僕達の世界線は永遠に変わらない [弱肉強食の社会]

僕達の世界線は永遠に変わらない

飛鳥井さんが腕を組んで木にもたれ、僕に座るように促し話の続きを語り始める。

「ナインスセンスは全ての生命体に宿っているものと考えられる。だからあとは各生命体が自分の能力に気付くのが早いか遅いかなんだけど、初日で気付いた者が動物や刑務所の囚人に多かった。これが二日目になると、テレビやネット、新聞などで能力についての情報が一気に拡散してしまい、事態は加速度的に悪化の一途を辿って行ったんだよ。何故そうなってしまったのか分かるかい?」

 急に質問されて戸惑いながら答える。

「ま、まぁ。何となくは…それだけ事件が多発すれば自ずとそうなってしまうのかな…と」

「あ、ごめん。質問の仕方が悪かったね。俺が言いたかったのは、なぜ生命体が特別な力を得ると世界は悪い方向へ進んでしまうのか?という事だったんだけど…野生動物の場合は正に弱肉強食の社会だから分かり易い。もともと身体的能力で勝る者が弱者を制するシンプルな社会構造では、特別な力を新たに得て暴れてもその延長線上でしかないだろ?」

「え、ええまぁ…」

「でも法治国家における人間社会ではそうはいかない。その現状社会に不満を持っていた人々が新たに特別な力を得ると、不満を爆発させ当然のように暴動が起こってしまう訳だ。初日よりも多くの場所で事件が発生して、政府やマスコミは大忙しだったかもな…俺も二日目まではテレビやネットの情報を他人事だと感じていたよ」

 僕は飛鳥井さんの話を聞きながら、凄惨だった当時の様子を想像して怖くなっていた。益々、肉親や友人達の安否が気になり出したから…

 でも話はまだ終わっていない。
 最後まで話を聞いてから質問を投げかけてみよう。

「ん?続けても大丈夫かい?」
 
「すみません、考え事をしてました。どうぞ構わず続けてください」

「そっか、じゃあ続けるけど…おっと!その前に、言って無かったけど俺は22歳の現役大学生だ。今はまだ夏休み中で初日と二日目はずっとアパートの一室に引きこもってテレビとスマホばかり観ていたよ。まぁ、三日目も同じように過ごすはずだったんだがそうはいかなかった。朝からいつものようにテレビを観ていると、突然ガラスの割れる音が聴こえ何者かが部屋に侵入したからだ…ん、ちょっと待ってて」

「えっ!?」

「ヴン!」

 飛鳥井さんは突然話を止めて目の前から何処かへ消え去った。
 そして1分ほどが経過すると間の前に忽然と現れる。

「ヴン!」

「はいこれ、長いこと話してたら喉が渇いてね。あそこのスーパーから拝借して来た」

 そう言って手渡されたのは冷たくないお茶のペットボトルだった。

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