ジーナは驚き戸惑っていたものの、直ぐに冷静さを取り戻す事に努めた。
深呼吸をして息を整え、赤ん坊が目覚めないようにセトを起こす方法を考える。
セトの後ろに回り込み、起きて声を上げないよう口に手をそっと添えトントンと軽く肩を叩いた。「ジ、モゴモゴ…」
セトはハッと目を覚まし「ジーナか?」と声を出そうとしたが、添えていた手で口をグッと抑えられ声を出せなかった。
「シ〜。あなたの膝の上を見てちょうだい」
「モゴ」
ジーナが一差し指を自分の唇に当て囁き声で促す。
「モゴッ!?」
驚きを表すには十分過ぎるほどセトの目が見開かれた。「いい?手を離すから大きな声は上げないでね」
セトがコクンと頷くと、ジーナはそっと手を離し静かに問いかける。
「あなた、この子は何処から連れて来たの?」
「…いや分からん。俺はコーヒーを飲んだあとここで寝ていただけだ。この子が膝の上に乗ったのも全く気付いてない」
セトは寝起きという事もあり混乱気味であったが普通に説明できた。
「そうなのね…ともかくこの子がゆっくり寝られる場所に移しましょう」
子供のいない二人の家には、子供が生活するために必要な備品は当然一切無い。
ジーナは近くにあった木の皮を編んで作られた洗濯籠の中にクッションを入れ、即席のクーファンを準備する。
「あなた、この中にそっと入れてあげて」
セトは赤ん坊が起きないようにそっと抱き上げてクーファンに移す。
ジーナは厚手のタオルを持って来て、裸の身体に優しくかけてあげた。
二人はクーファンから少し距離を取り、忽然と現れた赤ん坊について話し合う。
「念のためにもう一度言っておくが、俺は昼寝していただけであの子の事は何も分からんよ」
「分かってるわ。あなたが何処からか連れて来るなんて少しも思って無いから安心して」
ジーナがセトを疑う気持ちが全く無いのは本心からだった。それは15年という平穏な結婚生活の根拠があるからに他ならない。
「ありがとう。君が信じてくれて安心したよ。でもあの子は一体何処から来たんだ?」
「ん〜、ちょっと冷静になって考えてみましょう」
一時の間二人は互いに考え込み沈黙した。
「ちょっと地下室を見て来るよ」
セトが何か思いついたのか地下室に向かおうとした。
「待ってあなた、わたしも行くわ。アレを確かめるのね」
「そうだ」
二人で地下室へと降りて行き、山から持ち帰った物体を確認する。
正体不明の物体は歪な形で破れていた。
「やっぱりこれだったか…あの子はたぶんこの中から出て来たんだよ」
「そうかも知れないわね。不思議な事もあるものだわ…」
夫婦は困惑しながら抜け殻となったそれを見つめていた。
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