僕達の世界線は永遠に変わらない [弱点]

僕達の世界線は永遠に変わらない

「ヴン!」

 十数羽の化け物カラスをいとも簡単に一羽残らず討ち取った飛鳥井が、二人と一匹の元へ怪我もなく無事に帰還した。

 疲れた様子を微塵も見せず笑みを浮かべて二人に話しかける。

「待たせたねぇ、二人とも。残党の掃討は完了だ。いやぁ、能力を使った戦闘にもだいぶ慣れてきたな」

 改めて説明するのもなんだが、世界に異変が起きてさえいなければ大学も存在し、飛鳥井晴明は大学に籍を置く学生なのである。

 彼は「神の戒告」以前の世界において、動物を殺すような行為をした経験したことなど一度もない。

 例え相手が化け物のじみたカラスだったとしても、彼がたった一ヶ月ちょっとのあいだで生物の命を簡単に奪える人間となり、自身の戦闘能力が向上することに喜びを覚え始めていた。

 しかし、これは彼だけに当て嵌めて云うなうことでは決してない。他のメンバーにしても、現在の世界では平和だった時の常識や概念は徐々に崩れ、未来に向けて死なずに生きていくためには必要不可欠な変化なのである。たぶん恐らく…

 チャラが平然と気持ち良さ気に熟睡しているのも理由の一つであったけれど、三人は屋根の上に座り込み、南へ進行する前に暫しの休憩をとることにした。

 思わぬチャラの活躍や、飛鳥井の作戦が見事に功を奏した結果、三人と一匹は200以上の化け物カラスとの戦闘を10分程度で終わらせ、誰一人として傷を負わずに体力の消耗も抑えられていたのだが、チャラだけは三人より激しく疲労しているらしい。

 腰を据えて落ち着いた雰囲気になったところで匡が訊く。

「あの、飛鳥井さん。僕と結月、それにチャラはカラスの王って奴に会ってないから知らないけれど、そいつは飛鳥井さんが怖がるほど強いの?」

 飛鳥井が化け物カラス達を縦横無尽に倒していく様を見ていて、「この人に勝てる者などいないのでは?」と思っていたのである。

「恐らく強いよ。カラス王カラハグを二度も拝見させてもらった身から言わせてもらえば奴の強さは底が知れないね。実際に不意打ち食らわせてみたけど、奴にはそれくらいのポテンシャルを感じた…」

 二人の会話を聞いていた結月が割って入る。

「でもでもぉ。飛鳥井さんの瞬間移動ならそいつの背後をとってこうサクッと倒せないの?」

 結月は匡の背後に回り、手をナイフに見立てて首を掻き切るジェスチャーをした。なかなか奇抜な発想をする女子高生である。

「ん〜…相手がよほど疲れて油断しまくりの状況なら可能かも知れないけど、普通の状態ではまず無理だ。瞬間移動にも弱点があるからねぇ」

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