覚醒屋の源九郎     1~5話

覚醒屋の源九郎

なんだかなこの人生

 プロローグより遡ること1年。 

 からの1年前、20年以上勤めていた会社が突然倒産してしまった。

 原因は考えるまでもなく明らかで、「コロネ」と呼ばれる新しい感染病が起こした経済の冷え込みによる経営破綻である。

 定年退職するまで何となく働き、退職後の余生も何となく過ごすつもりだったのだが…

 朧気な想像しかしていなかった俺は、一瞬で職を失うというトラブルに上手く対処する事が出来ずにいた。

 この1年で何度面接を受け、何度「ご縁がなかった」と通知を受けた事だろう。15回までは覚えているが、それ以降数えて覚えるのは止めてしまった。

 なかなか仕事に就く事が出来ず、社会への敗北感や疎外感やらを勝手に感じてしまい、ストレスが溜まりに溜まりご乱心モードに凸ってしまう寸前の俺である。

 「はぁ〜、ふぅ〜」 夕暮れ時の川原の土手に座り込み、川の流れをぼ〜っと眺めながらタバコを一本。

 そして思う事は「もう人生の潮時かな」などであり、完全にネガティヴ思考のスパイラル状態だ。 そんな感じで暫く俯いていたのだが、視界に入らずとも強烈な光がを脳に感じて顔を顔をゆっくり上げると…

 直径1mほどの光の玉が、俺の目前3mほどで上下にユラユラと揺れながら浮いているではないか!「おほーっ!これは定石通りだとちょっと抜けた美しすぎる女神様が現れるアレですなぁ〜っ!」

 寸前までドン底だった俺の心は秒で、否!秒もかからない速度で高揚感MAXに達したのである。

 光の玉は俺の頭上10mほどの高さまで浮上したかと思うと、その刹那、足元の地面にズボッと突っ込み見えなくなった。 その地点から女の子の声が聴こえて来る。

「タイガ〜…アッパ〜…」

 ???、俺の思考が完全に停止した瞬間、

「カットーーーッ!!」

「ふべっ」

 地面から飛び出した何者かに、意識を失うかと思うくらいのパンチを下顎に貰い受け、情けない声を上げた後、ガクブルな膝をストンと地面に落とし、次いで両手も地面に着け土下座状態になってしまっていた。

 そんな中、めちゃくちゃ元気な声で呼び掛けられる。

「初めまして〜!ケット・シーのミーコです〜今後ともよろしく〜」

 俺の思考は完全に停まった…

ミーコ

 俺は土下座状態で放心し、鼻血をタラタラと垂れ流していた。

 ケット・シーのミーコとやらが更に続ける。

「う〜ん、もちろん勘違いされてるとは思うけれどもぉ、さっきのは儀式なんだからね〜」

 目視で姿を確認するため、鼻を押さえながら声のする方に顔を上げてみた。

 そこには定番の女神様ではなく、幼女…例えるならFF9のエー○に近い様相を呈した少女が立っていた。ケット・シーと言っていたか、しっかり猫耳と尻尾も付いている。

「うんうん分かった分かった、つまりさっきの殺人パンチはお前にとってハグの様なものなんだな」

 俺は会話の出来る状態ではあるようだ。

「いやいやハグじゃなくて儀式なんだってばぁ、人間界で言うところの契約ってやつなの!」

 確かこいつはタイガーアッパーカットという何処かで聞いたことのある必殺技名を叫んでいたが…「ほほぅ契約ってのは激しい痛みを伴うものなんだな〜、まぁそれは良くはないが良しとして、俺がお前とどんな契約を結んだんだ?」

 ミーコはニコッと笑顔を見せて、

「簡単に分かりやすく言うなら婚姻契約みたいなものだよ〜」

 頭に電撃が走る。

「すまんが分かりやすくないし混乱する一方なのだが…」

 ミーコは人差し指を唇に当て一考しているようだ。

 数秒後に口を開き、

「細かい説明は追々するとして、まずは鏡で自分の顔を見てみようか〜!そしたら少しずつ理解して貰えるかも♡」

 するとミーコは腰のあたりから鏡を取り出し俺に向けた。

大爆発!?

 俺は向けられた鏡を覗き込む、

「こ、これは!?」

 鏡に映る自分の姿を見て思わず声が出た。

 少し白髪が出始めていた髪は真っ黒に、肌も艶のある感じで目元のシワもすっかり無くなり、つまりはすっかり昔懐かしい20歳前後頃の自顔が写っていたのだから、当然といえば当然である。

「ね、びっくりしたでしょ〜。まぁでも、この若返り効果は儀式をした時に稀に発生する副産物的なものでしかないんだけどね♡」

 ミーコは楽しそうにかつ自慢気にに説明して続ける、

「じゃあそろそろ浮き上がってるはずだから、袖をまくって右肩を見せて貰えるかな?」

 半信半疑な心持ちで、俺はゆっくり右肩が剥き出しになるまで服の袖をまくった。

 すると右肩に直径10cmほどの見たこともない紋章のようなものが黒色のタトゥーとなって現れていた。

 それを見たミーコが即座に辞書的なものを開き何やら調べ始める。

「何が出てきたかな〜♡」

 しかし、最初は笑顔でペラペラとページをめくっていたミーコの表情が徐々に曇っていく、

「ない、ないないないないないーっ!?」

 こちらに焦りが伝わるほどの焦燥感がミーコの表情から読み取れたが…ページをめくる手がピタリと止まり、

「ま、ま、まさかーっ!」

 突然ミーコは本の最終ページ付近を開き、

「あったーっ!!!あったあったあったーーーっ!」

 古臭い表現かも知れないが、ここまでのミーコの発言はケンシ○ウが敵を攻撃する時のアレだな…などとどうでも良い思考に至っていると、

「遂に来たーーーっ!安定Cの大爆発!源九郎!超おめだよ〜♡」

 ミーコの言動から、宝くじ1等当選級の出来事が起こったように感じられた。

Sランクスキル「無限覚醒」

「ちょっと説明させてね♡」

 俺は最初に受けたパンチの痛みも忘れて、ミーコの一挙一動に全集中せざるを得ない状況に陥っていた。

「さっきの儀式は私と源九郎の絆を深める意味合いと、もう一つ重要な意味があってそれはぁ…ランダムで一つ特別なスキルを与えることが出来ちゃうってとこなんだよね〜」

 なるほどなるほど、さっきのお調べタイムは俺が授かったスキルを識別するためのものだった訳だ。「でねでね、神、天使、悪魔、妖怪、モンスター系なんかの全種族は、DからSの5段回でランク付けがあるんだけど、何を隠そう悲しいかなケット・シーはDランクなんだよね〜」

 まぁ普通に考えてゼウスや天照あたりがSランクとするならば、ケット・シーがDランクなのは妥当か高評価だと思うのだが、敢えてここは言わずにおいてやろう。

「ケット・シーが人間に与えられるスキルは通常だとD、C、良くてもBランクなんだよね〜。でもでも源九郎に備わったスキルはなんとぉ!Sランクなのでーーーす!」

 ミーコは俺の顔をビシッと指差し続ける、

「スキルの名は“無限覚醒”!本人はもちろん、他人や様々な生き物の能力を覚醒させることが可能な使いようによっては神の能力にも匹敵するスペシャルなスキルなのでーっす!」

 ついさっきまで「人生も潮時だな」と思い込むほどドン底だった俺の心は、突然現れた猫娘に翻弄され、半信半疑ながら訳の分からない高揚感で満たされていた。

帰り道

「ところで、俺達の付近を歩いていく人達の目線が結構やばめなのだが猫娘よ、もしかしてお前は他の人には見えてないのか?」

「もちのろーん!今は表見モードオフ状態だよ〜」

 ふむふむ、ここまでの俺の動きや言葉は全て一人芝居として人々の目に映っていたわけか…頭のおかしなヤツ炸裂だな!?

「ミーコよ、話しの続きはウチに帰って聞こうと思うがOKか?」

「おかしな事を言うね〜、これからながぁ〜いこと寝食を共にするんだから当たり前だよぉ。早く源九郎の部屋を見てみたいな〜」

 また心臓の止まるような事をさらりと言われてしまった。幸いなことに、俺はこの年齢まで未婚で現状は彼女もいない。格好良く言うならば独身貴族というヤツだ…否っ!今は貴族の部分は完全に消えてしまって、新たに「貧民」の文字が入って「独身貧民」ではないかぁぁぁ。

「まぁ良いさ、ミーコよついて来い」

「あ〜い♡」

 帰り道を歩き出した頃には、夕日が綺麗に沈みかけていた。

 ミーコは俺の横でフワフワ浮遊してついてくる。

「さっき聞きそびれたが、表見モードにオフがあるならオンもあるんだな?」

「そうだよ〜、オフの時は源九郎以外の人間には見えないし声も聞こえない。オンにするとみんなに見えて声も聞こえちゃうんだよね。あ、これは人間以外の全種族が持ってる対人間専用能力なので悪しからず〜」

 本題のどういう目的があって、何故に俺を選択したのかという質問は後でゆっくり聞くとして…対面の通りすがりの人の目が心に刺さる。

「ミーコ、ここからうちに着くまでの間は沈黙でよろしく」

「OK♡」こうしてうちに着くまでの間、俺とミーコは本当に一言も喋らず黙々とただ黙々と歩いたのである。

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