覚醒屋の源九郎     71~73話

覚醒屋の源九郎

全力

「ライトニング!」

 聞仲に向かって光の球を放つが当然の様に金鞭に叩かれ閃光炸裂。

「スモークミスト!」

 続けて煙の霧で標的の周囲を包み見込む。

 目眩しのニ段構えだ。

 俺は飛躍的に向上した跳躍力で空中に高くジャンプする。

「アイスアロー乱れ撃ち!」

 数十本の鋭利な氷の矢を標的に向け解き放つ。何発か当たってくれれば勝利へ近づける。

 ここまで魔法の3連発。

 自画自賛だが、低級魔法とはいえ詠唱なしで放てる俺だからこその芸当だ。

「インビジブル!」

 念には念を。現在使用可能な技を全て出しきって一気に攻める。

 金鞭が煙を振り払い氷の矢を粉砕していたが、聞仲のダメージと体力の消耗が影響してか、氷の矢が左脚に1本と右腕に一本突き刺さっていた。万全の状態なら全てかき消されていたかもだ。

「若造!奇襲はもはや通用せんぞ!」

 聞仲が叫ぶと金鞭のスピードが加速し、持ち主の周りを竜巻状に動く。八岐大蛇(ヤマタノオロチ)が回転して暴れているかの様に。

 既に懐直前まで接近していた俺は、今度こそタダでは済まなかった。

 背中から始まり、金鞭が全身を容赦なく鞭打つ。激痛に襲われインビジブルも強制的に解けてしまった。

 妖気の羽衣を発動させていなければとっくに倒れていただろう。

「でもな、こんなとこで終われないんだよ…っりゃーーーっ!」

 村正を上から下へ捨身で振り抜いた。

「ザシュッ!」

 金鞭を握っていた聞仲の右腕を肩の辺りから切り落とす。

 恐るべき攻撃力と速さで暴れまくってくれていた金鞭も、右手から離れ大蛇が力尽きたかの様に静かになった。

 聞仲は切り落とされた右腕に目を向けて、放心して固まっている。

「ヘヘへ…流石のあんたも顔から余裕が消えたな」

 俺もボロボロになったが聞仲ほどで傷だらけでは無い。

「ク、ククク…」

 コイツ、笑ってるやがるのか?

「私が貴様らを見くびり、ここまで追い詰められてしまった事は認めよう。実際、貴様らは想定していたよりも遥かに強かった」

 お、潔い。なかなかの男っぷりじゃないか。俺もコイツを褒めて遣わすかな。

「そうだろそうだろ。お前も大したもんだったよ。思いの外タフだったしな」

「だが最後に勝つのはこの聞仲だ」

 そう言って転がっている金鞭を残った左手で拾い上げた。

 あ、やっぱりまだやるんすね。

 こちらとしては、さっきのセリフから戦闘終了を着地点として欲しいところだった。

 ん!?不思議な感覚が突然芽生える。

 両サイドの壁の距離が縮まり、道幅が狭まったような気がする。いや、さっきまでの空間がおかしかったのか?…

 それはさておき俺の体力と魔力はもう限界に近いが、頑張ってくれたミーコのためにも、最後の力を振り絞って大金星の快挙を達成しないとな。

 だが俺の思惑とは裏腹に、この死闘は全く予想していなかった結末を迎える事となる。

ダークエルフ

「若造、これで終わりだ!」

 聞仲が左腕に力を込め金鞭で攻撃を繰り出そうとしたその時。

「ウォーターボックス!」

 俺の後方から女性の叫ぶ声がした。

 誰だ!?ミーコの声じゃない。

 後ろを振り返ると人影が近づいて来るのが見えた。

 おっと余所見している場合じゃない。

 サッと聞仲の方を確認すると、大きな箱型の結界のようなものに閉じ込められていた。箱の中は水でいっぱいに満たされていて動きを封じている。

 このまま放って置けば窒息死してくれるのでは?と淡い期待感がを持った刹那。

「パシーン!」

 水玉が破裂するような大きな音がして、水の箱は一瞬にして弾け飛び消滅してしまった。もう何が何やらである。

 聞仲が地に着いた膝を上げ、立ち上がろうとする側へまた何者かが現れた。

 肌が黒く人間に近いが人間ではない美男子の様相を呈している。

「聞仲様、私の異空間は解いてしまいました。失礼ながらそろそろ引き時ですよ」

 言われた本人はイラついたのか、キッと睨みつけたが美男子は同時ない。

「フッ、仕方ないな。私の油断が招いたこの哀れな状況…今回はお前の意見を取り入れよう」

「痛み入ります」

 二人のやり取りが終わり、美男子が転がっている聞仲の腕を拾い上げ俺の方を向く。

「我が名はダークエルフのイバシュ。此度の闘いはいずれまた決着をつける事となろう。貴様らの顔は覚えた。次はこうはいかぬ覚悟しておけ」

 そう言い残し、ダークエルフのイバシュと聞仲は目の前から風のごとく消えてしまった。

 俺は緊張感から解放されヘナヘナとその場に崩れ落ち正座する形になる。

「君、大丈夫?」

 後ろから声を掛けられ振り向くと、見覚えのある女性が立っていた。

「あ、マッサージ師の…えっと神坂さん?」

 先週マッサージ店で神技マッサージをしてくれた人だと思い出す。

「仙道さん覚えててくれたんだ。嬉しいなぁ」

 救いの女神だ。初めて会った時以上に美しく見える神坂さんだった。

「ちょっと〜、危ないとこ助けてあげたんだからお礼くらい言ってよね」

 ミーコが云ってた四大精霊のウンディーネだな。透き通る衣服のためか、露出度が高いような気がするがこれまた美人だ。気が強そうな顔ではあるが…

「あ、ありがとう、助かったよ」

「ウンディーネのナーラよ。今後ともよろしくね」

 笑顔が素敵なツンデレキャラだ。

 そう言えばミーコは無事か!? まだ倒れたままのミーコの側に慌てて駆け寄る。

 居た。

 良かった無事だった…

 トランスの影響で疲れ切っている事だろう。起こさずに暫く寝かせてあげようか。

神坂雫&ナーラ

 さて状況整理をせねば。

「ところで、神坂さんとナーラさんは何故この場所に?」

 問うと神坂さんとナーラさんは何やらゴニョゴニョと二人で話し始める。

 話がまとまったのか、神坂さんが答えてくれた。

「え〜っとね。買い物帰りに歩いてたらこの付近で人間と異世界者が闘ってる感じがするってナーラが教えてくれて、二人でこの路地裏に入ろうとしたんだけど、路地裏の中がさっき居たダークエルフの造った見た目は普通の路地裏なんだけど異空間の壁みたいなのがあって入れずに…」

 そうか、イバシュってやつが異空間を解いたって言ってたのは俺と聞仲が闘ってた空間の事だったのか。

 さっきは聞仲に集中し過ぎていたからか、残念ながら異空間の中だったとは1mmも気付かなかった。

 道幅が急に狭く感じたのは異空間が解けた時で、異空間の中で闘ってたからあれだけ激しい戦闘をしても人が集まって来なかったんだな。

 神坂さんが続けて話す。

「歯痒買ったけど手前でずっとそわそわしながら待ってたら、何か音がして急に異空間の壁が消えて無くなって、やっと此処までで駆けつけて来れたんだよね」

 女性なのに危険から逃げるどころか逆に飛び込むのは凄い勇気だと素直に思う。

 泉音やみくるでもそうしただろうけれど…俺のまわりは強い女性が多いな。実に頼もしい限りである。

「あれ?でも神坂さんて、俺が妖精との契約者だって知ってたんですか?」

「仙道さんがお店を出た後でナーラが教えてくれたの」

「なるほど」

 ミーコが気づいてたからナーラさんも同じように気付いて不思議はない。

 折角なので質問を続ける。

「さっき聞仲を閉じ込めたのって魔法ですか?」

「魔法に近いけど魔法とは少し違って、水の力とでもいうのかなぁ。まだちゃんと理解してないのよね」

 みくるはシルフの風の力を受け継いでた。んで、神坂さんはウンディーネから水の力を受け継いでいる。四大精霊との契約者は精霊の力を受け継ぐ傾向があるのかも知れないな。あ、でも確認は必要だけれどノームのファムとの契約者である薬師寺藍里はサイキッカーだったような…

「仙道さん、いい機会だから契約者同士という事でお友達になれないかなぁ?」

 一人で長考に入ろうとした俺に神坂さんからの唐突だけれど願ってもない申し出。

「こちらこそお願いします!改めまして仙道源九郎です。源九郎って呼んでください」

「OK、わたしは神坂雫(こうさかしずく)。雫って呼んでね源九郎。あと敬語はお互いに使用しないという事で」

 新しい出会いがあると互いの呼び方や話し方で迷ってしまうケースが多い。だから、積極的に最初からこんな風に言って貰えると非常に助かる。

 そのあと雫と照れながらも握手を交わし連絡先まで交換した。

 水の力には一部癒しの力があるらしく、俺とミーコの回復までしてくれた。

「じゃあまたね〜」

 笑顔で手を振りながら去って行く雫とナーラ。

 まだ熟睡中のミーコを背中におんぶして我が家へ帰る俺であった。

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