僕達の世界線は永遠に変わらない 3~4話

僕達の世界線は永遠に変わらない

[コールドスリープ]

 一人息子としてどうしても病気について知りたくて母に訊く。

「ねえ、母さんの末期癌の治療っていつの話しなの?僕は全然しらなかったんだけど」

「半年ほど前に父さんに治療してもらったのよ。あなたは受験を控えていたから余計な心配をかけたくなかったの。ごめんね匡」

「いや、母さんが元気になったのなら謝る必要は無いよ。それに僕を想ってそうしてくれたのは素直に嬉しいし…」

 そうは言ったが、やはり家族の一員として知っておきたかったという気持ちもある。

 もしその時、治療が上手くいかず母に万が一のことがあれば、僕はきっと親父を許さなかっただろうから。

 しかし、半年前に母が実家に一月くらい帰った時期があったけど、本当は地下室で癌の治療をしてたんだな…

「よし!匡。もう母さんのことはいいだろ?説明の続きをするぞ」

「いいよ。どうぞ」

 親父には少し怒りを感じていたが、今はそれどころではないだろう。

「母さんのケースと同じように、匡には一カ月のあいだ人体万能治療ポッドの中に入ってもらう。その間はコールドスリープ状態、つまりずっと眠ったままということになる」

 冬眠ならぬ夏眠?だな。今年の夏休みは完全に諦めた方が良さそうだ。

「だから、誰かと連絡が取りたければ夜までに済ませておくんだ…もし連絡を取るのであれば、くれぐれも地下室で病気の治療をすることは言うなよ。一カ月間不在である合理的な別の理由を考えて伝えるんだ。いいな?」

「わ、わかったよ。そうするけど…」

 僕が夏休み中に一人で一カ月間不在となる合理的な理由…ん~一つ思いついたがこれは両親の協力が必要不可欠だな。

「あのさ、その合理的な理由を思いついたんだけど、二人に協力してもらいたいんだ」

「ん!?なんだ。言ってみろ」

「僕の病名は知れていないだろうけど、学校で倒れた事は学校中の人達が知ってると思うんだ。だから病名は明かさず、海外に治療に行くことになったという理由でどうかな?」

 親父が数秒のあいだ一考して口を開く。

「なるほどな。それでいいかも知れない。じゃあ匡が連絡したい人にはそう伝えておくとして、もし他の人達に訊かれた場合は父さんと母さんでそう説明しておくよ」

 こうして親父の説明も一通り終わったようで、「治療についての詳しい話は夜に地下室でする」と言って、車でどこかへ出かけて行った。

 僕は自分の部屋に戻りベッドに腰掛けて、連絡すべき相手は結月と喬助の二人だけだったけれど、話す内容を間違わないように頭の中で整理していた。

[親友と幼馴染みにつく嘘]

 暫く考えた末、喬助の方が話し易いと踏んだ僕は、スマホをズボンのポケットから取り出し電話をかける。

 丁度スマホをいじってでもいたのか、喬助はワンコールで電話に出てくれた。

「匡か?」

「あ、ああ匡だよ」

「そっかぁ!良かったぁ~意識が戻ったんだな!一昨日病院に行ったんだけど、お前が集中治療室に居たもんだから会えなくて心配したんだぜ」

「喬助と結月が来てくれたのは親から聞いたよ。ありがとな」

「そんな、礼は良いんだけどさ。お前まだ病院で寝てるのか?」

「いや、昨日のうちに退院して今は自宅から電話をかけてるよ」

「ん!?もう退院できたのか?」

「ああ、退院できた…たださ、海外の病院で一カ月のあいだ病気の治療に専念することになった。それと治療のあいだは僕との連絡が取れなくなるから」

「は~!?海外で一カ月ぅ!?そんなに重い病気なのか?」

「病名は言いたくない。でも心配しなくても大丈夫だ。その病院に行けば必ず治してもらえるらしいから」

「そうか…まぁ、お前が大丈夫って言うなら大丈夫か…頑張ってその病気を治して来いよ!」
「おう!意地でも治して来るよ。それで日本に帰ったら連絡する」

「分かった。元気になったお前からの連絡を待ってるぜ!じゃあな!」

「ああ、じゃあな!」

 ふぅ~、仕方のないこととはいえ親友に嘘をつくのは心が痛む。

 喬助のやつ、相変わらずだったな…
 あいつの元気で大きな声を聞けば少しうるさいと思う反面、何だか元気を分けてもらえるような気がする。
 病気を早く治してまたあいつと元気に遊びたいものだ。

 さてと、あとは幼馴染みの結月。
 電話で話したことが無いからかけづらいな…
 でも夏休みになったら遊びに誘うと約束してしまったし、病院にお見舞いにまで来てくれたのだから連絡しない訳にはいかないだろう。

 いつだったか忘れたけれど、スマホに登録してあった結月の電話番号を表示して電話をかける。
 結月はなかなか電話に出てくれず、10回目くらいのコールでようやく出てくれた。

「…もしもし、匡?」

 不安げな声で訊かれる。
 そっか、何年か前に電話番号を教え合ってから一度もかけたことが無かった訳だし、そんな相手から突然電話がかかってくればそりゃ戸惑うよな。

「ああ、匡だ。話したいことがあって電話したんだ」

 そこからは喬助に話した内容と同じようなことを結月にも話す。
 話した時の反応は喬助と違ったものの、結月も早く完治できるよう応援してくれた。

「そういうことで、じゃあな」

「ちょ、ちょっと待って匡!」 

 要件を全部伝え電話を切ろうとした僕を結月が引き留めた。

「なに?」

「あのね、後悔したくないから伝えたいんだけど…」

 なんだなんだ?急に結月の声の調子が変わったような気がする。

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