加わり楽しそうにしている姿を見ると何だかほっこりした。

 グレムリンが存在的に浮いていたので近くにいって声を掛けると、寂しかったのか酔いがまわっているのかでベラベラと異世界の話しを延々してくれたが、異世界の事を深く知る良い機会となった。

インビジブル

 グレムリンと会話を続けていると女性陣の方から、みくる(既に呼び捨て)の友人である薬師寺さんの話をしているのが聞こえて来た。どうやって家を探るのか検討しているらしい。

「おーい女性陣の方々〜。その件について薬師寺さんの家を探るのは俺の役目にしてくれないかな。計画してる事があるんだ」

 みくるに相談を受けてから薬師寺さんの家に潜入する方法は考えてある。

 女性陣は納得してくれたようで、また別の会話で盛り上がっていた。

 治志は未成年なので先に返したが、結局その日は23時頃の解散となった。女性陣が部屋の後片付けもしっかりしてくれたので有り難い。個人的意見だが部屋を提供したのに後片付けもしないで帰る友人は正直不要である。

 話は会食から三日後に移行する、その日の午前中に無限覚醒を発動。“回復魔法”、”精神力UP“、“インビジブル”3つのスキル選択肢が出現。善かった出てくれた。獲得したかったのは“インビジブル”だ。

 無限覚醒が完了して早速スキルを試す。

「ミーコ見ててくれよ」

「あーい」

「ディサピア!」

 俺は確認のため自身の右腕を見る。

「おお!消えてる、消えてるぞ〜!」

 映画などではリアリティを演出する為か、身に付けている物までは消えない設定が多い。だが、このインビジブルは全身に身に付ける物も透明化してくれるようだ。つまり透明化解除時に素っ裸というパターンが無いという事になる。細かい事だけれど、実用する者にとってはこの設定は重要事項。決して作者がミスを犯さないようにする予防的措置ではあるまい…

「どうだミーコ見えるか?」

「見えない完全に消えてる〜。一つ試したいんだけど良いかな〜?」

「お、いいぞ」

「じゃあ、ネコパンチーッ!」

 「ボゴッ」という擬音の直後に俺はその場に崩れ落ちる。

「お、おま、ミ、コ」

 言葉も上手く出せない。男だけにある急所へもろにネコパンチ炸裂。無警戒だったので気絶寸前だ。「物理的には存在してるみたいだね♡」

 ミーコは笑顔でそう言うが笑えねぇ、笑えねぇよ猫娘。

 第三者からも見えない事、やり方は他にいくらでもあっただろうけれど物理的に存在するという検証も済んだ。

「アピア!」

 自身の目とミーコの目により、透明化の解除も無事に成功した事を確認する。

 透明人間になる力を得た者が次に通るべき道は、やはり実戦練習も兼ねてのエロティックなシーン作りであろう。だが昨今では銭湯の数も減り、まだ午前中なので何も思いつかない。何しよう、どうしよう、何しよう、どうしよう…

潜入

 自身の想像力の無さに絶望していた。

 ダメだ何も思い浮かばない…

 例えば何処かの女子寮の集団浴場の更衣室に潜入したとしても、管理人が清掃してるのが関の山であろう。というか覗き見は犯罪です。

 透明人間の力を得た者の義務として何かしなければと考え、焦燥感に押し潰されそうになるお馬鹿な頭を冷やそうとソファーに横になり寝る。無限覚醒の弊害による疲れがあったのだろう、深い眠りから目が覚めた時には夕方になっていた。

 薬師寺家の潜入に備えてちょっとした腹ごしらえに、カルビ丼をササっとと作り相方と共に食す。我ながら味付け最高でミーコも絶賛していた。

「エネルギー充填完了!薬師寺家に向かうぞ!」

「合点承知!」

 時短を考慮してミーコ移転装置に捕まりアッと言う間に薬師寺家の草木生茂る庭へ到着。ミーコは最近勉強して関東の地図なら頭に入ってるらしい。

 みくるに訊いてある程度予想していたが、それを上回る豪邸で庭を含めた広さも半端ない。資本主義社会の勝者だな。

 そんな事より。

「ディサピア」

 透明化する。ミーコも姿を消す事ができるが、これは人間にしか通用しないらしい。薬師寺家に異世界者が居た場合、見つかってしまうのでミーコには此処で待機してもらう。

 さてと、何処から潜入するべきかな…

 探しても入りやすそうな箇所は見当たらない。そりゃそうだ。鍵が空いてて入りやすい家の方が逆に怖いわ。

 そんな折、一台の高級車がだだっ広い庭を通り抜けて豪邸正面ドアの方へ向かっているのが見えた。このチャンスを逃す手はない。

 そちらの方へ音を殺して走り寄る俺。

 玄関ドアが開きメイドさんが現れた。

 高級車が停まり豪邸の主っぽい貫禄ありありの人が出て来る。

「お帰りなさいませ御主人様」

「うむ、ご苦労さん」

 俺はこのやり取りの間に玄関へ滑り込んでいた。

 目の前には映画でしか見た事のない景観が。なんだろう余りにも凄すぎて感動すらしてしまう。普段見ている建築物と比較するともはや別世界。

 おっと見惚れてる場合ではない。薬師寺藍里さんを探さなければ。

 彼女の顔はみくるに送信してもらった画像で確認済みである。

 この豪邸は4階建、お金持ちの娘が居る部屋は最上階の中央付近と相場は決まってる…はず。

 エレベーターも付いているが、流石にエレベーターが勝手に動いてるのを見られたらまずいだろ。という訳で螺旋階段を使って一気に4階まで駆け上がった。

 この階には部屋のドアが6つある。どれが正解の部屋なのだろう。危険性は高いが手当たり次第にノックしてみるか!?

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