刀姫in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編 ノ91~94「反発仙術」「友との約束」「詰めの一手」「仙器の意志」

刀姫in 世直し道中ひざくりげ 仙女覚醒編

 天祥棍が直撃した羅賦麻の胸元が粉々に砕け、府刹那特有の反発仙術の性質と威力によって直線的に吹き飛ばす!

 だが折角の破壊力が敵の身体を吹き飛ばす分だけ逃してしまうこの技。無論、そんなことは百も承知の府刹那は、吹き飛ばした敵を自慢の脚でもって追った!

 府刹那は空中を吹き飛ぶ羅賦麻に追いついただけに止まらず、なんと進行方向に回り込み天祥棍を縦に振りかぶる!

「砕け散れ!!」

「ぬっ!!??」

「パァッキィーーーン!!!」

 岩のようにゴツゴツとした羅賦麻の顔面を天祥棍が捉え、その身体は勢いよく地面に叩きつけられた!!

「ズッガーーーン!!」

 叩きつけられた羅賦麻の身体によって、陥没している地面がさらに陥没する。

 ほとんど無防備と云っても良い状態で府刹那の初撃と追撃をモロに受けた魔王は、うつ伏せのまま地に埋まり全く動かない。
 魔界最強の三大魔王の一人を雅綾と府刹那で遂に追い詰めたのである。

 百戦錬磨の府刹那がこの千載一遇の機会を逃すはずもなく、地に埋まった魔王の真上上空に舞い上がり、またもや天祥棍に己の仙力伝導させ溜め込み!

「完全に息の根を止めてやるわい!反発仙術全開!一心是空鉄槌撃(いっしんぜくうてっついげき)!!!」

「コッキィン!!」

 仙力を伝導させた天祥棍で何も無い空間を突くと、まるで空気の壁があるかの如き反動が起こり、落下速度を一気に加速した府刹那が真っ直ぐに羅賦麻の身体へ向い落ちていった!

 

「ガズゥン!!!」

 頭から真っ逆さまに落ちた府刹那が、仙器の天祥棍を倒れる羅賦麻の心臓部を狙い突き刺した!

 天祥棍は魔王の超硬度を誇る身体を易々と貫通して地面に到達している。

 府刹那が天祥棍を引き抜き、ヒクヒクと痙攣を起こす羅賦麻の背中を両足を開いて跨ぎ、訝しげな面持ちで立ち尽くす。

「….確か、悪魔にとっての心臓は『核』と呼ばれる部位であったかのう。その核を破壊すれば身体は直後に消滅するはずじゃが…どうやら外してしまったようじゃな…ならば心臓部でなければ頭の方が妥当というものか」

 府刹那が今度こそ止めを刺そうと地面に突っ伏した魔王の後頭部に狙いを定め、天祥棍を大きく振りかぶり仙力を充填する。

「雅綾よ。お主の命を無駄にせんで良かった。これで約束は果たせたぞい」

 府刹那が、命を落としてまで使命を果たそうとした友のことを想い、魔王を葬らんといま正に天祥棍を振り下ろそうとしたその時!

 痙攣して瀕死と思われていた羅賦麻の首があらぬ方向へグリンと百八十度動いた!つまりは地面とは真逆の方向にいる府刹那と顔を突き合わせる形となったのである!

「ヴォッ!!!」

 互いの目が合った瞬間、羅賦麻が口を大きく開き、強烈な光を放つ強力なエネルギーの塊を吐き出した!

「っ!!??」

「ボォン!!!」

 攻撃の初動に入っていた府刹那は奇襲に気付いたものの、至近距離かつ想定外の反撃がカウンターとなり、胸元へまともにきつい攻撃を受けてしまった!

 府刹那の身体は宙へと浮かび後方へ吹き飛ばされ、殊の外ダメージが大きかったのか受身すら取れずに地へと叩きつけられる。

 だが絶命と気絶は免れ、仰向けに倒れた状態で首を上げ魔王のいる方を直視すると、瀕死であった筈の羅賦麻が膝を曲げ立ち上がろうとする姿が目に映った。

「くぅぅ…油断は微塵もしておらなんだが…しくじってしまったかのう….」

 思いもよらぬ奇襲を受けた府刹那の口から失敗の念が溢れた。

 立ち上り仁王立ちする魔王の身体は、府刹那が失敗の念を溢すには十分事足りる状態であった。
 雅綾の重力仙術が解けた瞬間に渾身の一撃で破壊した胸元は回復し、二撃目の頭の傷も消え、魔王の身体を貫通した致命傷もほぼ傷口が塞がりつつあったのである。

 羅賦麻が頭を掻くような仕草をしつつ悪魔的な異形の口を開く。

「グァグァグァ…老仙人、実に惜しかったなぁ…オレはかつて戦いの相手を褒めた事など一度も無かったが、此度の瀕死にまで追い詰めた貴様らの戦いぶりは賞賛に値するぞ」

 吐いた言葉は敵を褒め称える内容で余裕があるように感じられるが、府刹那から受けた攻撃による傷がほぼ回復したとはいえ、羅賦麻の方にもさして余力は残っていなかった。

 羅賦麻や亜孔雀の持つ自己治癒能力とて無限に継続できるものではない。喰らったダメージや傷を治癒するため、その被害状況に比して相応の魔力を消費していたのである。

 雅綾の重力仙術を耐え続けていた頃から消費し続けていた羅賦麻の魔力は、府刹那の攻撃による傷を治癒した今の時点でほとんど枯渇していた。

 謂わば府刹那にとって魔王を倒す絶好の機会ともいえたのだが、肝心の老仙人の方とて仙力を使い果たし疲労困憊であったことに加え、強烈な奇襲のダメージによって既に片腕を動かすことすら叶わなかったのである。

 府刹那の繰り出した猛攻は短く、体力の消耗はそれほど無かったように思われたのだが、初撃に殆どの仙力を注ぎ、立て続けの猛攻にもありったけの仙力を注ぎ込んだ結果、魂を削った府刹那の仙力はとうに尽き果てていた。

 一歩一歩ゆっくりと己の方へ歩み寄る魔王の姿を見た府刹那は、反撃に転じることを諦め観念したかのように首の力を緩め、後頭部を地につけ空を仰いだ。

「…あと一手…じゃったのにのう…」

 普段の府刹那からは想像できぬ、か細く弱り切った声で呟く側へ、歩み寄った羅賦麻が腰を屈め倒れる老仙人の目をじっと睨む。

「貴様ら二人から仙人界の情報を聞き出したいところだったが、オレにはもはや時間的にも体力にも余力は無い。悪いが貴様を生かしておくわけにはいかぬ。せめて一思いに殺してやろう、目を閉じるがいい」

「…ふぅ…さっさと殺せ…」

 いよいよ間近で死の宣告を受けた府刹那は一つため息をつき、落ち着き払った表情で素直に目を閉じた。

「ゴギャッ!!!」

 魔王が何も言わぬまま府刹那の顔面へ
真っ直ぐ拳を打ちつけ、頭全体を脳味噌が飛び出てしまうほど粉々にしてしまった。

 ここに百戦錬磨の老仙人二名と、三大魔王羅賦麻との壮絶な戦いが集結したのである。

 敗れて命を失ったとはいえ、魔王をあと一歩で倒せるというところまで追い詰めた雅綾と府刹那の奮闘は、その根本的実力差からすれば見事なまでに「あっぱれ」であったと云えよう。

 羅賦麻がその二人の屍に視線を送り。

「…手土産に貰って帰るか…」

 そう言って府刹那の横に転がる天祥棍に手を伸ばし触れようとした瞬間!

「パチィン!!」

「くっ!?」

 或いは仙器、天祥棍の意思なのであろうか。
 まるで羅賦麻に触れられることを阻止するかのように近づける手は弾かれた。

「グァグァ、そうか、オレを拒むか…惜しいが諦めるしかなさそうだな。今のオレにはこの仙器を制する力など残ってはおらぬ」

 羅賦麻は心底疲弊していたのであろう。天祥棍を持ち帰るのをあっさりと諦め、立ち上がり湖の方へ歩き出した。

 湖の淵まで辿り着いても魔王の脚は止まらず、水に脚を浸け、そのまま水中へと入って行く。

 そもそも、羅賦麻は仙人界へ何処を通ってやって来たのであろうか。魔王当人が潜水し、泳ぎ進んだ先に答えがあった。

「ちと不安だが、あとは息子に任せるしかあるまい…」

 魔王はそう言って、己が創り出したブラックホールを彷彿させる黒い円形、己の創り出した魔界と仙人界の通り道の出入口へと消えていった。

 魔王の身体が完全に消えた途端に出入口もスッと消滅したものである…


 一方その頃。

「スタッ!」

 老仙人二人の屍がある静かになった戦場へ一人の仙女が空中から舞い降りた。

「…ちっ、やはりあの気配は只者ではなかったか。まさか天仙竺十権(てんせんじくじゅっけん)の雅綾と府刹那がやられてしまうとは…」

 遠方でただならぬ気配を感じ取り、急ぎ駆けつけるも間に合わず悔しがるは変人にして鬼神にして最強クラスの仙人、即蘭眉雲峡(そくらんびうんきょう)であった。

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