実家!?だって!?…マジか…
もし淀鴛さんの言ったことが真実だろしたら、廃墟探索だと軽々しく言う僕と一体どのような感情で接しているのだろうか。
少し怖い気がする…
「実家って、まさか淀鴛さんは以前この燈明神社に住んでたってことですか?」
「あぁ、まぁそいうことになるなぁ…ん?一輪君はもしかして俺の言ったことを疑ってるのか?ククク、君達にこんな嘘をついて俺に何の得があるっていうんだい?」
確かに嘘をつくメリットはないな。
「…嘘じゃない。30年前までは実際に両親と三人で暮らしていた」
計算すると5歳の頃までってことか…
ちょっと興味が湧いて来たな。
淀鴛さんの心境をいまいち読み取れないが深掘りしてみるか。
「あの、突っ込んで訊いちゃいますけど30年前に淀鴛さんがこの神社、というかご実家に住めなくなったのって何か事情でもあるんですか?」
「………..」
僕の質問に対して黙する淀鴛さん。
さっきまで余裕綽々だった表情も一変し、難しい顔をして顎に手を当て何かを考えているようだ。
たぶん僕達に話すべきか否か、心の中で自問自答でもしているのだろう…
「…..事情を話す前に三つの頼みごとがあるんだが構わないか?」
三つも!?
こういう展開の場合、普通に考えて頼みごとは一つだと相場が決まっているのでは?
「頼みごとが三つとは多すぎですよ淀鴛さん。ですが、お話しを伺いたい気持ちは少なからずあるので一応言ってみてください」
聞くだけ聞いて無理そうなら拒否するだけだ。
「…だろうな。じゃあまずは、その胸ポケットの小型カメラを停めてオフレコにしてくれ」
「えっ!?」
僕はカメラのことをと突然指摘されたのでドキッとしてしまった。
だが冷静になって考えれば結構な至近距離で会話は継続しているし、相手は今までの様子からして恐らく敏腕の刑事。
逆にバレない方がおかしいというものだ。
「『流石ですね』、とは言いませんよ淀鴛さん。でもいつからこのカメラに気づいてたんです?」
「最初にここで君達を見た時からだ」
流石ですね。
やはりこの人の洞察力は、いやこの場合観察力と云った方が正しいか。
どちらせよ、この人が優秀な刑事であることは間違いなさそうである。棘の多そうな人格は別として…
鼻から会話を記録するつもりの無かった僕は、胸ポケットから小型カメラをスムーズに取り出し、淀鴛さんの目の前で電源を切って見せたのだった。
「はい、これでOKですね。では二つ目の頼みごとを聞きましょう」
「君は頭が良くて物分かりも良いな。こちらとしては君が馬鹿じゃなくてホッとしているところだよ。それはさておき二つ目の頼みってのは、氏名を始めとした俺に関する情報の一切を村の人々には内緒にして欲しい。と言っても俺のことを話す機会なんぞそうそうあるもんじゃないが…念のためだ」
なんだ、やけに容易い頼みごとじゃないか。
「お安い御用ですよ。なんなら貴方に関する情報の全てをネット上のネタとして扱わないことも約束します」
「ククク、それは気前が良いな」
淀鴛さんの難しかった表情が僅かに砕けた。
僕はYouTuberを副業として行っているけれど、収入額が劣っているとはいえ本業はあくまでも探偵である。
お金のために人の信用を失う行為などもっての外という次第だ。
「最後の三つ目なんだが、これだけは俺の話しを聞き終えたあとで提示させて貰おうかと考えているんだが構わないか?…なぁに、君達に被害が及ぶようなことは決してないから心配には及ばないさ」
最後にして前提条件を覆す頼みごとか…
僕の中では何故か不思議と淀鴛さんは信頼に値する人だと確信していた。しつこいようだけれど人格は別として。
だが僕は良いとして助手の未桜を巻き込むことを懸念し、無言のまま同意を求め彼女へ視線を移す。
未桜は僕と目が合うと状況を把握して黙ってコクンと頷いた。
助手の同意を得られた僕は淀鴛さんへと視線を戻す。
「良いでしょう、その条件を呑んで話しを伺いますよ」
「そうか、じゃあ少しばかり長話になるかも知れないから、そこに座って話しをしようじゃないか」
淀鴛さんが指し示したのは廃墟と化した燈明神社の石でできたボロボロの階段だった。
先に淀鴛さんが階段に腰掛け、僕、未桜の順で横並びに座る。
「じゃあ俺の過去についてじっくりと語るぞ。心して聞いてくれ」
廃墟探索の時間もあるので巻きでお願いします!
などと言えるような雰囲気ではないな…
「分かりました」
「はい」
僕と未桜は、どんな話しが聞けるのかと興味津々に真面目な心持ちで待った。
淀鴛さんが両瞼を閉じたあと、ため息を一つついて随分と昔の過去を思い出しながら語り出す。
「今から丁度30年くらい前、人として当たり前だが俺は5歳の幼児だった…この神社も見ての通り、今は無惨な姿となってしまっているが、5歳の誕生日を迎えた頃に改装されて綺麗なものだったよ…」
さて、ここからは淀鴛さんの幼少期回想シーンに移るため、暫くのあいだは淀鴛さんに語り手の立場を譲ろうと思う…
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