[大賢者の孫 シャーリ]
「特性料理の出来上がり〜っと」
少女が料理を皿に盛り付けテーブルに運ぶ。
振り向いたところでやっと顔が見えた。
髪は肩ぐらいまでの長さで黒色。
肌が白く、顔は整っていて知性と可愛らしさを感じる。
年齢は今の俺に近いのではないだろうか。
鼻歌をうたいながら俺の分まで料理を並べ、少女は正面の席に座った。
「張り切って作っちゃった。さ、召し上がれ〜」
かつて経験した事の無い摩訶不思議な展開に固まってしまう。
果たして食べても良いのだろうか?
「い、いただきま〜す」
不安でドキドキしながらスープを口に入れた。
「ク、クリーミィで凄く美味しい…」
「でしょでしょでしょーっ!このスープ自信作なんだ〜」
な、なんだ!?この少女の元気の良さは!?
いかん、自分のペースを取り戻さないとならない。
先に自己紹介して相手の情報を聞き出すか。
「俺は旅人のレオン。君の名前は?」
「わたしは賢者のシャーリ。よろしくね」
少女なのに賢者!?
「よ、よろしく…もしかして俺がここに来るの知ってた?」
「うん、知ってたよ〜3年くらい前から」
「え!?」
またまた少女の言葉に驚かされてしまった。
「なんで3年も前から知ってるんだ?」
「わたしの祖母が亡くなる直前に、予言書を書き残してくれたからだよ。祖母は大賢者だったの」
大賢者!?そう言えば大賢者が魔法使いの最高峰だってレミさんが酒場で教えてくれてたな。
「なるほど、君は大賢者の孫って訳だ」
「そうだよ。だから魔法は得意なんだ〜賢者のジョブも祖母から受けた免許皆伝だしねぇ」
「良かったらその大賢者が残した予言書を見せて貰えないかな?」
「ん〜と、良いけどちょっと待ってて」
シャーリは席を離れて別の部屋へ移動し、1枚の紙を持って戻って来た。
「これが祖母の残してくれたわたし宛の予言書よ」
紙を渡され読んでみる。
愛するシャーリへ
3年後、別の世界の人間があなたと同じ歳の少年となりこの家を訪れる。
少年の目的にはあなたの力が必要だし、あなたの目的にも少年の力が必要なの。
少年と共に旅立ちなさい。 マリーラより
「…君のお婆ちゃん凄いね」
「うん、何てったって大賢者だからね」
「こんな山奥にたった一人で3年も生活してて寂しく無かったの?」
「もちろん不安になって寂しくて泣いた日もあったわ。でも予言書を信じてあなたをずっと待ってた。あなたが家に来てくれてとても喜んでいるのよ」
もし俺が少女の立場なら、予言書を信じて3年も待っていられただろうか…
「そうか、俺も君に出逢えて嬉しく想うよ」
[異世界統一と大賢者の運命共同体]
俺は特性スープが冷めないうちに飲み欲して質問する。
「予言書に書いてあったシャーリの目的ってなに?」
「それは決まってるわ。祖母のような大賢者になることよ」
「大賢者になるにはどうしたら良いの?」
「えっと、祖母から訊いたんだけどまずは賢者になってそれから…」
「それから?」
「それから世界に散らばってる7つの魔法の碑石があるんだけど、そこに書いてある文字を全部読み上げたら大賢者になれるって言ってたわ」
「その7つの魔法の碑石の場所は祖母さんから訊いてるの?」
「大賢者は碑石の場所を教えてはならないらしいの。もし大賢者が人に教えたら、大賢者の力を失い廃人になってしまうんだって」
なるほど、つまり大賢者になるには世界の何処かにある魔法の碑石を自力で見つけなければならないということか。
「わたしは話したけど、レオンの目的は?」
「…この世界の統一だよ」
「ふ〜ん、楽じゃ無さそう…でも天才賢者のわたしが仲間になるから一歩前進ね」
賢者の上に自分で天才を付けたな。
それにさりげなく仲間になるとも言われた。
大した自信家でもありそうだが、シャーリが仲間にになれば確かに大きな前進になるかも知れない。
「シャーリ、これからは互いの目的に向かっての運命共同体だね!」
俺はシャーリに手を差し出す。
「レオンは異世界統一、わたしは大賢者ね!」
俺達はガッチリと握手を交わした。
「ところで、レオンの当面の目標は決まってるの?わたしの持ってる情報が役立てば教えるわよ」
シャーリがバクバクと料理を食べながら尋ねる。
「最初は忍びの国をいただくつもりだ」
「お隣の国ね。という事は忍者王のハンゾウと一騎討ちして勝たなければならない訳か」
「そのつもりだけど、忍者王のハンゾウか…前世の世界でも有名な忍者の名だ」
「もしかしたらレオンと同じ転生人かも知れないわよ。10年くらい前にハンゾウが忍者の国を立ち上げて今のルールを作ったんだけど、相当な強さで10年間無敗なんだって」
もしハンゾウが転生人であれば、俺と同じく何らかの特殊能力を持っている可能性もあるな…
「そのハンゾウに挑戦する条件として、忍者のジョブをマスターしなければならないんだけど、シャーリは何か良い方法を知らないかな?」
「まずは忍者で師匠になってくれる人を探さないとね。確か、祖母の昔の冒険仲間に忍者のガビトって人がいたわ」
「そのガビトって人はどこにいるんだろう?」
「祖母から聞いた話では忍びの国よ。まだ生きていればだけど…取り敢えずガビトさんを訪ねて行けば、忍者になるとっかかりが見つかるかも知れないわね」
[魔法の力]
翌朝、シャーリは早起きしてバタバタと旅の支度をしていた。
前もって少しは旅支度を済ませていたらしいが、いざ出発するとなるとあれやこれやと足りない物が出て来るらしい。
「俺も手伝おうか?」と申し出るも、
「自分でやらないと気が済まない」と断られた。
暇だったのでそこら辺の木を練習台に弓矢の練習をする。
暗殺の道具で弓矢というか使うならボウガンだが、実際に仕事で使用したのはほんの僅かだった。
遠距離武器はやはり銃系の武器が圧倒的に便利で殺傷力があったからである。
もしこの世界に銃が存在するならば是非とも入手したい。
しかし、この弓矢はフルパワーで使用すれば直ぐに壊れしまいそうで怖いな。
何処かで頑丈な物を購入するか改良が必要だ。
などと考えているとシャーリの支度が終わったようで、荷物を抱えて家の外に出て来た。
鍵を閉めて少し家から離れ何かゴニョゴニョ言っている。
「えいっ!」
と声を上げて持っていた杖を振ると、シャーリの家が消えてしまった。
魔法の力か…
「シャーリ!今何やったの?」
「家の周りに結界を張って外から見えなくしたのよ」
種も仕掛けもある前世の世界のマジックとは大違いだな。
考えていなかったがシャーリの移動はどうするのだろうか?
馬もいないし、いや、仮に馬がいたとしても俺の脚には付いて来れまい。
最悪俺が背負って行くかな。
「シャーリ、そろそろ出発出来る?」
「ちょっと待って〜」
シャーリはバックパックの中から何かを取り出して広げる。
広げたのは絨毯(じゅうたん)だった。
その上にバックパックを乗せてシャーリ自身も座って絨毯に向かって話す。
「絨毯君、頼むわね」
すると絨毯が地面から離れて浮いた。
「それってもしかして魔法の絨毯か?」
「そうよ良いでしょ〜。祖母の遺品の一つよ。他にもあるけどまた今度見せてあげるわね」
シャーリの祖母さんてネコ型ロボットみたいだな。
だが問題はスピードだ。 果たして俺の走るスピードに付いて来れるのか?
「その絨毯のスピードを試したい。少し競争してみようか?」
「良いわよ〜どうぞお先に」
俺を先に行かせるとは…良いだろう全速力を出してやる。
「じゃあ先に行かせて貰うよ!」
クラウチングスタートで始まり一気に加速する。
今の速度はチーターを超えているかも知れない。
シャーリがどの辺にいるか後ろを振り向くが見えなかった。
ちょっと飛ばし過ぎたかな…
「ダメね〜遅い遅い」
横に居たーーーっ!?
「おっ先〜っ!」
姿が見えなくなるほど離されてしまった。
途中でシャーリが待っていて立ち止まった俺に笑顔で言う。
「レオンの座れるスペースあるけど乗ってく?」
「そうさせていただきます」
俺の完敗だった。
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