一輪の廃墟好き 第25話~第26話「Youtuber」「違和感」

一輪の廃墟好き

 豆苗神社へはもはや手の届く距離まで近づいたが、ここで少々僕達の環境というか状況を説明しておかねばならない。

 僕が探偵の他に副業として、顔出しNGでやっているYouTuberなのは周知の実事だろう。
 
 実は今回の廃墟探索でも民宿に着いた時点からずっとカメラを回し続けていたのである。

 因みに僕の両手は何も持っていない素手の状態であり、助手の鈴村未桜も同じく手には何も持っていない。
 
 では僕が回し続けるカメラは一体何処に仕掛けているのか?

 別に勿体ぶる気もないし大した仕掛けでもないので答えを云ってしまうと、僕の着ているジャンパーの胸ポケットに仕込んであるのだ。

 ポケットのボタンに目立たない程度の装飾を加え、その部分に小型カメラのレンズがカチッと固定されているので、録画ボタンを押しさえすれば、あとは手ぶらで勝手に何もせずとも動画を撮り続けてくれるといった寸法である。

 人にはよほど注視されない限りまずバレることも無い。

 全てを自己の視点と同様の絵を撮りたければ、胸より頭に付けた方が妥当ではないのかという考えもあるかも知れないけれど、頭の何処かに小型カメラを付けるとなると結構問題が多いのである。

 例えば耳とこめかみ辺りの谷間へ鉛筆を挟むように付けたとすると、レンズ部分は良いとしてカメラの本体を別の部分へ取り付けねばならないし、本体とレンズを繋ぐコードも邪魔で仕方がない。
 もっともその方法は耳が全開する短髪の人限定であり、ロン毛では無いが耳が半分以上隠れてしまう僕にはまず持って不可能だ。

 他にもアイディアを考え色々試してみた結果、たどり着いたのが胸ポケットだったとい訳である。

 これならば人と接する時にも相手に違和感を与えることは無いし、歩いた振動でブレないように工夫してあるので安定感も抜群と云って良い。

 無論、この方法は盗撮をするには不向きであることも付け加えておこう。

 僕は盗撮する気など微塵も無いが、世の中には傘や靴などにカメラを取り付けて、下から盗撮する卑怯で鬼畜な輩も世には居るようなのでお気をつけあれ。

 そうだな、僕のYouTube 動画用の小型カメラのイメージは、最近すっかりお馴染みとなった車両に搭載するドラレコと思って頂ければ健全であろうし、幸いである。

 ところで、このカメラは民宿到着後からずっと回り続けていたわけだから、未桜が森で行った、角度を変えて見れば「破廉恥」とも取れる行動もバッチリ記録されているわけだ。が、当然その場面はYouTube 動画編集担当でもある彼女がカットしてくれるに違いない。


「此処まで色々ありましたがやっと、やっと豆苗神社に着きました〜」

 僕はyoutube向けに声色を変えてそう言った。

 一旦落ち着き、YouTubeと小型カメラの話しはこの辺で切り上げ、メインディッシュの廃墟たる豆苗神社の探索に集中しようと思う。


 鳥居は片方の柱が荒々しく真っ二つに折れ、通常なら平行に並んでいる最上段の笠木とその下の貫(ぬき)と呼ばれる部位が斜め45度に傾いていた。

 まるで神社本殿へ人が踏み入ることを拒むかのように…

 だがそんなことを気にするどころか興味が沸き上がって仕方なのない僕は、歩く速度を加速して一気に近づく。

 小さい鳥居であるとはいえ、笠木と貫を支えていた柱は僕の腰くらいもの太さがあり、どうやったらこの太い柱が折れるのか検分しながら暫し考える。

 折れたのは木造建築物の天敵であるシロアリの仕業なのか、経年劣化により弱ったところで強風にでもやられたのか、雷が直撃し破壊された可能性も無くはない。
 もしかしたら人為的なものかも知れないが、仮にそうだとしたら罰当たりにも程があるというものである。

 結局、鳥居の柱が折れた原因を突きとめることは出来なかったけれど、遅まきながら一つ肝心なことに気が付いた。

 普通の鳥居なら掲げられているであろう、神社の名称の彫られた「神額(しんがく)」が何処にも見当たらないのである。

「んん、『神額』が掲げられていない鳥居ってのもあるかも知れない。か…」

 神社の入り口で立ち止まったまま、多くの時間を割くわけにはいかないと考えた僕が前へ進もうとした直前。

 空気の澄んだ荘厳ともいえるこの静まり返ったこの空間に、助手のご機嫌な声が響く。

「一輪!見て見て〜!そこの草むらで神社の『看板』見つけちゃった〜♪」

 看板だと!?

 僕は「看板」というこの場に相応しくない単語に強く反応し、彼女の声がする方向へサッと目を向けた。

 そこにはまるで何かの大会で優勝でもしたかのように満面の笑みを浮かべ、「神額」を両手で持ち頭上に掲げる彼女の姿があった。

「…未桜、君の持っているそれは広い意味で看板ではあるけれど、決して『看板』などと軽く言ってはいけない重みのある物なんだ…ん!?待て、その看、『神額』に彫られている文字、なんだか変じゃないか?」

 僕は神額に彫られた文字を遠目から直視して、頭の中がぐにゃっとなるような違和感を覚えた。

「だよねぇ、わたしも最初に見た時『アレ!?』って思ったんだよねぇ…」

 未桜の疑問符はもっともであったし、僕も自分の目を疑わないわけにはいかなかった。

 何故なら神額に彫られた神社の名称は僕達の知る「豆苗神社」ではなく、恐らくは読み方だけ同じの「燈明神社」だったのだから…

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