[手刀炸裂!]
「剣士たる者、時には剣が無くとも戦えるよう鍛錬を積まねばならぬ」。師匠がそう言って15歳のわたしに[空手]の技でよく知られる手刀を教えた。
正直、手刀の鍛錬は嫌いだった。最初の頃は瓦や木板を試し割する際に、鍛えられていない手刀で行うと痛くて堪らなかったから。
その痛さを乗り越え、鍛えられたわたしの手刀が今こそ役立つ時が来た!
使い方は間違いそうだけど…
近づくわたしに宝城さんが気付く。
「あらぁ、加賀美さん。やっぱりわたくしにお見合いの相談をしたいのかしら?」
わたしは無言で首を横に振った。
そして「パン!パン!」と二度拍手をする。
「はい!皆さん注目してくださ~い!って言わなくてももう注目されてますねぇ。ではここにあります木製の机をご覧くださ~い!」
そう言って拳を握りコンコンと机を突つき、握った拳を手刀の形に変える。
「よ~っく見ててくださいね~、ええいっ!!」
「バキィッ!!」
一撃の手刀で机を真っ二つにへし折った。
それを見た宝城さんや花山さん、他の取り巻きの女学生全員が青ざめている。
わたしは宝城さんの方を向きニッコリと笑顔を作って言う。
「こうなりたくなければぁ、わたしを二度と怒らせないでください、ねっ!!」
最後の「ねっ!!」の部分だけは殺意を持った眼で睨みつけ、脅しかけるような声で言ってやった。
宝城さんが震えて声が出ないようなのでもう一回笑顔を作る。
「分かっていただけたかしら?宝城さん」
「は、はひ。わかりまひたぁ…」
「よろしいですわ~宝城さん。千歳~ちょっと来てくれる~?」
千歳も見ていて驚いたらしくハッとして気付き歩いて来る。
「ごめん、この机の片割れを持って一緒に先生のところに付き合ってくれないかなぁ?先生には上手く説明するから」
「わ、分かった」
教室の女学生達がまだ青ざめた顔をしているなか、真っ二つに割れた机の片割れをそれぞれ抱え、教室を出て神楽坂先生の元へ向かった。
「は~、スッキリした~。ごめんね、千歳。あなたまでびっくりしたんじゃない?」
「司~、あんな場面を見せられたら誰だって驚くわよ。驚かない人がいるとしたらあなたの師匠くらいじゃないかしら?」
「フフフ、そうねぇ、師匠ならこの机を二枚重ねにしても平気でへし折っちゃいそうだし」
神楽坂先生の居る教員控所の横の廊下から神楽坂先生を探すと、お弁当を美味しそうに食べている真っ最中。
廊下から手を振ると他の先生がわたし達に気付き、神楽坂先生に教えて廊下まで来てくれた。
[神楽坂先生の心遣い?]
「珍しいわねぇ、お昼時に先生のところへ二人が来るなんて。あら、その見事に真っ二つになっている机はどうしたの?」
廊下に置いた机に神楽坂先生はすぐに気付いた。
さあ、考えていた言い訳をしなきゃ…
「あのですねぇ。言いにくいんですけれど、わたしがはしゃいで机の上に乗って飛び跳ねていたらこう…バキッと折れちゃったんですよ」
神楽坂先生は腕を組み、わたしの言い訳に合点がいかない顔をしている。
「加賀美さん、なんであなたは机の上ではしゃいだりなんかしたの?そんな行動をするような生徒だと先生は到底想えないわ」
うっ!?確かにお酒でも呑んで泥酔でもしない限り机の上ではしゃぐような真似はしないだろう。泥酔なんかしたこともないけど。
「な、なんででしょうねぇ…ハハハ…」
う~ん、流石にこの言い訳には無理があったかなぁ、困ったぞ…
「…まぁ良いわ。それよりあなたにケガはなかった?」
あれっ!?神楽坂先生が追及して来ない。助かったのかな?
「あ、それは全然大丈夫です!この通り!」
わたしは何故かクニャクニャと変な動きをしてケガが無いことをアピールした。
「じゃあ、二人ともその壊れた机を隣の部屋に置いて、代わりにその部屋にある机を教室に運んでくれるかしら?あとの処理は先生の方でやっておくから」
「はい!運んでおきます先生。あの、大変申し訳ありませんでした」
感謝とお詫びの意味を込めて深々と頭を下げた。
「それと、加賀美さん。どんなことがあっても学校の女学生に手を上げてはだめよ」
「あっ!?えっ!?はいぃ…」
神楽坂先生には嘘の言い訳など通じてなかった。最初からお見通しだったのかも知れない。
しかし、千歳には本当に悪かったけれど、とにもかくにも何とか乗り切った。
先生に言われた通り、教員控所の隣にある物置部屋に壊れた机を二人で運ぶ。
その部屋の中には机だけでなく、使われていない椅子や本棚などの備品も置かれていた。
千歳と一緒に壊れた机と同じような代わりになる机を探す。
「千歳、お昼時の大事な時間をこんなことに付き合わせて本当にごめんね」
「なにを言ってるのよ。困ってたら助け合うのが親友ってものでしょ。だからわたしが困った時は遠慮なく司を頼らせてもらうわ」
「うんうん!その時は何でも言って!全力で助けるから!」
そんなことを言って互いの顔を見ながら笑い合った。
程なく丁度良さそうな机を探し出し、両端を二人で持って教室に運ぶ。
教室に入ると周りの女学生達から何とも言えない注目を集めた。
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