「あの人には参った。今の実力では全然勝てる気がしない。貴方の師匠は化物みたいな強さだね」
「フフフ、剣の腕だけは日本一ですから」
「え~っと、司さん…と呼ばせてもらって良いかな?」
冷泉が和らいだ表情のまま訊いてきた。
い、いきなり下の名前ですか!?
「え、ええ。わたしはそれで構いませんけど…」
「ありがとう。俺のことは樹とでも呼んでくれ」
なんだろう、このズケズケと入って来るけど親しみやすい感じは…でもわたしは殿方を下の名で呼んだことが一度もない…え~い!ここは勢いで言っちゃえ~!
「で、では遠慮なく。い、樹様。あ、あの、樹様のお歳を伺っても?」
あれ!?何故か鼓動が早くなる一方で言葉も上手く出てこない…
「俺は18だ。今は道場を開き主にそれで食っている」
一つ年上なんだぁ。おまけに道場まで営んでいるとは…
そうだ!試合で出したあの技について訊かないと。
「気になっているので伺いたいのですけれど、樹様が最初に見せたあの三段突きはどうやって覚えたのですか?」
「あれは俺の尊敬する沖田総司という剣士の得意技なんだ。15歳の頃に父から教えてもらった」
それを訊いて「沖田総司」はわたしの本当の父なんです!と喉元まで出かかりかろうじて飲み込んだ。
「先に謝らないとならない…今日は突然現れ無礼な振る舞いをしてしまい申し訳なかった。俺の悪いくせなんだが、剣術のこととなると我を忘れてしまう節があってね」
もはや門で会った時の樹様とはイメージが全員違う。
「いえいえ、わたしも剣士ですからお気持ちは十分にわかりますよ。それに無礼を言ってしまったのはお互い様ですし…」
「そうだね、ハハハ」
「そうですわ、フフフ」
互いの言ったことが妙に可笑しくなり、二人して声を上げて笑った。
そこへ汗を拭いてスッキリした顔の師匠が寄って来る。
「お楽しみのところ悪いのだが、また風呂を入れて貰っていいだろうか?」
勝手にすればいい…
とまでは言わないけど、出来れば樹様との和やかな雰囲気を壊して欲しくなかった。
「勿論良いですよ。真琴さん。師匠がお風呂を所望しているので、お風呂を沸かして背中を流して差し上げてください」
「か、畏まりましたぁ」
師匠の後ろに居た真琴さんが顔を赤らめ恥ずかしそうに返事をした。
それを見ていた樹様が師匠に話しかける。
「奏さん、今日のところは完敗です。でもまたいつか挑戦させてもらえますか?」
「おお、剣術の試合ならいつでも受けて立つぞ。それにお前には見込みがある。腕を磨き精進するがいい」
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