[老中ムラクモ]
「このお方はムラクモ様である。老中という高い身分にあるお方だ。しかと考えて接するがいい」
ハンゾウの片腕的な存在だろうか? 年老いた爺さんだが、只者でない雰囲気を感じた。
同じ事を繰り返し話すのは嫌いだがまた話す。
「ハンゾウ陛下に挑戦状を叩きつけたいんですけどどうたらいいでしょう?」
師匠より老けて見えるムラクモ様が怪訝な顔をする。
「お主、まだまだ若いようじゃが、本気でハンゾウ陛下に挑戦する気か?」
若いというのは時に人を見くびらせるものだな。
「もちろん俺は至って真剣です。お金も準備してありますから挑戦させて下さい!」
お金というワードにムラクモ様が反応したのを俺は見逃さない。
「このバックパックに1億ギラ入ってるんですよ!」
俺はシャーリに目配せをしてバックパックを指差す。
シャーリは札束を取り出し、笑みを浮かべながら目の高さにゆらゆらと揺らした。
「嘘じゃ無いですよ~。この中にしっかり1億ギラ入ってますからね~」
ムラクモ様がそれを見て言う。
「よかろう、許可は必要だがハンゾウ陛下に会わせてやる。ついて参れ」
ようやく取り次いで貰えそうだ。
俺達はムラクモ様の後ろをついて行き城内に入った。
木製の廊下を歩き大きな襖のある部屋へ着くとムラクモ様が静かに言う。
「伺いを立てるからお主達はここで待っておれ」
俺は頷き指示に従う。
「ハンゾウ様、ムラクモにございます。話したいことがありますので入ってもよろしいでしょうか?」
暫くの沈黙のあと、襖の先から低い声が聞こえた。
「ムラクモか…入れ」
言われたムラクモ様が襖をそっと開けて部屋の中に入り、また襖をそっと閉める。
俺達は色々な意味でドキドキしながら廊下に正座して待っていた。
暫くして襖が開きムラクモ様が顔を出す。
「ハンゾウ陛下のお許しが出た。入って参れ」
部屋に入った瞬間に異様な雰囲気を感じる。
シャーリも同じように感じているのか表情が険しくなっていた。
目の前には、床から少し高めの位置に小さな部屋があり、ブラインドに人影が映って見える。
ムラクモ様から座るよう促され畳敷の場に正座した。
ブラインドの向こうから、ハンゾウが低く重々しい声で話す。
「オレに挑戦したいというのは貴様だな。名は何と申す?」
この部屋の異様さはこいつの発する禍々しいオーラの所為だと気付きつつ名乗る。
「ガビトの弟子にして忍者のレオンと申します」
「…ガビトの弟子と申すか。それはおもしろい。ガビトの弟子でオレに挑戦するのは貴様で2人目だ」
「2人目」、この言葉に少なからず動揺した。
[兄弟弟子のサルトビ]
「2人目という事は以前にも師匠ガビトの弟子が貴方に挑戦したのですか?」
「…そうだ。奴と戦ったのは5年ほど前になる。名は確かサルトビとか言ってたな。奴は強かったがオレには及ばなかったようだ」
今回は兄弟弟子のリベンジにもなる訳か。
「挑戦状はそこのムラクモに渡せ。それと肝心の金はどこにあるんだ?」
ハンゾウはひょっとしたら資金調達のためにこの挑戦ルールを作ったのかも知れない。
「今出します。シャーリお願い」
「了解」
シャーリは魔法のバックパックから大量の札束を取り出し並べた。
「ムラクモよ。確かめて金庫に入れておけ」
「承知しました」
ムラクモは言われた通り札束の数を数え確認する。
「確かに1億ギラございます」
そう言って1億ギラを風呂敷に包んだ。
「いいだろう。これでオレと戦いもし勝てば、忍びの国絶影は貴様の物だ。決闘は明日の正午より執り行うものとする。場所は城下町青玉の忍者修行場だ」
「分かりました。では明日の正午に」
「す〜、ぷは〜」
俺達は城から出ると大きく深呼吸した。
「おもーい空気だったね。息苦しいったらありゃしない」
「ああ、前世で色々な経験して来たけどあんな重い感じは初めてだよ。何だったんだろうねあの重苦しさは?」
「あの二人の発するオーラ的な気が原因だとは思う。ハンゾウもだけどムラクモもやばい奴っぽかったもんね」
「確かに。しかし、ハンゾウはあんな感じでよく人々から崇拝されてるね」
「たぶんこの城下町の人達に限っての事じゃないかなぁ。だって白露の人達は全然崇拝してる感じはしなかったし」
「そう言われればそうだ。いや、俺がハンゾウに勝ってこの国を手にした後の事を考えたら、崇拝していた国の人達の心境ってどうなるんだろうって思ってさ」
「そうねぇ。国のトップに立ったら国政の事も考えなきゃだもんね。レオンがそういうの苦手だったら右腕になる人を探せばいいんじゃない?因みにわたしは国政とか向いて無いから悪しからず〜」
「シャーリには一緒に異世界統一をして欲しいし、大賢者の目標もあるから元々考えて無いよ」
「そゆこと〜。もしかしたらこの城下町に国政の得意な人材が埋もれてるかも知れないし」
「そうだな。明日の決闘で勝ってから人材探しをしてみよう。ところでシャーリ。新技を考えてみたんだけど、今からその技を完成させるのに付き合ってくれる?」
「そんなのお安い御用だよ〜」
こうして俺達は魔法の絨毯に乗って近くの森へ行き、決闘の勝率を上げるべく新技を完成させたのだった。
[決闘開始!]
ハンゾウとの決闘当日。
宿泊していた宿屋を出て決闘場所のある忍者修行場までシャーリと歩き着く。
俺の見立てでは忍者修行場は全体で東京ドーム2個分の広さがあった。
決闘場所は修行場の中央にある。
そこにはハンゾウとムラクモの他に忍者装束を着た者が10名立って並んでいた。
因みに俺は試験終了時に師匠に貰った灰色の忍び装束を着ているが、頭巾が苦手で外している。
老中のムラクモが言う。
「しっかり時間通り来たのう」
「もちろんですよ。大事な日です。遅れる訳にはいきませんよ」
忍者装束姿のハンゾウが言う。
「臆せず良い心掛けだ」
昨日はシルエットしか見えず、姿を見る事の出来なかったハンゾウの身長は180cmくらいだろうか。
例えは悪いがヤンキーの10倍は眼力があり、相変わらずの禍々しいオーラを放っていた。
決闘の間シャーリは試験の時と同様に、魔法の絨毯に乗って上空で観戦する。
ムラクモが俺とハンゾウに向かって話し出す。
「では決闘のルール説明を始める。双方しかと聴くように」
「よろしくお願いします」
「頼む」
「基本的にこれは決闘であり文字通り生死を賭けた戦いである。相手が死亡、気絶、降参した場合に勝者と看做す。攻撃手段は問わず時間制限も無いが、この決闘場内から出る事は罷りならぬ。外に出た場合その者は敗者と看做す。もし勝者がレオンとなった場合は、忍びの国絶影の新たな統治者に成る事を付け加えておく。両者に依存はあるか?」
「無いです!」
「無い!」
「よろしい。では双方、印のある場所に移動するのだ」
いよいよ国盗り物語の第一歩だ。
試験の時のように互いに20mの距離を空けて向かい合う。
二人を見てムラクモが始まりの合図を告げる。
「決闘始めっ!」
相手の力が分からない状況であれば、遠距離攻撃で様子を見るのが無難だろう。
俺は先制攻撃を仕掛けた。
「風遁!操風手裏剣(そうふうしゅりけん)の術!」
「ヒュヒュッ!」
チャクラで風の力を手裏剣に乗せて2発放つ。
この忍術により手裏剣のスピードと切れ味は倍以上になる上、3分ほど遠隔操作が可能な優れものだ。
かなりのスピードで攻めているのだが、ハンゾウには無駄な動きがほとんど見られずヒラヒラと避けられる。
だが、これだけでも体術のレベルの高さが分かった。
俺はこの忍術ではダメージを与えられ無いと判断し忍術を解く。
ノーダメージのハンゾウが言う。
「もう様子見は終わりか?ならば次はこちらから行くぞ」
癪に触るくらい余裕だな。
「まぁこれくらいにしておきますよ。来るならいつでもどうぞ」
ハンゾウの未知の攻撃に俺は備え構えた。
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