少年とタマとムギの捨て猫あやかし物語7~8話

少年とタマとムギの捨て猫あやかし物語

[ライオンの子供]


 現在ライオンを見始めてから30分が経過しようとしていた。

 タマとムギが檻の前にちょこんと座り、飽きもせずただ黙ってジーッと観ている。


「タマ、ムギ、そろそろ次の動物を観に行かないか?野生のライオンを観るならまだしも、檻の中のライオンをそんな超時間観るやつは初めて見たぞ」

「まったくもーうるさいなー天馬は。百獣の王だぞライオンは!そしてキングオブネコだぞ!」


 微妙に二個目の言い回しが引っ掛かったが流しておく。

「ムギもまだライオンに飽きが来ないのか?」


「だって〜、ライオンの子供が可愛すぎるんだもん。大人ライオンとのギャップがあり過ぎるのがまた良いんだなぁ」


 それには僕も手放しで賛同しよう。 ライオンの子供の可愛さと来たらもう、シロクマの子供と比較しても遜色ないのではなかろうか。
 しかし、理解はできるが同じ動物にこれ以上時間を掛けていては、とてもじゃないが時間が足りない…「お!」 この地蔵様のように固まって動かない二人を釣るいい餌を見つけた!


「タマ、ムギ、あっちの檻でトラが餌を食べてるぞ」


「なにー!餌を食べてるトラ!?それは見逃すわけにはいかーん!」


 タマはもの凄いスピードで駆けて行ったが、ムギの方は微動だにしていない。


「ムギ、そろそろ僕らも行こう。肝心のハクビシンも観れなくなるぞ。それにタマを一人にしてると何が起こるか分からない」


 そう言うとムギは渋々トラの方へ移動してくれた。
 トラの檻の前へ着くと、タマはかぶりつくようにして肉にかぶりつくトラを観ている。
 ムギはトラにはあまり興味を示さず、名残り惜しいのかライオンのいる檻の方を見ていた。
 僕はライオンを忘れさせようと話し掛ける。

「ムギ、結構前に本で読んだ話しだけど、トラってティラノサウルスと闘って勝てるかも知れないんだってさ」


「!?ティラノサウルスってなに?この動物園にもいるの?」


 そっか、知らないか。
 僕はつい勘違いしてしまっていた。
 僕は15歳で15年以上生きてそれなりに知識が増えているのだけれど、タマとムギは恐らくこの世に生を受けて3年くらいな訳で、見た目は僕と変わらない年齢の二人に通じない言葉も多いことを。

「ティラノサウルスっていうのは大昔の地球にいた生物で、現在は存在しないし当然動物園にはいないよ」


「ふ〜んそうなんだ。でもちょっとは興味が湧いたかも。明日古書店でティラノサウルスの本を探してみるね」


 言い終わるとムギがトラの方を向いてくれた。
 どうやら僕の苦労は少し報われたようである。

[檻の中の雷獣(らいじゅう)]

 予想通りタマがハマってしまい、30分もかけてトラを観ることになってしまった。


「タマ~。ムギの観たいハクビシンまでまだ何種類も動物がいるんだ。トラはまたにしてそろそろ移動するぞ」

「仕方ないなー、わかったよ」


 ムギに配慮したのかタマは意外にもすんなり従ってくれた。
 次々とネコ科の動物を観て行く。
 ジャガー、ヒョウ、ピューマと続いたが、ライオンとトラを観た後で迫力不足だったのか、二人ともさほど興味を示さなかった。
 しかし、猫のコーナーに差し掛かるとまた興味を示し出す。
 まずはサーバルキャットという猫だが、小顔で大きな耳をしていてすらっとした体型。

 説明文を読むと「猫界のスーパーモデル」と書かれていた。


「本当、綺麗なお姉さんって感じがするわぁ」


 目を輝かせたタマとムギがサーバルキャットを食いつくように観ている。
 最近はめっきり猫姿の少なくったタマとムギだったけれど、猫の時は特別な猫という感じは無く、至って普通の子猫だったような気がする。

 二人はサーバルキャットの姿を見て羨ましく思っているのかも知れない。


「二人もいつかはこんな風に成長するかもよ」


 適当に言ってみたのだが、二人は満更でも無さそうな顔をしていた。
 次がマヌルネコと云って、イランやモンゴルの荒野に生息するヤマネコである。

「この猫可愛い~!サーバルキャットとはまるで逆だわぁ」


「ハハッ!ホントだ。ずんぐりむっくりで耳小さいし顔が大きく見えるな」


 という具合でタマとムギは比較して楽しんでいるようだった。
 いよいよ次はムギが楽しみにしていたハクビシンの登場。

「ムギ~!ここでやっとお目当ての動物が観れるぞー!」


「え!?今行くー!」


 先に移動していた僕がムギを呼んだ。


 「しかし、ハクビシンって猫に見えるけど顔がなんだか違う動物に見えるな」というのが素直な僕の感想である。


「どれどれ~ハクビシンさんこんにちは~…!?」


 檻の中を覗き込み陽気に挨拶したムギの顔が一変して凍りつく。

「どうしたムギ~、そんな怖いもの見るような顔をして~…!?」


 声を掛けてハクビシンを見たタマの表情も凍ったようになってしまった。

「ムギ、こいつってまさか…」


「うん、妖怪だよ。凄い妖気だからタマにも分かるんだね」

「ああ、僕の目には普通の動物の姿で見えてるけど、こいつの出してる妖気が普通じゃ無いからわかるよ」


 二人の会話からこのハクビシンが普通じゃ無いのは理解出来たが、人間の僕が妖気を感じることは無かった。

「雷を操る妖怪、雷獣…」


 ムギはそう呟いた。

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