風使い
昼食の片付けを済ませ30分程休憩したあと、さあ本題の修行開始!
そう言えばみくるの能力ってなんだ?初めてみくるを見たと時は勝手に「スピード女王」って思ってたけど。
「今更だけれど、みくるが得た能力って何なんだ?」
「ああ、言ってなかったっけ。“風使い”ってスキルだよ」
「みくるにはシルフの能力がそのまま出たみたいなんです」
リアーネが付け加えてくれた。
「試しに何か見せてくれないかな」
「オッケー!初お披露目トルネード!」
顔面に強風が当たり目の前に風のつむじが発生したかと思うと、それはあっという間に竜巻と呼べるレベルまで大きくなった。
「みくる〜これって操作出来るのか?」
ちょっと恐怖を感じたので確認する。
「まだ不慣れだけど動かしてみる!んーーーっ!」
みくるが竜巻の方向にかざしていた手の平を頭上に上げる。手の動きに遅れながらも竜巻の最下部はみくるの頭上へと移動した。そこで試したい事を一つ思いつく。
「今からその竜巻に泉音が魔法を放つから、もう少しだけその状態を維持してくれ。でももし危険を感じたら直ぐに消滅させるか回避するんだ」
「いいよー!いつでも来い!」
「泉音!あの竜巻に何でも良いから攻撃系の魔法を放ってくれ!」
「了解!ファイアーッ!」
竜巻に驚いていた泉音だったが、機敏に対応してくれた。泉音の魔法も詠唱無しで発動出来るらしい。
竜巻に炎が加わり炎の竜巻となった。これを受ける敵さんは堪らんだろうな。
「みくる〜もう竜巻を消滅させていいぞ〜!」
みくるは竜巻を上空に飛ばし散乱させ炎ごと消滅させた。
「す、凄いですよ!みくるさん!」
ずっと傍観していた治志が感動した表情で褒め称える。
「ありがとう治志君、じゃあついでにも一つ見せてあげるね」
「ウィンドシューズ!」
今度はみくるの靴の周りに小さい竜巻がぴったりくっついた状態で発生し、地上から靴の底が離れ空中に浮いている状態となった。
そして彼女は空中をほぼ自在に飛び周り地上に着地する。なるほど、俺が最初に見たスピード女王はこれを発動させてたんだな。
「治志君どうだったかな?」
「これも凄いですよみくるさん!風使いって便利なんですね!」
目をキラキラさせたまま治志は更に感動していた。
「みくるは風使いとしての才能が抜群です。シルフでもここまで風を操るのに何年もかかるのですから。鍛えればあっという間にわたし以上の風使いになるのは間違いありません」
リアーネもパートナーの成長を自分の事のように喜んでいる。 当の本人は二人に褒められまくって照れているようだった。
魔法
みくるの能力は概ね理解した。鍛え方次第では台風すら起こせるかも知れない…
治志のスキルも概ね分析しているので、泉音の魔法を把握しておきたい。
「次は泉音の魔法を見せてくれないかな。なんなら俺に向けて放ってみてくれないかか」
先程の炎系魔法を見る限り俺の魔法と威力の差は無いように思えた。
「源九郎に向けて本当に大丈夫?」
「ああ構わないよ、いざとなったら回避するしね」
「了解、必ず避けてよ」
泉音の表情が変わる。
「行け!アイスアロー!」
声が響き極寒の地で見られるツララが泉音のまわりに突如複数現れ、俺目掛け高速で飛んできた。やばい!死ぬぞこれ!?直感で避けなけれ死ぬと判断して回避する。服の一部に命中して風穴が空いたがギリギリのところで身体に当たらずに済んだ。泉音さんすみません!貴方の魔法を舐めてました〜!
「大丈夫?源九郎!」
魔法で殺されかけた本人に心配されてしまう。舐めてた俺が悪いのだが。
「大丈夫!身体には当たってない!アハハハ」
虚勢を張っていたが、実際のところ俺の身体はガクブルです。どんな人間でも生死の境目を経験した直後ならばこうなるはずだと自分を慰める。
「いやぁ泉音の魔法がこんなに凄いとは思わなかったよ」
「そう、源九郎にいいところを見せようと思ってちょっとだけ本気出したんだよね」
まさか本気で殺そうと思ってないよね!?さっきの魔法って十分に殺傷能力があった。服にポッカリと風穴が空いているのだから!他に危険度の低い魔法は無かったのですか?流石に口に出さずにいたが、それほどやばい状況だったかと。泉音に殺意が無かった事を願うばかりである。
「アイスアローって最初から使えたのか?」
「違うよ。先週だったかな魔法の威力を強くしようと思って、初めから使えた“アイス”を練習してたら急に“アイスアロー”のイメージが湧いて使えるようになったんだよね」
泉音が努力した賜物という訳か。
「OK!泉音の魔法も概ね理解した。ここからは一対一の模擬戦をしようと思うんだけれど、どうかな?」
3人は提案に賛成してくれた。
治志は武道の試合などを多く経験しているから対人戦はお手の物だろう。俺は治志と対戦してるから少しは経験ありとして、泉音、みくるの対人戦経験値はゼロに等しい。今回の模擬戦は非常に有意義なものになる筈。
「あの〜模擬戦をするのでしたら、ささやかながら贈り物をしたいのですが」
リアーネからの贈り物?何だろうか。
「役立つ物ならいつでもウエルカムだ」
「では皆さんそこに並んでくださいな」
言われるがまま横一列に4人は並ぶ。
模擬戦
「鳳よ汝の愛でる者達を護りたまへ。ウィンドアーマー!」
リアーネが言葉を発すると4人それぞれが風の渦に包まれ、一瞬にして風の渦は消え去った。目には見ないけれど、衣服の上にもう一枚服を着ているような不思議な感覚がある。
「貴方達に風の鎧を贈らせて頂きました。これで物理や魔法攻撃などのダメージを少し軽減出来ます。模擬戦とはいえ大怪我でもしたら大変ですからね。そうそう、この効力は1時間で消滅してしまうので、模擬戦を続行する場合は何度でも贈らせて頂きます」
「これは助かるよ!ありがとうリアーネ!」
俺対泉音、みくる対治志という組み合わせで模擬戦を1時間。休憩を挟んで組み合わせを変更した後1時間。また休憩を挟んで組み合わせ変更後1時間のスケジュールを立てて模擬戦を開始した。
リアーネには風の鎧の件と周りの監視役として残ってもらい、ルカリは回復魔法が使えると言うので救護班として残ってもらった。ミーコとミニョルの2人には食料調達をしてもらう。異世界者は狩りもするらしいので、山中に動物が存在するのであれば狩って来てくれるかも。
自ら立てたスケジュールだったが考えが甘過ぎた。模擬戦といってもいわゆる戦闘をするのだから、体力や精神の消耗は半端ない。バスケやサッカーよりも遥かに疲労が激しいと言っても過言では無いだろう。
俺達が10分〜15分経つと疲労で動けなくなる度にルカリに回復してもらうという有様だった。例えるなら、宇宙船の中で無理な修行をしては仙豆で回復するというカカロットのやり方なのである。
修行に厳しさは付き物だ。というか厳しくない楽な修行に意味などあろうものか!などと自分で自分を励ましながら取り組む。
そんなこんなで模擬戦が終了したのは夕方5時過ぎだった。
模擬戦実践者は当たり前だが、サポートしてくれたルカリとリアーネもへとへとになっていた。しかし、このスケジュールでやり切った泉音、みくる、治志の根性には平伏する。
6人とも疲れて会話も無く休憩しているところへミーコとミニョルが帰って来た。
「おーい源九郎!帰って来たよ〜!」
「今夜はこいつらの肉でバーベキューだ」
ミーコは猪、ミニョルは熊を引きずっている。
「おいおい猪はともかく、その熊も仕留めたのか?」
「二人がかりでやったら楽勝だったぜ」
ミニョルが自慢げに言う。
この山に熊の存在が確認されたという驚きの情報はさておき、今夜のバーベキューがめちゃくちゃ楽しみになった。
「よし!みんな疲れているけれど、全員で夕食の準備に取り掛かろう!」
こうして全員が残っている気力を振り絞り、共同で夕食作りを始めるのであった。
担当割
猪と熊が死んでるのを生で見るのは初めてだった。
しかし、これを食べらる状態にするとなると…
「熊と猪を捌けるのって誰だ〜?」
分かりきってはいたが一応全員に呼びかける。
「あ〜い、あちしとミニョルだよ〜」
はい予想通りでした。食べれると判断して狩ったのだから、異世界でも似たような生物を狩って食べている筈、ミーコとミニョルは捌けると踏んでいたのだ。
野菜は先日スーパーで購入した物がある。
「じゃあ肉班はミーコとミニョル、野菜班は泉音とルカリ、残りの4人で諸々準備するという事にしよう」
ずっと勝手に全員の担当割などをやってリーダーぶっているが、これでいいのだろうか?これでも人生経験は豊富な方だが… もし俺に問題があるようなら誰かが教えてくれるかも知れないし、今はこのままやってみるか。
取り敢えず深く考えるのはやめておこう。みんな素直に動いてくれているのだから良しとする。
「諸々班は薪集めから行くぞ〜」
「薪集めなら試したい事があるから、枯木を探してくれないかな?」
「お、みくるに考えがあるんだな。了解」
そうそうこうやって意見を言ってもらえるとこちらもありがたい。
「みくるさーん、こっちに枯れてて倒れそうな木がありましたよ」
治志が希望に叶う木を見つけたようだ。
「あ、良いね良いね。治志君サンキュー。みんな私の後ろに下がってくれるかな」
言われたまま3人は後ろに下がる。何する気だろう。
「ウィンドエッジ・乱舞!」
木に向かって両腕を交互に素早く動かし風の刃を放っている。
みくるが風の刃を放ち終わった数秒後、木は音を立ててバラバラに崩れて見事に薪に使える大きさになっていた。パチパチパチとリアーネが拍手する。
「素晴らしい修行の成果ですね、みくる」
リアーネは褒め上手だよなと思いつつ、修行での成長があったようで俺も嬉しい。
大量の薪を俺と治志が拾おうと動く。
「二人ともちょっと待って!まだ終わりじゃないの。今度はその薪を風の力で調理場の前まで運ぶから」
え!?マジですか!?そこまでやって貰っちゃうとこっちとしては有り難い限りではあるけれど。
「ウィンドトランスポート!」
薪のある場所に竜巻が発生し薪を吹き飛ばさずに、薪が竜巻に包み込まれている状態を保っている。そのまま調理場の前まで竜巻は移動して消滅、バラバラと真下へ落下して積み上がってしまった。
俺は遂に我慢していた言葉を解放してしまう。
「ありがとうみくるもーん!」
みくるにキッと睨まれた事は言うまでもあるまい。
バーベキュー
みくるに一言謝ったあと10本くらい俺発の炎系魔法により、バーベキュー用に炭をこしらえ手製でコンロも準備した。
「余ってる薪はキャンプファイヤーに使って、みんなで囲んでゆっくり会話でもする事にしよう」
「あ、いいですね〜それ、キャンプと言えばってやつですもんね」
俺と治志でキャンプファイヤーの準備をして、みくるとリアーネで食器や飲み物の準備をする。
「野菜の準備はできたよ源九郎」
泉音とルカリが大皿に入れた野菜を運んでくれた。
「肉もOKだよ〜」
ミーコとミニョルが程なく肉を運んで来たがその量に驚く。山のような肉、いや山は山でもエベレスト級の肉の山である。何てったって猪と熊を一頭ずつまるまるだもんな。
「量に驚いてるようだが、オレとミーコが本気を出せば恐らく全部食べ尽くせるぜ」
小さい身体のミニョルが頼もしいことを言ってくれる。人間ではまず無理な量だが、ひょっとしたらグレムリンとケット・シーが居ればこれだけの量の肉も、残して無駄にしてしまう事は無いのかも。 余計な心配をよそにバーベキューの準備が整った。
大量の肉から焼いていく、ジューッと食欲を増進させる音。幸いメンバーには肉を食べられない者がいない。みんな大好きなようだ。
衛生上怖いのでしっかり焼いていくが、一枚一枚がステーキ並の厚さと大きさに切ってあるから通常より焼きに時間が掛かってしまう。
調味料はタレ、塩、コショウ、醤油などを持参してある。
やばいヨダレが出そう。
目の前の熊肉が食べ頃になったので受け皿に移すが、肉が皿から半分くらいハミ出ている。一発目はタレで食すと決めていた。たっぷりとかけて口に運び噛みちぎったが普段食べている肉と比べるとやや硬い。だが美味!
「うっまぁ〜っ!初めて食ったけど熊って美味いんだな〜。よくぞ狩ってくれたミーコとミニョル!」
俺だけでなく全員が熊肉、猪肉を絶賛し、ミーコとミニョルに感謝していた。
褒めちぎられて二人の狩人は顔を赤くして照れている。特に強面なグレムリンのこの表情は画像に残したいくらいだ。
午後の死ぬほどきつい模擬戦の後だけに、みんな飲み込むようにバクバク食べている。その中でもみくるの食べっぷりは目を見張るものがあった。今の状態なら日本で大食いチャンピオンになれるのではないか。
「ハイハイみんな肉ばっかり食べないで、バランスを考えて野菜も食べるんですよ」
泉音が母親のように言いながら網の上に野菜をどっさりのせていく。
「野菜と肉を一緒に食べると美味しいさがますよね〜」
と言いながら、まだほとんど焼けてないキャベツで肉を包んでヒョイっと口に詰め込む。頬っぺたがリスな瀬戸みくる爆食女王の爆誕だ。
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