『廃墟』とは建物、施設、街などが使用されずに荒れ果て、そのまま放置されているものをいう。
一言で『廃墟』といっても形態は多種多様で、人が生活の拠点としていた一軒家、複数の世帯が住んでいた集合住宅、病人が訪れる病院や、人が動物的本性を曝け出すラブホテル、果ては世界文化遺産となっている長崎の軍艦島、などなど繰り返して云うが多種多様である。いや、「あった」というべきだろうか…
人の管理が行き届かず、周囲には好きなだけ雑草が生い茂り、屋内は埃だらけで煤だらけ、場合によっては虫や小動物のフンも散乱している廃墟。
全くもって古く汚いイメージが先行してしまいがちな廃墟だけれど、世間では一時期のブームにすらなったものだ。
写真家の被写体のかっこうの的になり
、有料のお化け屋敷代わりに若者の肝試し場所となったり、YouTuberのネタにされたり、元気溢れる暴走族の溜まり場になったりと、人が無料でしかも無許可(本当は許可が必要な場合あり)で使用している場合が多い廃墟。
だが、この廃墟というものを訪れるには多少なりとも根性が座ってなければならない。と思う。
何故なら、廃墟というものは元来人々が日常生活や職場として活用していた場所であるから、その人々の思念や怨念などが染み付き残っているケースがあるからだ。
人々の思念や怨念が残っていればどのような問題が起こるかは察して貰えるだろうけれど、敢えて分かり易い例を云うならば、不動産業者などが扱う物件の中で兎角邪魔者扱いされる『事故物件』である。
この『事故物件』たる厄介な物件は、賢明な皆様におかれましても物件を選択する上で除外するものであろうことに疑いはない。と勝手に想っている。
おっと、夢中になって自己紹介が遅れてしまった。
では、年齢25歳にしてまごう事なく男であり、そして自分で云うのもなんだけれど美青年で頭脳明晰な僕の名は、荒木咲一輪(あらきざきいちりん)。
今日まで生きてきて親に訊いたことはないが、いや、幼かった頃一度だけ母親に訊いたことがあったかな…「なんで僕のお名前は一輪なの?」と…
母親は綺麗な顔で微笑みを浮かべこう答えたものだ。「おもしろいでしょ」と…
訊いた当時、幼かった僕がこの一言をどのような感情と感想を持ったのか覚えてなどいないけれど、大人になった今考えれば確かにおもしろい。かも知れない。
おもしろいし、珍しいし、何より呼ばれた時の響きが心地良い…
などと慎ましく感傷に浸ってみる。
いやいや、「感傷に浸る」という言葉を何気に調べてみれば、なんと「物に感じて心を傷めること」とあるではないか。
自負していた頭脳明晰が聞いて呆れるは!!!
と一人ツッコミを軽く済ませたところで少しばかり落ち着いてみよう。
うむ、やはり落ち着いて考えても僕が「頭脳明晰」であることは揺るぎない事実であり、それを証明することは実に容易である。
なんせ僕は東京大学を首席で卒業したほどの「天才」と呼ばれた男なのだから!
世界的なランキングは落ち気味な東京大学だが、我が日本国において最高の大学であることは間違いない。
つまりそんな素晴らしい大学を首席で卒業した僕は「天才確定」なのである!と声高々に云っておこう。
次に「美青年」の部分についても敢えて説明しておかなければなるまい。
手っ取り早くかつ分かり易く云うなれば、小栗旬と菅田将暉と横浜流星を足して4、いや3で割ったようなイケメンをしているのだ!
フフ、一瞬控えめに伝えようとした自分に奥ゆかしさを感じてはいるけれど、並べた俳優を3で割っても随分とまぁ分かりづらくなったものである…
まっ、投げ出すような形にはなるが、とにかく頭脳明晰な上にイケメンなのだ。
ところで、僕は日常生活をおくるための住宅であり、仕事場としても利用している廃墟に住んでいる。
廃墟に人が住んでしまえばもはや廃墟と呼べるかどうか甚だ疑問が浮かぶかも知れないけれど、とある町の一角にある廃ビルの屋上に建てられた一軒家の廃墟が僕の「家」にあたるのだ。
役所を尋ねてみたところ、30年ほど昔に何処かの金持ちが建てたビルと家らしい。
10年ほど前に所有者が重い病気で亡くなり、このビルと家は一人の相続人が相続してから一切手付かずの放置状態だったようで、しかもその相続人が3年ほど前から行方知れずになってしまったとのことである。
ゆえに元の所有者が亡くなってからこのビルと家は10年近く放置されていた状態であり、僕が見つけた時には僕好みの廃墟と化していたわけだ。
そうだな、この家がどのような造りかを伝えるならば、名作「となりのトト○」に出てくるサツキとメイ達の家の広さの四分の一、木造ではなく古びたモダンなレンガ造りといった感じだろうか…
だから役所の人に掛け合って「管理するなら住んで良し!」と言われた時は震えたね。
飛び上がって喜びはしゃがずただ震えたね。
では次に僕の仕事についてなのだけれど、これはもう単刀直入に「探偵」である。
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