沖田総司の忘れ形見は最高の恋がしたい! [茹で蛸のように]

沖田総司の忘れ形見は最高の恋がしたい!

 この時代、未成年者の飲酒は特に法律などで禁止されておらず、若い少年少女らが酒を呑む行為は珍しくなく中には酒豪の子供が居たほどだった。

 とは言え、十代のうら若き乙女がお酒を呑んで酔ってしまうことはみっともない。が、わたしはいま気にもしないでお酒を呑み酔っている。

 真琴さの持って来てくれた徳利のお酒は既に二本呑み干していた。
 それを認識しているのだから泥酔状態にはなっていないだろう…

「司よ。事情は知らぬが、食事前でそんなに酒を呑むのは余りいいことではないぞ。俺の分まで呑んでいるではないか」

 うっ…確かに師匠の分まで呑んでしまったことは悪いと思うけれど…

「良いんですよ~、今日は特別な日なのですからぁ」

「特別?そうか…その陽気さから察するに何かめでたいことでもあったのだろうな」

 めでたいですと!?
 一瞬で酔いが醒めるほどハッとした。
 もし、もしも本当にこの想いが初恋だとするならば、想いに抵抗せず自然の流れに身を任せてしまっても良いのではないだろうか?

 そうだ、初めて湧いた感情に戸惑い慌てふためく必要は無い!

 などと本日何度目かの新たな決意を固めたところで、真琴さんではない使用人の男性がこちらに走り寄って来る。

「あのぉ、お食事の準備が整いましたので、お二人ともどうぞ」

 この方の名は早田弥彦(そうだやひこ)。十分大人の24歳だけれど、目がクリっとした童顔でそれほど背も高くない。そのためか、少年のように若く見える方なのです。

「ありがとうございます弥彦さん。すぐに行きます。師匠も行きましょう」

「おう、そうだな」

 こうして師匠との短い飲酒タイムは呆気なく終了し、二人で屋敷の中へと歩いて向かった。
 短い時間だったけど、風景を楽しみながらの飲酒は楽しかったし、師匠のお陰で思わぬ収穫も得られたような気がする…

 食卓には夕刻に一人も居なかった家族が全員顔を揃えていた。

 席に座ると、お祖父様がわたしの顔を見るなり声をかけてくる。

「そんな茹で蛸のように赤い顔をしてどうしたというんじゃ?」

「そ、そんなにわたしの顔は赤くなっていますか!?」

 自分の顔がどうなっているのか考えても居なかったけれど、お祖父様に言われ急に恥ずかしさが込み上げた。

「おお、なっとるなっとる、司にしては珍しく酒を呑んでおったんじゃな。よいよい。しかし見事に食べごろで美味しそうな茹で蛸じゃわい。ほっほっほっ」

「茹で蛸とは可笑しいですねぇ、フフフフフフ」

 お祖父様の笑い声で恥ずかしさが吹き飛ぶ、つられて一緒に笑ったのでした。

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