少年とタマとムギの捨て猫あやかし物語9~10話

少年とタマとムギの捨て猫あやかし物語

[白狐のキムラ」


「よし、二人とも!事が起こる前に一旦ここを離れよう!」


「シャーーーッ!」


 …早すぎだタマ。
 僕が言う前に事は起きていたようで、既にハクビシンとタマが睨み合っていた。
 !?今気づいたが、ハクビシンの姿は僕の目で見てもムギの言った雷獣とやらになっていたのである。


「妖狐結界!」


「ヴン!」


 後ろから誰かの声が聞こえ、一瞬目の前の空間が歪む。
 周りを見渡すと空や園内の色が、薄茶色のサングラスを通して見るように変わっている。
 そして、僕たちの後ろに立っていたのは白いスーツ姿の若い男だった。
 いや、ただの若い男では無く、頭から白くて長い耳が出ていて、腰の辺りからは白くて太い尻尾が何本も見えている。
 あやかし、怪異、妖怪の類であることは間違い無かった。
 その白スーツの男を見たムギが訊く。


「違ってたらごめんなさい!このあいだ古書店に長居してた白狐さんですか?」


 白スーツの男がニヤリと笑いキザな顔をする。


「如何にも!貴方たちの働く古書店に現れ長居した白狐で名をキムラ!と申します」


 あ、こいつ容姿は美形で申し分無いけどちょっと痛いヤツ決定だな。


「たった今この私が結界を張り、ここは現実世界と遮断された別空間になっています。その雷獣はこの私に任せて貰えませんか?」

「駄目だーーーっ!こいつはボクと闘うんだーーーっ!」


 タマがキムラに吠えた!
 いやタマよ。厄介なことを好き好んで引き受けようとしている輩がいるのだから、ここは譲って差し上げるのが得策だぞ。


「ふむ、その意気や良し!お嬢さんの好きにしてみると良いでしょう!ハッハッハッ!」


 いや良く無いですから。


「タマ!君は戦闘とかした事ないだろ!ここはキムラに任せろ!」

「だからだよっ!この雷獣は初戦として打って付けじゃないか!誰がキムラなんかに譲ってやるもんか!」


「フッ、貴方たちどうでも良いですが初対面でしかも歳上に対して呼び捨てとはあんまりじゃ…」


「ヴァリヴァリヴァリッ!」


 キムラのどうでもいい言葉を遮るかのように突然、檻の中が光り雷が走った音が響く!


「お前ら好き勝手言いやがって!オレ様も舐められたもんだ」


 雷獣がさっきの雷で溶けた檻の隙間を通り外に歩いて出る。
 身体がハクビシンの時の10倍ほどの大きさになり、電気が身体中を走っているのが分かった。
 雷獣がタマを鋭い眼で睨みつける。

「お前、猫又だろ。しかもまだ子供じゃねえか。オレ様とやり合うのはちょっと早すぎるんじゃねえか!」


「うるさい!やってみなきゃわかんないだろうが!」


 かくしてタマ対雷獣の図式が完成し、穏やかなはずの動物園で死闘が始まろうとしていた。

[タマVS雷獣]


「命知らずな奴だっ!」

「行っくぞーーーっ!」 


 タマと雷獣が互いに向けて猛烈に駆け出す!

 そのスピードは見た感じ互角といったところだろうか。


「ザシュっ!」

「ウッ!?」


  雷獣の突き出す鋭い爪をひらりとかわしたタマが敵の背中を切り裂く!
 よく見るとタマの手首部分から爪の先まで猫の様相を呈しており、その爪は大きく鋭利な刃物となっていた。
 それを見ていた白狐のキムラが嬉しそうに言う。


「ふむ。生まれて初めての戦闘で臆せず良い動きをしています。タマさんの身体能力と戦闘センスには素晴らしいものがあるようですね」

「キムラはあれだけしか見てないのにそこまで分かるのか?」


「フッ、また呼び捨てにしましたね。呼び捨て決定ですか?」

「呼びやすいしお互い親近感が持てるだろ。僕の事も天馬と呼んで構わない」


「フッ、そういう事にしておきましょう。天馬、私はこう見えて何百年と生きてきた白狐なのです。少し見れば妖怪の強さはある程度測れるというものなのですよ」

「え!?キムラは何百年も生きてるのか?」


「そうですよ。あやかし、怪異、妖怪の類は人間と違い寿命が遥かに長いのです。おっと!話している間に雷獣が本気を出して来たようですね」
「あ!?」


 闘っている両者に目を向けると、雷獣が身体から電撃を放出してタマの防戦一方になっていた。


「わっ!とっ!ほっ!?」


 電撃だけに凄まじい速さで飛んで来る連続攻撃をギリギリで回避し続けるタマの表情には余裕が無い。


「飛び道具なんて卑怯だぞ!雷獣のおやじ!」

「馬鹿を言うな幼い猫又!これはオレ様の得意技で道具では無い!それに闘いに卑怯もクソもあるか!」


 雷獣の言う事の方が正論であり、タマを擁護する言葉は見つからない。

「ぎゃっ!?」


 ギリギリで回避していたが何十発も放出された雷の一つが遂に直撃する!
 タマの服や耳、手や尻尾がプスプスと焦げていたが倒れてはいなかった。


「フーフーフー…もうあったま来たぞ!」


 そう言ってタマが両腕を天に向けると長かった猫の爪が更に3倍ほどの長さになった!
 猫の爪から青白い妖気が溢れ出し纏わりついていき、両腕を雷獣に向けて「ブン!」と振り下ろすと同時に叫ぶ!


「なんか出ろやーーーーーっ!!!」


 単なる思い付きで技を繰り出したようだったが、その行動が功を奏し、空を斬る猫の爪から何かが放出された!?

「ビュッ!」


「ザシャシャッ!」


「がっ!?」


 放出された何かが雷獣の身体を数カ所切り裂き血が噴き出す!


「あれはカマイタチの出す風の刃に似ている…」

 一部始終を見ていたキムラがそう呟いた。

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