未桜は相変わらず新川頼子さんの遺体を念入りに調べていた。
期待値は底をつくほど低い彼女だけれど万が一があるかも知れないの取り敢えず放置し、被害者の衣服は僕と淀鴛さんの二人で調べることにした。
壁際に置かれた折り畳み式のテーブルの上へ、一人一袋ずつ開封して丁寧に衣服を置き広げる。
偏見かも知れないけれど昨今の就寝事情においては、パジャマなどの睡眠専用衣類を着て就寝する人は減少傾向にあるのではなかろうか…
僕が手にしたのは夫の新川武治さんの衣服だったが、「寝巻き」といった感じではなく、生地が薄く濃い緑色をした普段着で着るような長袖のシャツだった。
しかし当然のことながら、「長袖のシャツ」は綺麗でも正常な状態でもなく、普通はではあり得ない刃物によって切り裂かれた部分が数箇所存在し、その付近には、新川武治さんの流した血が大量に染みついていた。
やはり実際に見てみると想像してたより酷く生々しいな…
僕は探偵稼業を生業としているけれど、普段受ける案件は浮気調査やペット探しであって、人の血液などを拝見するよう場面は滅多にない。
ゆえに多少なりともこういった光景には抵抗があるわけで…
外科の医者や殺人課の刑事をやっている人達はきっと何度も目にするうちに、感覚が麻痺して慣れてしまっているのだろう…
誰も期待してはいないのは承知の上だけれど、かなり久々の番外編である。
いやなにね。
わざわざ改めて云わせてもらうと、僕は廃墟ビルの屋上に建てられた廃墟家屋、探偵事務所兼自宅に男の一人暮らしを展開しているのだが、昨今のあらゆる属性の物価上昇がいよいよもって生活に影響をきたしているのである。
自家用車に給油するガソリンを始めとして、生活に欠かすことのできない電気やガス、まぁ、ガスはオール電化の家庭ならば除外されるだろうけれど、生憎僕の棲家はオール電化に切り替える予定はない。
無論、食材関係も軒並み値上がりして困ったものである。
こののっぴきならない物価上昇の状況に何ら対策をうたず、ただ黙って耐えるだけでは生活費が右肩上がりに上昇するのは必然であり、毎月の生活費が重くのしかかってくることだろう。
では、僕たちは物価上昇という渦中をどう乗り切れば良いのだろうか?
単純に考えれば、「その分収入を増やせば良いんじゃね?」という意見あるかも知れないが、いざ収入を増やすといってもなかなか簡単にはいかないものである。
…続きは次の番外編で語るとしよう。
ちょっとあいだを空けてしまうと話の内容を忘却してしまう可能性があることを否定できない。
よって番外編、前回の続きである。
世の中にはそうそう旨い話しなんぞ転がってはいないというのは、もはや周知の事実であろう。
ならばどうやって収入を増やす?
難しいところではあるけれど、この日本国には金稼ぎの手段ががまだまだ残されてはいるのは確かだ。
だがそれを現実化するには、当然のことながら努力と才能がある程度必要なのである。
収入を増やすことが簡単にできないなら、いったい何を行えば良いのか?
倹約、節約といった費用削減は微々たる効果かも知れないが簡単にできる筈だ。
例えばガソリン一つを例にあげれば、ガソリンタンクを満タンまで注入せず半分くらいでやめておく、こうすることで車の負担が軽くなり燃費も少しは良くなるだろう。さらに夏場ならクーラーの使用頻度を意識して減らすことをお勧めしたい。
食材等に関していえば、ほとんどが軒並み値上がりする中で、此度の参院選で政治家の方も言っていたが、米の価格は底辺で抑えられたままである。
「どんなに値上がりしようが私はパンしか食べないから放っておけ」という方は別として、米は日本人の主食であり、価格が上がらないのであればこれを生かさない手はない。
などと僕は思うのだけれど今宵はここまでに…
とはいえ、調査すること事態にまで影響が及ぶわけではない。
だから集中して黙々と被害者の衣服を調べることはできている。
だが目を見開き綿密に確認したのだけれど、残念ながら犯人への手がかりになるようなモノは一切出てこなかった。
新川武治の妻である新川頼子の衣服を調べていた淀鴛さんの方も同じらしく、衣服をテーブルの上に置き手を止めて溜息をついた。
「一輪君、何か出てきたかい?」
僕はゆっくりと首を横に振りつつ。
「いえ何も…」
折角ここまで来たというのに、何の手がかりも見つからないじゃなぁ…
僕と淀鴛さんの表情に暗い疲労の色が出つつあったその時。
「いっったぁい!!??」
新川頼子の白髪混じりで長い髪を、手でとくように触れていた未桜が突拍子もなく悲痛な声をあげた。
というかまだ調べてたんかい!
いったん心の中で密かにもツッコミを入れて続け様に問う。
「どうした未桜?」
「っつつつ、これ見てぇ。お婆さんの髪をといてあげてたら何かに引っかかって指が切れちゃったぁ」
未桜がパッと掌を開き僕と淀鴛さんの方に手を向ける。
確かに彼女の右手には薄らとした切り傷があり、そこから赤い血が滲み出ていた。
僕と淀鴛さんは互いに目を合わせ、まだ出会って間もないが、「これは得たり!」とばかりに阿吽の呼吸で同時に頷く。
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