刀姫in 世直し道中ひざくりげ 第3話 芥藻屑との戦 ノ8~10

刀姫in世直し道中ひざくりげ 鬼武者討伐編

「おお!?雪舟丸が目覚めたぞ!いよいよ本領発揮と言ったところかのう♪のうのうお銀♪ウズウズが収まらぬゆえ参戦したいのだがぁ、良いであろうか!?」

「駄目です」

 お姉色の濃いお銀に猫撫で声作戦で挑んだ仙花は冷ややかに瞬殺されあえなく撃沈した。

 そわそわしながら戦いたそうにしている蓮左衞門も挑む!

「い、いやぁ、お銀殿!幾らなんでもあれでは多勢に無勢でござるよ!助太刀に入った方がぁ…」

「駄目と言ったら駄目!今は耐えて居眠り侍の実力を測ることが先決。かの宮本武蔵に勝ったと豪語する者の強さをとくと見せてもらいましょう」

「「なんですとっ!?」」

 お銀の衝撃的な話に仙花と蓮左衞門の二人が同時に目を丸くして驚いた。

「あらあら。お二人とも昼飯時の会話を聞いていなかったようで…本人に真実か否かを確かめましたら面と向かって「勝った」と言い切ったのですよ。あの、宮本武蔵にねぇ…」

 武芸に通ずる者なら一度は耳したことがあるであろう「二刀流の武蔵」の名。
 蓮左衞門が既知であったことはもとより、仙花も光圀から何度も聞かされたかつての最強剣士の名である。

「ならば一見の価値あり、だのう」

「で、ござるなぁ…」

 仙花と蓮左衞門の二人は打って変わって静雪舟丸の戦いぶりを観することに決め込んだのだった。

 と三人がそんな会話をしているあいだに雪舟丸と四谷流甲斐は間合いを取り直し、土滑とその他大勢は雪舟丸を取り囲んだ陣形となっている。

「死ねぇっ!」

 居眠り侍の実力を知っていればしなかっただろうが、背後の数名が不用意にも一斉に斬りかかった!

 襲う男達の気を感知し、すぐさま反応した雪舟丸が素早く四谷に背を向け刀を振る!

「ヒュン!」

「ヒュヒュン!」

 斬られたと思われる三人の動きが止まり、先頭の男の頭が首から横にずれ始め、残りの二人も同じくして首から切れた頭がドサドサと地面に落ちた。

 光速は別格とし、速さの最上位を言葉で表現するなら「神速」が相応しいだろうか?
 だとすればそれは真に「神速」の剣捌きであったに違いない。

 敵のその他大勢が神業を目にして蒼白となり黙るところ、芥五人衆の一人四谷流甲斐が呟く。

「おいおい、いや、おいおいおい。なんてこったい。有り得ねぇ速さじゃねぇか…だが、面白くなって来たねぇ」

 雪舟丸の剣捌きを見て驚いたのは何も敵ばかりではなかった。

「ほえぇ~、こりゃたまげた。目で追うのがやっとの速さだわい」

「えっ!?仙花様には今の太刀筋が見えていたでござるか?」

「うむ、ギリギリではあるがな…」

 仙花が蓮左衞門に応じるあいだに雪舟丸がまた動いた。

 三人が一瞬で斬り捨てられ、怯んだ雑魚衆の中へ飛び込み斬りかかる!

「ヒュヒュヒュヒュン!ヒュヒュヒュン!」

 太刀筋の見えない剣捌きを繰り出し雑魚衆全員の隙間を縫うように過ぎ去った。そこでやっと斬られたことを悟った者達が呻き声や叫び声をあげる。

「っ!!??」

「うぎゃっ!?」

「ぬぁあああっ!!?」

 雑魚衆七人が尽く血飛沫を上げバタバタと倒れていった。
 凄まじい剣速での連続攻撃にも関わらず、全ての者を一撃必殺で葬った雪舟丸。居眠り侍、恐るべし!

「てめぇは生かしちゃおかねぇ!!!」

 仲間をやられて怒り心頭の土滑が顔を真っ赤にし、雪舟丸めがけやたらめったらと大金棒を振り回す!

「ブゥン!ブゥン!ブゥン!」

 大袈裟ではなくちょっとした風が起こるほどの素振り!そう、音と威力こそ抜群の土滑の攻撃には鋭さが皆無であり、蝶のように舞ってかわされ単なる大金棒の素振りと化していた。

「そんなんじゃ一万回振ったってあたりゃしないぜデカブツ」

「ヒュン!」

 「飽きた」とばかりに刀で斬ったのは力自慢である土滑の大金棒を振る鍛え抜かれた右腕であった。

 切断された右腕と金棒が慣性の法則に従い空を舞い。

「ズゥン!」

「ひぇっ!!?」

 目の前の地面まで届きおっかなびっくりする九兵衛。

「ヒュン!」

 次の瞬間には雪舟丸が土滑の首を呆気なく斬り落していた。
 普通なら、人を斬った刀の刃には血が付着するものだが、雪舟丸の刀には一滴の血もついていない。刀を立て、それを確かめたあと四谷流甲斐に問う。

「さて、お仲間は全員あの世へ逝ってしまったわけだが、ただ一人残ったお主はどうする?…んん?」

 芥五人集が一人、四谷流甲斐は剣を納めいつの間にか馬に跨っていた。

「お前の実力は存分に知れた。流石の俺もお前と後ろの四人を纏めて相手する気にはなれん。命あっての物種だからな。今日のところは一旦ひかせてもらうぞ。おっと、折角だ。お前の名を訊いておこう」

 四谷流甲斐は雪舟丸の実力を知り「無駄死にするよりは」と判断したらしい。

「フッ、笑止。戦わずして逃げる者に名乗る名など持ち合わせておらぬ」

「くっくく、だろうな。まあいいさ、じゃあな」

 馬ごと雪舟丸に背を向け走らせる四谷流甲斐。

「あやつ。登場はなかなか様になっておったのに尻尾を巻いて逃げるようだな」

「そのようですねぇ….仙花様」

「うむ、承知しておるよ」

 お銀に目配せされた仙花がその意思を汲み取り弓を構え、馬に乗って颯爽と逃げる四谷流甲斐に狙いを定める。

 弓幹(ゆがら)と弦(つる)へ込める力が伝わりピンと張った。

「これも一期一会の類に入るかのう…さらばだ四谷流甲斐」

「バシュッ!!」

 放たれた矢が弾丸の如く凄まじい速さで一直線に四谷流甲斐へ飛ぶ!

「ゴシュッ!!」

「っ!!??」

 後頭部へ到達した矢は頭蓋骨を貫き、額から飛び出して彼方まで行った。

 四谷流甲斐の後頭部と額から血飛沫が上がり、動かぬ身体が横へ倒れ頭から落馬する。

 仙花達が初めて相対した芥五人衆が一人、烈剣の四谷流甲斐は、烈剣という名のつく剣技を披露することなくその生涯を閉じたのだった。

「お見事!伝説の那須与一も真っ青な腕前にござるなぁ!ワッハッハ!っと!九兵衛!共にこの屍の山を片付けるでござるよ!」

 戦の後に転がる屍を放置しようものならやがては腐り、異臭を放つだけならまだしも疫病が発生する可能性もある。ゆえに屍を埋葬することも大事な仕事のうちなのだ。

「承知でさぁ!…しかし旅の初日でこんなに屍を拝むとは…先が思いやられる…」

 一人拍手喝采にて仙花を誉め讃える蓮左衞門から言われ、勢いで返事をしたものの少しボヤいた九兵衛。まぁ、気持ちは分からないでもない…

 剣術の達人?一人をなんの変哲も無い矢一本で葬った刀姫こと仙花は、今回も脇差「風鳴り」を試すことが出来なかったためか、特に喜んだ様子も見せずに弓矢を直しながら佇む雪舟丸の方へ歩き出した。

 その様子を眺めていたお銀が蓮左衞門らの方を振り向き声をかける。

「あなた方も此度は人数が多くて大変でしょうに。埋葬する穴はあたしに任せてあなた方は屍を運んで来ておくんなまし」

「えっ!?本当に任せて大丈夫でやすか?」
 
 此度の屍は全部で十二体。これだけの数を埋葬する穴を女一人でどうするのだと思った九兵衛が訊いた。

「フフフ、心配御無用。まぁ見てなって」

 そう言って道横の丘の方を向き忍術発動の構えを取るお銀。

「土遁!忍法地中発破の術!」

「ズオォッ!!」

 忍法発動と同時にこんもりとした土の丘が突然盛り上がり、大きな音ともに大量の土を吹き飛ばす爆発を起こし、その場所に深さ一丈直径十丈ほどの大穴が姿を現した。

 突然目の前で起きた爆発に腰を抜かした九兵衛が震え声で言う。

「す、凄いでやんすねぇお銀さん。あ、ありがとうございやすぅ…」

「おお!お銀殿!助かったでござるよ!これでだいぶ手間が省けたってもんだ」

 既に二体の屍を担いでいた蓮左衞門も喜んだ。

「じゃあ、あとは二人に任せたよ。全部運び終えたら教えて頂戴な。忍術で土を埋め戻してあげるからねぇ」

「いやぁ至れり尽くせりで申し訳ないがそれも助かるでござる!」

 お銀は屈託のない蓮左衞門に乾いた笑顔を一瞬だけ見せ、何やら会話をしている仙花と雪舟丸の方へと向かった。

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