覚醒屋の源九郎     89~93話

覚醒屋の源九郎

六災竜ヴァルカン

「すまんすまん、やり過ぎた。そう怒るなって」

「そりゃ怒るじゃろ!交渉も何もあったもんじゃないわい!」

 もはや謁見の間は大地震でもあったあとのような散々な有様となっていた。

 そんな状況の中、部屋の扉を荒々しく開けてカルンが王の下へ駆け寄る。

「ダリク様失礼します!緊急でお知らせしなければなりません!」

「そんなに慌ててどうしたのだカルン。こちらも大変な事になっておるが」

「六災竜のエンシェント・ドラゴン、火竜ヴァルカンが突如として現れ城下町で暴れているのです」

「まさか!?エンシェント・ドラゴンだと!?」

 ダリクの顔が急速に蒼ざめる。

 精霊妖精界にはドラゴンが存在するのだが強さ的な階級があり、普通の強さで最底辺のドラゴン、その倍の強さを持つエルダー・ドラゴン、更にその2〜5倍の強さを持つエンシェント・ドラゴンだ。

 エンシェント・ドラゴンはこの世界に全部で6頭現存し「六災竜」と呼ばれ、それぞれ光、闇、火、氷、水、風の属性がある。中でも光のエンシェント・ドラゴンが抜きん出て強く最強とされている。

「この猿は捨て置け!総動員でヴァルカンに当たるのだ!」

 ダリクが命令を下すと全員が素早く外に飛び出して行く。

 謁見の間にはダリクと太公望、悟空の三人だけが残った。

「おぬしらの様子からしてそのドラゴンはかなりヤバそうじゃのう?」

 太公望の問いかけに災難の続く王が頭を抱えながら返す。

「ヤバイなどというレベルではない。運が悪ければ1時間と経たぬ内にここら一帯は焼け野原となるだろう」

「そうか…」

 何かを思いついたのか太公望が不敵な笑みを浮かべる。

「ダリクよ。ものは相談なんじゃが、わしと悟空でドラゴンを打ち倒した暁には、悟空を免罪として、今後は友好的関係を結ぶという約束は出来んもんかのう?」

 王の表情が固まる。どうやらゴチャついた頭の中で検討しているようだ。

「その猿は確かに強い。だが相手は六災竜のエンシェント・ドラゴンだ。こやつでも果たして相手になるかどうか…」

「やってみなければ分からんよ。それとも、おぬしの部下や国民が皆殺しになっても善いのか?」

 王の表情は悲壮感すら漂い始めていた。

「…よかろう、もしドラゴンを倒す事が出来たなら、その猿を免罪とし友好的関係を結ぼうではないか」

「まさか二言はないじゃろうのう?」

「ない!このアザーム王ダリクの名にかけて誓おう!」

 太公望がニヤける。

「行くぞ悟空!」

 悟空が去り際にダリクに向かって言う。

「相手が何であろうとこの斉天大聖孫悟空様が倒してやるよ!」

 二人は城下町へと駆けて行った。

 だが、勢い良く外に出て町の光景を目の当たりにした二人は衝撃を受ける。既に町の半分が焼け野原となり、その中央で暴れているドラゴンの姿がアザーム城と同等の大きさの巨体をしていたからだ。

竜の鱗

 ヴァルカンの周囲ではダークエルフを始め、アンズー、ナイトゴーント、パックの各種属も参加し、正にアザーム王国国民総動員で戦闘を繰り広げていた。


 ダークエルフは魔法、アンズーは雷撃、ナイトゴーンは針攻撃、パックはこん棒で直接攻撃といった具合いで攻めはているが、ヴァルカンに効いている感じが全くしない。

 これは全てのドラゴンに共通している事だが、身体を覆う強靭な防御力持つ竜の鱗にある。

 普通のドラゴンの鱗でも下手な攻撃では弾き返されるほどの硬度があるのだ。

 それがエンシェント・ドラゴンともなると想像を絶する硬度になる。

 加えて六災竜は魔法が使えた。もちろん属性による得て不得手はあるが、火属性の火竜ヴァルカンなら火属性最強クラスの魔法を使える。

 口から吐く炎の威力も相当なものだ。既に半壊した城下町はヴァルカンの吐く炎によるところが大きい。

「これは予想を遥かに超える大物じゃのう」

 太公望が冷や汗を掻いている。

「ああ、オレもここまで大きいやつとやり合うのは初めてだ」

 悟空でさえヴァルカンの姿を見て恐怖心を感じているようだ。

「ほう、おぬしでも臆す相手がおるんじゃのう?」

「オレだって相手を見れば、強さがどれほどのものかある程度分かるさ。で、何か対策は考えてるのか?」

 相手が自分より強大である場合は、真っ向勝負をしても勝てる確率はかなり低くなる。ここは太公望の計略による奇襲的攻撃に期待したいところなのだ。

「情報が欲しい…觔斗雲で奴の頭上をグルグル回ってくれぬか?」

「よし来た!」

 素早く觔斗雲を呼び寄せ二人はヴァルカンの頭上へと向かう。

 アザーム軍は果敢に攻撃を続けてはいるが、中途半端な攻撃ではダメージを与えるは出来ない。逆に次々と犠牲者が出る一方であった。

「悟空よ奴の鱗が無い部分を探すのじゃ」

「ああ、分かった」

 最初の注文通りヴァルカンの頭上を中心に周囲をを飛び回る。

 直ぐに太公望がある事に気付く。

「ちっ、こやつ小さな声で魔法の詠唱をしておる。やばい魔法が来るやも知れん一旦離れるぞ!」

 二人はヴァルカンに近いアザーム軍兵士達へ向かって叫ぶ。

「全員引けーーーっ!とんでもない魔法が来るぞーーーっ!」

「とにかく此処から急ぎ離れるのじゃ!」

 声が余り届いていないのか、必死に叫ぶも兵士達の反応が鈍く動きが遅い。

 回避するには到底間に合いそうにない。

「悟空、上を見よ。魔法が具現化しつつある」

「マジか!?どうする?」

「わしが今から宝貝を上に投げる。その宝貝事態を全力の神通力で巨大化させるのじゃ」

「ああ任せろ」

 太公望は宝貝を巾着袋から取り出し、魔法が具現化している方向へ真っ直ぐ投げる。

 すかさず悟空は右手の人差し指どう中指を額に当て、投げられた宝貝に神通力をかけた。

混元傘(こんげんさん)

「滅っするがいい、アグニテラフレア!」

 ヴァルカンが詠唱を完成させ炎系最強クラスの魔法を放つ。

 この世の終わりの様に上空が地獄の炎で真っ赤になり、その炎が高速で城下町に降り注がれようとしていた。

「カッ!」

 悟空の神通力で宝貝が巨大化して一気に広がり上空を覆う。

 太公望が投げた宝貝は混元傘(こんげんさん)。全ての攻撃を跳ね返す宝貝だ。

 魔法と城下町の間に挟まる形となった混元傘にアグニテラフレアが降り注ぎ直撃する。

 跳ね返すかと思いきや、魔法の威力が強大過ぎて少し押され気味だ。

「この野郎!ダーーーーッ!」

 悟空が更に宝貝へ神通力を加えた刹那。

「ヴァリヴァリヴァリーーーッ!」

 とてつもない爆音と共に魔法が弾き返された。返された魔法は星の彼方へと飛んで行く。

「な、何とかなったのう。ナイスじゃ悟空!」

「へへ、成功したな。神通力を解いてあの宝貝を回収するぞ」

 神通力の効果が切れ、元に戻った混元傘が落下するところを觔斗雲を飛ばして太公望が上手くキャッチする。

 ヴァルカンが首を回し二人を凝視した。

「貴様らよくも邪魔してくれたな」

 口の動きは微妙だが声はハッキリと聞こえる。

「ほう、ドラゴンは話す事が出来るんじゃのう?」

「カカカ、言語が使えるのはエンシェント・ドラゴンに限るがな」

 会話が出来るのなら…交渉して解決する可能性を太公望は考えた。

「おぬし、どういう理由があってこの国を襲う」

「簡単な事、近くの山がワシの寝床だ。最近はこの国の者どもが宝石を発掘しようと山を騒せる。静寂を取り戻しに来たまでよ」

「眠りを妨げてられて憤慨しているのじゃな…」

 何処かで聞いた話にそっくりだと太公望は思った。

「もうこれだけ国を破壊して満足したのではないか?この国の者どもには山に入らぬようわしが説き伏せる。ここは山に戻ってもらえんかのう?」

「カカカ、それは絶対にあり得ぬ。ワシはこの国を滅ぼすと決めたんだ!」

 言い終わると同時に太公望目掛け炎を吐き出した。が、警戒していた悟空が觔斗雲で素早く動き間髪かわす。

 そこへジオンが飛んでくる。

「大丈夫か太公望?」

「お、ジオン生きておったか。わしは大丈夫じゃよ」

「そうか良かった。我らの軍は被害が甚大でズタズタだ。お前らが参戦してくれるのなら残った我らはどう動けば良い?」

 太公望は一考して直ぐに返す。

「おぬし達も含めて国民を遠くへ避難させてくれぬか。アレはわしと悟空で何とかする。悪いが中途半端な戦力では役に立たんからのう」

「ここに居ても役に立たないのは奴と戦って十分理解している。悔しいがそうさせてもらおう。すまんがお前らにこの国を託すぞ」

「今回ばかりは保証できんが、やるだけやってみるわい。早う行け」

「猿もすまん!頼んだぞ!」

 二人に頭を下げ、ジオンはその場を去った。

爆発

「まさかアイツがオレに頭を下げるとはな」

「それだけこの国がピンチという事じゃ」

「次はどうする?まだ交渉するつもりか?」

「ヴァルカンは知能が高いから嘘は通じんし、交渉するメリットも無いからのう…」

 話している間にまた炎が襲って来る。

 悟空が觔斗雲を素早く動かしかわす。

「悟空よ一時目を瞑れ!取り敢えずこれで時間稼ぎじゃ!」

 太公望はヴァルカンの目の前を狙って雷光玉を投げた。

「パーン!」

 音を立てて雷光玉は破裂し強烈な光を放つ。

「ヴォ!」

 ヴァルカンは近距離でその光を直視したため目を開けられずにいた。

「今じゃ悟空!」

「おお!」

 真上から頭上を狙い猛スピードで垂直に突っ込む!

「おりゃ喰らえーっ!」

 神通力を使って強化した如意棒を脳天に渾身の一撃を繰り出す。觔斗雲のスピードも加わって破壊力は抜群!

「ギャゴーーーーーーーーン!」

 鉄壁な竜の鱗にヒビは入れられたが貫けはしなかった。だが、衝撃波がヴァルカンの身体を上から下まで通り抜け地面に到達する。

「ヴァオオオーーーーーーッ」

 この戦いで初めてダメージを受け叫ぶ。

「これは効いただろ」

「ああ、効いておる。その調子じゃ…悟空!今すぐここを離れるぞ!」

 ダメージを受けた瞬間に竜の鱗の隙間から猛烈な勢いでガスが噴き出ていたのだ。

 そのガスに引火させようとヴァルカンが炎を吐く。

「ドゴォーーーーーーーーン」

 大爆発が起こり、城下町はその凄まじい威力によりほぼ全壊してしまった。

 間に合わないと判断した太公望が宝貝、霧露乾坤網(ムロケンコンモウ)を咄嗟に取り出し水のバリアを張って、ノーダメージでは済まなかったものの何とか耐えきった。

「化け物め、城下町を吹き飛ばしおった」

「許せん。あの飯屋まで無くなってやがる」

 アザーム城も城の形は残っていたが、外壁はボロボロに崩れ酷い有様になっている。

「まさかダリクは逃げ遅れておらんじゃろうのう」

「太公望、人の心配は後回しだ。あの野郎こっち見てまた詠唱してやがる」

 と言ってる間にヴァルカンの魔法が具現化した。

 とてつもなく大きな球状の炎の壁が二人を囲み閉じ込める。

「耐えられるか分からんがもうこれしかない。おぬしも強度の増加に協力するのじゃ!」

「おう!」

 霧露乾坤網を再度使用し水のバリアを球型に張り守りを固めた。

「逃げ場はないぞ!フレア・エクスプロージョン」

 囲んでいた炎の壁が中心へ向かい圧縮する全方位攻撃。炎系最強クラスの魔法が再び二人を襲う。 攻める炎と守る水の図式。

「た、耐え抜くぞ!悟空!」

「グッ、分かってらーーーっ!」

 全力で耐え続ける二人であった。

盤古旛(ばんこはん)

「今から霧露乾坤網を攻撃モードに切り替えてこの魔法を蹴散らすぞ。悟空手伝え」

「神通力を加えてやればいいんだな」

「行くぞ…ほれ!」

「ジュバババーーーッ!」

 水のバリアで耐える一方だったが、バリアを解き攻撃モードに切り替え、二人を中心に水を爆発させる。

 神通力の力も加わり、残りの魔法を消滅させる事に成功した。

 流石に二人の息は上がっている。

「ハァハァ、悟空よ觔斗雲をもう一つ出せるかのう?」

「だ、出せるぜ、待ってろ」

 悟空は觔斗雲の一部をちぎり「フーッ」と息を吹きかける。

 すると、小さかった觔斗雲の一部がモクモクと大きくなり普通サイズまでになった。

 新しく生まれた觔斗雲に太公望が飛び移る。

「悟空よ、長期戦になればわしらに勝ち目はない。わしが奴の真上に行き宝貝で動きを封じるから、奴の目を狙って攻撃するのじゃ。チャンスは一度しか無い、頼んだぞ」

「ああ分かった、オレ様の全力をぶつけてやるよ」

 作戦を伝えた太公望は、觔斗雲でヴァルカンの真上に向かった。

 悟空は腕の毛をむしり取り、息を吹き掛けて10体ほどの分身を作り出し囮として向かわせた。

 ヴァルカンは悟空の分身に対して炎を吐いて応戦し少しずつ数を減らしていく。

「ふぅ、わしの最大の見せ場じゃな」

 太公望の周囲に黒い球体の物体が浮遊している。この宝貝は仙人界出発時、元始天尊から預かった盤古幡(ばんこはん)だ。

 重力により相手に負荷を掛け、潰してしまう宝貝である。

「おりゃ!重力1,000倍じゃ!」

 段階的に重力を上げず一気におしていく。1kgの物体が盤古幡により1,000倍の1tになってしまうのだ。ヴァルカンの重量がどれくらいあるかは不明だが、掛かる負荷は計り知れない。

「ズズズズズズ!」

 身体が1,000倍もの重さになったヴァルカンは腕一本すら動かせない。立っている地面が重さに耐えきれず下へ沈んで行く。

「ヴァオオオオーーーーッ!」

 ヴァルカンが吠える。

「悟空!今じゃ!早よせんとわしはもうもたん!」

 宝貝は使用者の生体エネルギー的なものを吸収してその効果を発揮する。盤古幡はその発動する効果が絶大なために、使用者の気や体力の消耗も激しいのだ。

「おっしゃ任せろーーーっ!」

 分身を囮で出した後、悟空は攻撃に加える速度を最大にしようと考え、離れた場所から様子を伺っていたのである。実は太公望からGOサインが出る前に動き出していたのである。

 既に音速を超えた悟空と觔斗雲は一つの大きな火の玉と化し、ヴァルカンの左目を狙って一直線に向かって行く。

「おおおーーーーーーーっ!!!」

「ブシュッ!ズガァーーーーーー!!!」

 悟空が如意棒を使い全神通力をぶつけた攻撃は、遂に六災竜ヴァルカンの左目を潰し、脳を破壊し内側から竜の鱗を貫いた。

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