転んだら異世界統一の刑だった!~元暗殺者の国盗り物語~ 34~36話 

転んだら異世界統一の刑だった!~元暗殺者の国盗り物語~

[決闘の終焉]

「闇遁!閻魔剛殺(えんまごうさつ)の術!」


 ハンゾウの禍々しいチャクラがみるみる拡大して行く。
 恐らくこれが奴の最強忍術だろう。 ならばこちらも全力をぶつけよう!

「雷遁!雷爆拳(らいばくけん)の術!」


 この忍術は昨日完成させたばかりの新技だ。

 利き腕の右拳に全てのチャクラを集め、俺の脅威的パンチ力と融合させ放つ、全身全霊をかけた一撃!
 よって、奴にパンチの届く距離まで電光石火で走って近寄る!
 パンチの届く範囲まで近づけたがハンゾウの忍術が俺の全身を直撃した!?


「ズォオザザザァーーー!」


「うぐぅあっ」


 何だこの全身を削られるような痛みは!?
 だが俺はその凄まじい激痛に構わず渾身の一撃を繰り出す!


「こぉんのぉおおおーーーっ!!!」


 エネルギーの塊となった拳は奴の忍術を突き破り、顔面を捉え身体ごと吹き飛ばした!


「シュウゥゥゥ」


 奴の忍術は消滅し俺のチャクラも燃え尽きる。
 忍び装束はズタズタに引き裂かれ、全身傷だらけで何とか立っていられる状態だった。
 ハンゾウは数十メートル吹き飛び、死んでいるか気絶しているかは判断出来ないがピクリとも動かない。
 俺はムラクモに向かって言う。

「これって、俺の勝ちですよね?」


 ハンゾウの近くに駆け寄った数人の忍者がムラクモに合図した。 忍者の合図を見たムラクモが告げる。


「ハンゾウは気絶し戦闘不能を確認した。よって、この決闘の勝者をレオンとする!」

「やった、勝ったぞ…」


 俺は勝利を確認すると、安堵して全身の力が抜けヘナヘナとその場に座り込んだ。
 そこへ上空から降りて来たシャーリが満面の笑みを浮かべて言う。


「これでレオンも一国の主人だね〜おめでとう!」

「ありがとうシャーリ。ところでポーションを一つ貰えないかな?身体がボロボロで痛みも激しいんだ」


「おっと、気が利かずにごめんごめん」


 シャーリが錬金術で身体を癒すポーションを作れるようになり、回復魔法よりも特効性のある物が出来たと聞いていたのだ。
 魔法のバックパックから取り出し瓶の栓を抜いて差し出す。
 俺はポーションを受け取り一気飲みする。


「ゴクゴクゴクゴク…ぷは〜っ!」


 何だろう、疲労感で重かった身体があっという間に軽くなる。

 切り傷から出ていた血も止まり、完全では無いが身体が治りつつあった。


「シャーリ、このポーションの効果は抜群だね!」


「でしょでしょでしょ〜!効果を上げるために結構頑張って研究したんだよね〜」


 本当にシャーリは頼りになるパートナーだ。

[ジョショという男]

 一国一城の主となり国政の把握と整理で大忙しの状況が続き、既に一週間が経過しようとしていた。
 俺としてはハンゾウやムラクモを当てにしていたのだが…
 ハンゾウは「敗者は去るのみ」とか言って国を出て行き。
 ムラクモは「隠居する丁度良い機会じゃ」などと言って行方知れずとなり、すっかり当てが外れてしまい今の状況がある訳だ。
 シャーリの提案で城下町に人材募集をかけると大勢の応募者が城に集まった。

 いわゆる公務員はこの世界でも人気の職種らしい。
 シャーリと二人で全員を面接して何人かを登用した。
 そのお陰で仕事は随分と楽になったのだが、次の段階に進むために国を任せられる人材が欲しかった。
 次の段階というのはもちろん二つ目の国盗りの話である。
 あと4年と8ヶ月ほどで残り12カ国を統治下に置かなければならない。一国の国政に時間を割くわけにはいかなかった。
 そんな折、城で働く一人の書記官から打って付けの人物が城下町に居る事を聞いた。
 何年か前まではこの城でムラクモに次ぐ地位にあり、国政に秀でた人物で城の誰しもが一目置いていたという。
 俺とシャーリは早速その人物に会いに行く事にした。
 魔法の絨毯に乗りシャーリが俺に訊く。

「ねぇねぇその人の名前は?」


「ジョショって名だよ。書記官が言うには優秀だけど気難しいところもあるらしい」


「ふ~ん、気難しい人は苦手だから交渉はレオンに任せま~す」

「書記官に聞いただけだから実際に会ってみないと何とも言えないんだけどね」


 などと会話をしている間に目的のジョショの家に着いた。
 家の敷地は広く、和風で大きな庭があり家自体も立派な造りをしている。
 玄関に入ろうとすると後ろから声を掛けられた。


「そこの人、この家の者に用があるのですか?」


 振り向くと陰陽師のイメージの強い狩衣(かりぎぬ)をまとった目の細い男が立っていた。


「あの、俺は最近この国の統治者になったレオンでこっちが賢者のシャーリです。この家に住んでいるジョショって人に会いに来たんですけどもしかして…」


「察しの通りジョショは私ですよ。あのハンゾウに決闘で勝利し、新しい統治者であるレオン様の名は私の耳にも入ってましたが、まさかこんなに若いとは」


 ジョショはそう言いつつも表情は全く変わらない。

「それでどのようなご用件でこちらに?」


「実は、一度城の職務を退いたあなたに折り入ってお願いがあって来たんです」

「それは恐らく、私に城に戻って来ないかというお話しですね?」


 この男はかなりの切れ者だと俺は感じていた。

[赤兎の町のホウハク]

「あ、分かっちゃいました?」


 俺がポリポリ頭を掻きながら言うと。


「ハンゾウとムラクモが姿を消し、内政で困った頃に私を訪ねて来るものと予測してました」


 自信を持った口調のジョショだった。

「それで俺達の力になってもらえますか?」


 ジョショが微笑を浮かべる。


「もちろん喜んで力になりますとも。但し条件が有ります」


「条件、ですか?」


 真顔になったジョショが話す。


「少し説明しましょう。私が数年前に城を出たのは、ハンゾウとムラクモの内政の方針が気に食わないという理由が有ったからなのです」

「内政のどのようなところが?」


「ご存知かと思いますがバランスの悪さに有ります。この城下町青玉にばかり力を入れ、他の町を蔑ろにしてしまい悪評が増加する一方でした」


「それは何となく分かるような気がします」

「必ずやこの国を豊かにしてご覧にいれます。ですから内政に関してはある程度私の好きにさせて頂きたい。それが条件です」


 俺はこの国の統治者であれば別に問題は無い。


「分かりました。但し、最終決定権は俺にあるという事だけは譲れません。それで良いですか?」

「結構でございます。それではこれよりこのジョショはあなたの配下となりましょう」


 深々と頭を下げられた。

「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 俺も同じように下げたのだが…


「早速ですがレオン様に一つ助言をさせて頂きます。配下の者には統治者としてそれなりの接し方が必要、言葉使いもそれなりに変えた方が良いかと存じます」


「わ、分かった。今後はそうしよう」


 素を出せば良いだけだかな。
 ジョショは城に来てからというものバリバリと働き、予算と組織の再編など多くの仕事をこなし、俺とシャーリが何もせずとも国は潤滑に回るようになった。
 2週間ほどが経過してジョショの仕事が落ち着いた頃、異世界統一について相談する事にした。

「俺はいずれこの世界を統一しようと考えているのだが、今後どう動けば良いだろうか?」


 ジョショが難しい顔をして答える。


「それは大儀な事でございますね。しかし私は内政を得意とする者です。軍略は苦手ではございませんが得意ではありません」


「それで良い。俺はジョショの意見が聞きたいだけだ」


 ジョショが暫く考えて口を開く。


「私の知人に軍略において天才的な者がおります。その者を軍師として登用してみては如何でしょう?」


「名前と居場所を教えてくれないか?」

「名はホウハク。忍びの国の赤兎(せきと)の町に居るはずです」 

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