少年とタマとムギの捨て猫あやかし物語 11~13話

少年とタマとムギの捨て猫あやかし物語

[ペット!?]


 手負いとなった雷獣にタマが走り高く跳んだ!


「おりゃー!とどめだ喰らえーーっ!」


 その攻撃が雷獣の頭に届かんとする直前!

「どわっ!?」


 横からいきなり飛んで来たキムラに抱き抱えられていた!?
 タマを抱き抱えたままキムラがフワッと着地する。

「タマ、申し訳ないのですが戦闘はここまでです。実はこの雷獣は私のペットなのですよ」


 タマがキムラに何かを言われて驚いた表情になっているが、離れていて僕とムギには良く聞こえなかった。
 だがすぐにタマが叫んで教えてくれる。


「天馬!ムギ!この雷獣はキムラのペットなんだってよーっ!」


「マジか!?」

「え!?」


 僕とムギは想定外の事実を知り当然の如く驚いた。
 キムラはタマを下ろすとそのまま雷獣の方に歩み寄る。

「ライチ、やられてしまいましたね。これを飲みなさい」


 そう言って何か玉のような物をズボンのポケットから取り出し雷獣に投げる。
 雷獣が投げられた物をパクッと口にすると体が光に包まれて消え、あったはずの深い傷が全て無くなり元気になってしまった。


「どうだライチ、タマは私の予想通り強かったでしょう?」

「ああ、でもあのままやってればオレ様が本気を出して勝ってただろうけどな」


 ライチの言葉にキムラがにっこりと微笑む。

「まあ、貴方の名誉にかけてそう言うことにしておきましょう」


 ライチと話しを済ませたキムラが僕たちの方を振り向く。

「みなさんここでは何ですから、天馬の瞬間移動を使って古書店に移動しましょう。そこで詳しい話しをさせてもらいます」


 僕はキムラの言ったことに当然疑問を持ったので訊く。


「その話しも古書店でさせてもらいましょう。そろそろ結界の効果も消えてしまいますので早めに瞬間移動をお願いします」


 まあ古書店は閉めてるし、この人数なら問題ないだろう。

「じゃあみんな僕に掴まってくれ」


 全員が僕に掴まったところで、古書店の店内をイメージして瞬間移動した。


 店内に着き電気のスイッチを入れて部屋を明るくする。


「いやあ、天馬の瞬間移動は見事なものですね!こんな便利な技を使えるお方は未だかつて見たことがありませんよ!ハッハッハッ!」


 やっぱりこいつはうるさいキャラだ。


「それより何が何だったのか早く説明してくれないか?こっちは動物園を途中で抜けることになったんだから」


 そう、タマとムギはその所為であからさまに不機嫌になっていたのである。

「そうですね。みなさんにはご迷惑をおかけし、本当に申し訳無いと思っていますよ。まずは心よりお詫び申し上げます」


 キムラは真剣な顔をして僕たちに深々と頭を下げた。

[妖怪の棲む町]

「では!私のペットにして雷獣のライチがなぜ動物園の檻の中に居たのかを説明しましょう!」


 右手の人差し指を自分の顔の前に突き出し、僕の目と鼻の先で話し出すキムラ。


「キムラ、もうちょっと離れて喋ってくれないか」

「おっと、これは失礼しました。天馬の言っていた[親近感]を出すために近づいたのですが、お気に召さなかったようですね」


 相手によっては有効なのかも知れないが、男のドアップなど僕にとっては迷惑でしかない。


「そんなの良いから早く説明してくれよ!」


 横から言ったタマはかなりイライラしているようである。

「ふむ、このご様子だと私があなた方を試すために仕組んだことなのです!と言ってしまった場合はっ!?…痛いですよタマ」


 話し終える前にキムラの腕にはタマがガブリと噛みついていた。


「で、何の目的があって僕たちを試したりしたんだ?」


「…天馬、その前にタマをどうにかしてくれませんか?血が出るほど噛まれて痛いのですよ」

「タマ!お座り!」


 僕が言うとキムラの腕から離れたタマはいつものようにお座りポーズをとった。

「この町、福神町(ふくがみまち)には昔から妖怪にまつわる伝説が数多くあることは知っていますよね?」


「それは小さい頃から親から聞いたり、町を歩けば妖怪の銅像みたいなのがたくさんあるし知らない訳がないよ」

「ハッハッハッ、訊くのは野暮でしたね。そう、振り返ればこの町に最も多く妖怪が存在したのは江戸の時代でした。その頃は私もこの町に棲んでいたのです」


 どうやらこの白狐は本当に何百年も生きているらしい。
 悦に浸ったようにキムラが話しを続ける。


「江戸の時代が終わろうとした頃には、この町の妖怪の数はピーク時の半分以下になり、私も町を転々とする旅を始めました。まずは鳴犬町(なりいぬまち)を訪れ…」

「ちょっと待った!今、旅の話しを最初から最後まで話す流れに持って行こうとしてただろ。脱線せずに要点だけを話してくれないか?」


 僕がそう言うとキムラが少しへこんだように見えたけれど、今はそんな話しを聞く気にはなれなかった。


「ではズバリ言います!徐々にではあるのですがこの福神町には江戸の時代の頃、否、それ以上に妖怪が集まろうとしているのです!この日本には善と悪の妖怪が多数存在しますが、特に今回は悪の強力な妖怪たちがやがてやって来ることでしょう!だから私は善の心を持つ妖怪を集めてそれを迎え討とうとしているのです!これがあなた方を動物園で試させていただいた理由なのですよ!」


 長いし納得いかないしやっぱりうるさいイムラであった。

[スカウト]


「福神町の危機というのは分かるけれど、僕たちを試すために何も動物園を選択する必要はなかったんじゃないか?」


「確かに他の方法もあるでしょう。しかしながら、ムギの好みの動物がハクビシンという情報を仕入れまして、雷獣のライチが余りにも適役だったものですから…それにああいったシチュエーションの方がより実践的でもあるのです!」


「なるほどね、とにかくそちらに都合が良かったという訳だ。でもムギの好きな動物の情報はどうやって知ったんだ?」

「ああそれは、ここを出禁になった砂かけばばあから仕入れたのですよ」


 ずっと興味津々な表情で聞いていたムギが口を開く。

「砂かけばばあさんはよく古書店に来てましたけどイムラさんの仲間なんですか?」


 砂かけばばあのやつ古書店に来て聞き耳立ててやがったんだな。


 ハクビシンの姿になっている雷獣のライチが言う。


「イムラ、そろそろ本題に入ろうぜ。オレは腹が減って倒れそうだ」


 ペットの癖に態度のでかいやつだ。


「ふむ。ここまでの説明で大まかには理解していただけたと思うのですが、あなた方を試した本来の目的は我々妖怪集団へのスカウトなのです」

「ん!?僕は妖怪ではないから関係のない話だよな?」


 イムラの言葉に少なからずショックを受けた。 僕は人と違うことは認めているが、化け物ではないと思っているのである。


「今すぐにという話しではありません。ただしこれは妖怪だけではなく、人間にも影響してくる話しだという事だけは知っておいて欲しいのです」


「わかったよ。その妖怪集団の件はタマとムギともあとでゆっくり話して検討する」


「お返事はいつでも結構ですよ。これからは古書店にたまには顔を出そうと思ってますので…それとこれを渡しておきましょう」


 イムラはそう言うと胸の内ポケットから小さな笛を取り出し僕に渡した。


「これは犬笛と同じような物で妖笛と言います。何か妖怪のことで困った時はこの笛を吹いて私を呼んでください。出来るだけ駆けつけますので」


「え!?出来るだけなのか?」


「申し訳ないのですが私もずっと暇をしているわけではございませんので、そこはどうかご了承ください」


 リアルに考えればそりゃそうだと納得した。

「タマとムギも良く考えておいて下さいね!では今日はこの辺で!」


 イムラとライチは古書店から出てすぐ空中に浮いて飛び去ったのだった。

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