殿方の上段斬りを右横に転がりかわす!
その直後にわたしの居た空間を真剣が通り過ぎた。
この人は本気で斬りかかってくる…
剣術を習い始めてから初めて命の危険にさらされ、顔からサーッと血の気が引いていくのが分かった。
今の太刀筋だけを見れば、普段の試合なら立ったまま余裕でかわせるレベル。
なのに、大げさなくらい身体を動かして避けしまった。
一撃で命を絶つ真剣という武器を目の当たりにすると、こんなにも恐怖の感情に身体が支配されてしまうのか…
「小娘。僕が本気だという事はもう分かっただろう。今なら見逃してやる。早々に立ち去れ!」
くっ、屈辱だ…
そんなに腕の立つ相手ではないのに…
待て!落ち着け!加賀美司!
何とかしてこの修羅場を乗り切れば、我が剣の腕前は更に向上するに間違いない!
そうだ!やるわよ!やってやる!続行するぞ!
「キィエイ!!!」
自分を真剣の恐怖から解き放つため、かつてない程の声を張り上げ、着物の袖を捲り竹の棒を正面に構え直した。
「ふぅ~、さあ、続けますよ。どうぞお好きなように掛かってらっしゃい!」
挑発の意味も込めてそう言うと、殿方が鼻息を荒くして顔もみるみるうちに赤くなっていく。
「ど、どいつもこいつも、ば、馬鹿にしやがってーっ!」
殿方は益々正気を失い刀を派手にブンブン振り回して来る。
しかし、先程とは比べものにならないくらいに集中しているわたしは、普段の試合と同様の体捌きで数回かわし…
「セイッ!」
「バシィーッ!」
「ぐっ!?」
殿方の背中に竹の棒で渾身の一撃を入れた!
これが真剣で斬りつけたものであれば、勝負は決まっていたかも知れない。
だが怒りで痛みをあまり感じていないのか、直ぐに身体を起こしてすかさず斬りつけて来た!
わたしは殿方の意外な一撃に反応したまでは良かったのだが、咄嗟に竹の棒で防御してしまう!
「しまっ!?」
「ザン!」
竹の棒は切れ味の鋭い刀によりあっさりと真っ二つにされ、そのままの勢いで着物まで切り裂かれてしまった!
否、今のは着物で済んで良かったと想うべきだろう。竹の棒は真っ二つになったものの、きっと刀の軌道を微妙変えてくれたに違いない。
これで手に残っているのは半分以下の長さになった竹の棒のみ。
なんとも心細いけれど、真剣相手に手刀で闘うよりは幾分ましか…
などと考えているところへまたもや殿方が上段の構えから斬りかかって来る!
「おりゃぁぁぁっ!」
それをサッと身をかわして避けたところへ!?
「ドン!」
体当たりをされてわたしはよろめいてしまった!
間をおかずに二撃目が襲って来る!?
だめだ!かわせない!
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