驚くことにそれだけでは無く、カラハグの首が時計回りに動き出す。
度重なる能力の使用から、美琴の力が弱まっているのも一つの要因だったかも知れない。
顔を後ろへ向け美琴を確認したカラハドがクチバシを開く。
「人間の女。どうやら貴様から死にたいらしいな。この人間は放っておいてもあと数分で死に至るだろう…」
不気味な目と声をしたカラス王に脅され、美琴の背筋に悪寒が走り眉をひそめた。
「や、やれるもんならやってみなさいよ!この化け物!」
美琴の声は若干震えていたが、決して虚勢を張っているわけではなかった。
柴門を救うべく裏道を移動する葵のために時間稼ぎしていたのである。
加えて葵が作戦を達成できるよう、柴門から敵を遠ざけなければならない。
「そこを動くなよ。人間の女」
カラハグはそう言うと、サイコキネシスで縛られる身体をゆっくり反転させ、美琴を睨みつけながら一歩、また一歩と徐々に距離を縮めて行った。
「来たわね…さて次の作戦を考えないと…」
柴門が窮地に陥るまでに時間はかかっておらず、僅かなあいだで考えていた作戦は此処までで、残念なことにこの先のことはアドリブで行動するしか無かった。
カラハグが近づくにつれ、距離と歩く速度が反比例して徐々に動きが速くなる。
二人の距離が残り10mいったところで、葵が柴門に駆け寄り治癒を始めたのを美琴は確認した。
「そろそろね…上手く行くとは思えないけどあとは成るようになれだわ…」
サイコキネシス発動のためカラハグへ向けていた両腕のうち左手だけを残し、右手を家屋の縁側にある大きなガラス窓の方へ突き出す。
「頼むわよ…」
「ビキビキビキビキビキ!パリィーーン!」
4枚のガラス窓にヒビが入り割れて数多くの破片を作り出し、浮遊した状態で自身の真上に留まらせた。
「いっけーーーーーーっ!!!」
「ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュン!」
まるでガラスの破片に号令をかけるかのように上に挙げていた右腕を振り下ろすと、空中に浮く全てのガラスの破片がカラハグへ一直線に向かって行く!
「カカッ。こんなもの。クロウインパクト!」
「パパパパパパパパパパパリン!」
自身を猛スピードで襲わんとする100を超えるガラスの破片をお得意の衝撃波により一瞬で粉砕し、遠くの方へ吹き飛ばしてしまった!
「人間の女。終わりだ!?」
カラハグは正面に居た筈の美琴に最後通告をしたあと、目の前から彼女が居なくなったことに気づいた。
そう、美琴は元々攻撃を仕掛けたわけではなく、自身が身を隠すために目眩しとしてガラスの破片を飛ばしたのである。
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