僕達の世界線は永遠に変わらない 11~12話

僕達の世界線は永遠に変わらない

[現状把握と情報収集]

 親父との連絡が取れさえすれば、現状把握を短時間で出来ると踏んでいた僕はなかなか諦めがつかない。

 電波が繋がっていないと理解しながらも親父の番号に電話をかけたのだが、耳には呼び出し音やメッセージは聴こえずただ時間だけが過ぎた。

「みんなは今頃どこに居るんだよ」

 呟きながらスマホの画面を改めて眺めていると、メールアプリにメールの届いているマークが点灯していることに気付いてアプリ開く。

 届いているメールは十数件あったが、その中には結月と喬助から届いているメールもあった。

 最後のメールの日付はどちらも8月10日。

 喬助のメールには…

『明日からはスマホでの通信は取れなくなるらしいぜ。お前は海外で無事にしているか?元気にしていることを願っているよ。じゃあな』

 結月のメールには…

『世界中が酷い状況になってしまったけれど、あなたの治療が順調に進んでいることを祈っているわ。生きて匡に逢いたいです』
 
 二人のメールの内容からすると僕が治療を受けているあいだに、世界中で何かしらのとんでもないことが起こっているのが容易に考えられた。

 余談だが、結月の文面の最後を呼んだ時には、気恥ずかしさと切なさを感じてしまった

 このまま家の地下室でジッと両親を待つのも一つの手ではあるが、それでは現状の把握は出来ないし、僕は元々待つことが苦手なタイプである。

 そういう理由から地下室で待つという選択肢はあっさり捨てた。

 取り敢えず家の外に出て自分の置かれている状況を把握することに決める。

 通信機器で人との連絡が取れない以上、情報収集は自分の目で確認したり、人と会って話しを訊かなければならない。

 僕は自分の部屋の押入れからリュックを取り出し、家じゅうから物を掻き集めて詰め込んで行く。

 中身は、着替え一式、タオル2枚、懐中電灯、ミネラルウォーター1本、桃の缶詰1個、缶切り、10枚入りのガム1個といった具合だ。

 親父は僕の治療に入る前、地下室の蓄電池が1年持つようなことを言っていた。

 出来る限り貴重な電気を消費するのは避けたいと考え、地下室のエアコンと電灯のスイッチをオフにする。
 最後に開けていた家の窓を全て閉じ、リュックを背負って玄関のドアに鍵をかけて外に出た。

 玄関前で腕時計を見て現在の時刻を確かめる。
 アナログな時計の針は午後の1時25分を指し示していた。
 天気は快晴。真夏の太陽はこれでもかと言わんばかりにギラギラした光を放っている。
 住宅街に真っ直ぐ通っている車道の先には蜃気楼が見えるほどの暑さだ。
 外を歩くことが実に一カ月ぶりの僕にとって、この殺人的な真夏の暑さは当面の難敵になりそうである。

[人間の言葉を喋るカラス]

 最初の情報収集のための行き先は既に決めている。家の窓から外を眺めた時に煙の上がっていたあの場所だ。

 消防士や野次馬それにあわよくばマスコミなどが来て、人だかりが出来ているであるだろうという希望的観測から決めたのである。

 その方向を見ると、幾分薄くはなったようだがまだ煙は上がっていた。
 
 煙の方へ向かい歩きながら住宅街を眺めていると、病気の治療に入る前の記憶にある住宅街の光景と違うことに気付く。

 いくら閑静な住宅街と言っても普段であれば、人の生活音や鳥や虫の鳴き声がある程度はするはずなのだけれど、僕の耳にはそれらが聴こえて来ないのだ。

「おかしい、静か過ぎる…」

 以前から車道を走る車はそれほど多くはなかったが、もう5分ほど歩いているといるというのにただの1台も通っていない。

「カァ~!」

 静かだった住宅街に突如としてカラスの大きな鳴き声が響いた。
 咄嗟に上空へ目を向けると、一羽のカラスがまるで僕を狙っているかのように旋回している。
 
「ん?あのカラス大きすぎないか?」

 と不思議に想い呟いた刹那!

「カァーーッ!」

 上空を飛んでいたカラスがこちらを目掛け急降下した!

「なっ!?何だよっ!?」

 身の危険を感じて一番近くにある木の裏に慌てて隠れると、さっきまでいた場所をカラスが凄い速さで横を通り過ぎて行った。

 カラスはそのまま上空を飛び続け旋回を始める。

 まだ僕を襲うつもりなのか!?これでは前に進むことも出来ない…
 
 しかし、その旋回は想っていたより長く続かなかった。
 旋回を急に止めたカラスが、「ヴァッサ、ヴァッサ」と翼を動かし僕の目の前に降り立つ。
 
「で、でかい!?」

 間近に見てはっきりカラスだとわかったが、驚くことにコイツの体長は2mほどもあった。

 正直なところ、僕はかつてないほどの衝撃を受けビビりまくっている。
 狡猾で攻撃的な鳥類動物のカラス。小さければ気にも止めなかったが、目の前にいるコイツは僕よりデカい。しかも黒々とした不気味な目で、こちらをジッと睨みつけているのだから。

「おい人間!大人しくオレの餌になれ!」

「はぁっ!?」

 このバカでかいカラスが人間の言葉を喋った!?
 このあり得ない異常事態に頭が混乱しつつある。
 とにかく落ち着ちついて対処しなければならない。
 混乱してしまえば簡単にコイツの餌になって終わりだ。ん!?待てよ。人間の言葉を喋れるなら交渉の余地があるかも知れない…

「な、なあ。ちょっと教えてくれないか?」

 僕は考えてもいなかった。
 一カ月に及ぶ治療による眠りから目覚め、初めて話しかける相手が人ではなくカラスになろうとは…

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