一輪の廃墟好き 第23話~第24話「森林浴」「鳥居」

一輪の廃墟好き

 春の陽気を演出していた太陽の光が雲によって遮られ、森の中は若干薄暗く見通しが悪いように思える。

 辺りには鳥の鳴き声や、木々に生える葉っぱがサワサワと揺れ重なる音、僕達が歩き枯れ枝や枯れ葉を踏んだ時の音、などなどが聴こえるけれど、都会での日常的な喧騒からすれば比べようも無いほど静かなものだ。

 森の様々な種の植物が醸し出す香りも心地よく、さっきまで騒がしかった僕達の心を随分と穏やかで落ち着いたものにしてくれた。

 だが、まるで幻想世界を歩くように森林浴を満喫している僕の耳に、邪魔な声が背後から届く。

「だぁぁーーーっ!また何かが服に引っ掛かっちゃったぁぁぁぁ!」

 うるさい!黙ってくれないかな。
 折角の森林浴が台無しじゃないか…

「だから言ったろう。森の道は険しいって。事前情報は与えていたんだから恨むなら服を忘れた自分を恨めよ。些細なアクシデントはグッと堪えてくれ。僕は森の静かな空間を堪能したいんだ」

「んもう、そんなこと分かってるよ~。一輪を恨むわけないじゃん。よし!こうなったら奥の手だぁ♪」

 未桜はそう言いうと、急にワンピースのスカート部分の両端を掴み持ち上げた。

「おっ、おい!?何やってるんだ!?」

 突然の思い掛けない行動を目の当たりにした僕は若干狼狽するも、未桜のあらわになった白く綺麗な太ももをガン見する。そりゃ健全な男ならガン見するだろ。

 自身の品格を守るためにも断っておくが、僕は「どすけべ」でも「むっつり」でもない。筈である。

 人のスケベ度合などいくら自分で評価しようが、結局のところ他人の評価が全てと云えるかも知れないけれど、敢えて声を大にして云っておきたい。
 
 僕は極めて一般成人男性のスケベ心しか持ち合わせていないのだ!と。

 ここで一つ論じてみよう。

 例えば女性が思い掛けず男性の秘部などを見た場合、咄嗟に手で目を覆い隠す行動に出ることは容易に想像できる。が、逆の場合を想像するとなると果たしてどうだ!?如何とも想像し難いものではないだろうか!?

 そう、このケースの場合、咄嗟に目を覆い隠す男性なぞ極々僅かな少数派でしかないのである。

 謂わばこれは天から降ってきた「貰い事故」のようなものなのだ。

「これでオッケ〜っと♪」

 さて、男の性(さが)的行動の正当性を証明している間に未桜の方は事が済んだようである。

「って、何やっとんじゃ!?全然オッケ〜じゃないわ!」

 僕は彼女にツッコミを入れざるを得なかった。
 何と未桜のワンピースはめくりにめくり上げられ、太ももをギリギリのところまで披露してしまうミニスカートと化していたのである。
 これではちょっと屈んだだけでも下着登場と相なってしまうではないか!

「えっ!?あっ、あぁ…ちょっとめくり過ぎちゃったかなぁ、でもこれで障害物に引っ掛からなくて動き易くなったと思うんだけど…」

「確かにそのメリットはあるけれど、肌が剥き出しの状態では傷だらけになってしまうじゃないか…ちょっと待ってろ」

 それに目のやり場に困って目が大いに泳いでしまうではないか。

 僕は背負ったリュックを地面へ下ろし、中からいざという時の登山用ズボンを取り出し未桜へ手渡す。

 助手の柔肌を守らなければという熱い気持ちが、極一般的な男の下心に勝利した瞬間であった。

「おっと~!?本当に借りちゃって良いのかなぁ!?あとで待ってる落とし穴とかない?それにそれにこれって、
一輪にがいざって時のために持ってきたものなんでしょ?」

 ズボンを受け取った未桜が途方もなく驚いた表情を浮かべた。
 しかしそんなに僕の厚意は意外なものだと思われているのか…

「あ、ああ、そのつもりで渡したんだから全然構わない。だから遠慮無く好きに使ってくれたまえ。助手の柔な足が傷だらけになるのは僕が望んでいるところではないからな」

 渋々、否、気遣って渡した畳んであるズボン広げた未桜が、周囲を気にせず早々に履こうとするので僕は反射的に目を背けた。

 少しの間を起き未桜へ視線を戻すと、
ズボンの丈が合わず、裾を丸めて帳尻を合わせた彼女が陽気に言う。

「よし!今度こそ準備万端!ペースを上げて進んじゃおう♪」

「うむ、そうだな。ラーメン屋を出てからはスケジュール的に少々遅れ気味だ。未桜の言う通りペースを上げて行くぞ。あっ!それと、豆苗神社に着くまでの間は余計な会話は極力控えることにしよう」

「は~い♪極力沈黙了解であります!」

 未桜の返事はハキハキとしていていつも気持ち良く感じているのだけれど、大抵は何処かで言われた事を忘れポカをやらかしてしまう。
 
 だが僕は彼女を助手として迎え入れた判断を後悔したことなど一度もない。
 
 良いじゃないか「ポカ」するくらい、だって人間だもの。

 といった具合であるし、何より彼女の言動は突拍子がなくワンパターンでもないから一緒に居ても飽きないのだ。

 現状では一日の中で同じ空間を共にする時間が誰よりも長いのは未桜なのだから、ずっと一緒に居ても「飽きない」という事象は何よりも重要なのである。

 などと考ながら獣道の如く歩き辛い道を僕達は黙々と進み行く。

 風車のあった入り口から歩き始めてかれこれ一時間が経とうとした頃、木々の生い茂っていない地面の平坦な空間が視界に飛び込んだ。

 荒れた道を慎重かつ急いで歩き続け、予想していたよりも遥かに体力を消耗していた僕は、正直なところ安堵したものである。

 きっと、此処まで来るのにトラブル多すぎて余計に疲労感があるのだろう。

 森を抜け広く平坦な空間に出ると、未桜が両腕を上げて気持ち良さそうに身体を伸ばす。

「ん〜!気持ち良いなぁ!森林浴も良かったけれど、広々とした場所に出るとまた違った良さがあるね〜♪」

「確かに解放感はあるな。それよりほれ、豆苗神社の鳥居がもう見えてるぞ」

 現在の位置から距離にして50mほどだろうか、木造の半壊した小さめの鳥居を僕は指差し未桜に伝えた。

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