沖田総司の忘れ形見は最高の恋がしたい! 27~28話

沖田総司の忘れ形見は最高の恋がしたい!

[天之川流]

 道場中央には師匠と冷泉の二人が対面状に正座をして、わたしが来るのを待っていた。

「来たな司。立会いをよろしく頼むぞ」

「はい!任せてください!」

 二人が竹刀を手に取り対面したまま立ったあいだの中央付近にわたしが移動する。

「試合を始める前に二点ほど言いたい事があるんだが、良いか?立会い人」

 よく見ると、繊細そうな顔付きで美形の冷泉がこっちを向いて問いかけた。

「何ですか?言いたいことがあるなら早めにどうぞ」

 わたしがぶっきら棒な感じで答えると冷泉が師匠の方を向いて話しかける。
 
「あなたが師匠だって言うのわかりました。だが、まだ名を知らない」

「おお、そうだったな。すまんすまん。俺は真奏流の奏十四郎と申す」

 わたしは冷泉の言葉使の悪さに呆れていたけれど、師匠は全く意に介さないようだ。

「ではこちらも改めさせてもらいましょう。俺は天之川流の冷泉樹と申します」

「ほう、聞いたことのない流派だな。我流か?」

「そうです。元は侍だった父から少しだけ学び、そこから昇華させ天之川流を我が流派としました。」

 へ~、わたしと同い年くらいなのに…案外、腕の方はしっかりしているのかも。

「もう一点だが、なぜ木刀ではなく竹刀で試合をするのです?こちらは真剣でも構わないと考えているのに」

 そう言われた師匠が黙って首を横に振り口を開く。

「それは駄目だ。俺と木刀や真剣で試合をすれば五体満足で帰ることが出来なくなるぞ」

 その時、冷静沈着で無表情な冷泉の顔が一瞬だけピクリと動いた。

「凄く自信を持って大口を叩くんですね」

「ああ、俺は最強の剣士だからな。それよりもう良いだろう?喋ってばかりでは退屈だ」

「そうですね。始めると致しましょう」

 冷泉は竹刀の柄を両手で握り締め、円を描くように身体の前で一回転させて中段の構えを取る。

 一方の師匠は右手に竹刀を握ってはいるけど構えも取らず無防備な格好。

 両者が互いの全身の動きを注視したまま手を出さない。このまま膠着状態が続くかと思いきや。

「キィエイッ!」

 冷泉が凄まじい速さで師匠の心臓目掛け突きを放った!
 その突きを速い体捌きでかわした師匠が反撃に転じようとしたその時!
 冷泉の突きは一撃で止まらず 二撃三撃と連続して繰り出され、二撃目まで綺麗にかわしたが三撃目にして師匠の腕を掠った。
 師匠がやや体勢を崩しながらも反撃の突きを放ち、冷泉が顔を素早く動かし直撃は免れたものの頬を掠った!
 そこで冷泉が後ろに下がり体勢を立て直す。
 一瞬の激しい攻防により師匠は勿論のこと、冷泉の実力も達人の域に達しているように見えた。

[華麗に舞う剣士]

「さっきの技は…」

 わたしは今、冷泉の放った技を目の当たりにして動揺している。
 その技が苦労した末にこの前習得したばかりの[三段突き]だったからだ。

 三段突きは目にも止まらぬ速さで突きを3回繰り出すという技で、わたしの実父である沖田総司が得意とする技でもあった。

「うむ、今のはなかなか鋭い突きだったぞ」

「余裕ですね。決めるつもりで放ったのに…」

 師匠が薄く笑みを浮かべ言うと、冷泉が無表情のままそう返した。

「次はこちらから行かせてもらおう」

 相変わらず構えを取らない師匠が片手で竹刀を振り回し、初動の分かりづらい速く力強い連続攻撃を仕掛ける。

 並みの剣士ならば一撃目であっさり終わっているだろう。

 しかし、冷泉はその連続攻撃を流れるような足さばきと巧みな竹刀の動きでかわし続ける。

「なんて綺麗な動き…」

 二人による激しい攻防なのに、わたしはその華麗とも言える冷泉の動きだけを目で追い見惚れていた。

 攻撃を避け続けるその姿は、まるで日本舞踊を舞っているようにさえ見える。

「本当、美しいですねぇ。冷泉様の動き」

 師匠にぞっこんの真琴さんでも冷泉の動きに見惚れるほどだった。

 だけど、師匠の息もつかせぬ連続攻撃により、冷泉の表情に焦りのようなものが見え始める。

 あれだけ攻められたら、たぶんわたしでも防戦一方になってしまうだろう…

「くっ!?」

 冷泉がじりじりと後退させられ、遂に道場の壁に背中がつくほどに追い詰められた。

 そこへ冷泉の喉元を狙った師匠の鋭い突きが襲う! 

 だが、竹刀の先は喉に届く寸前で止められた。

「勝負ありだな。冷泉樹」

「ま、参りました…本当に強いんですね。奏さん」

「だから言ったであろう。俺は最強だと」

「はい、その言葉に嘘偽りは無さそうです」

 二人の試合は時間的に短かったかも知れないけれど、今まで見て来た試合の中でも最高に見応えがあった。

「お疲れ様でした~奏様~♪」

 真琴さんが満面の笑顔でタオルを手に持ち、汗だくになっている師匠の元へ駆け寄る。

 師匠があれだけの汗を掻くなんて…それほど余裕があった訳では無いのかも…

 負けた冷泉の方はというと、壁にもたれて座り込みヘトヘトになった御様子。

 わたしは道場の隅に重ねて置いてあるタオルから一枚抜き取り、冷泉の方へ歩み寄よって手渡した。

「なかなか良い試合でしたよ。これで汗を拭いてください」

「ん、ああ。ありがとう」

 っ!?れ、冷泉がっ!?

 あの無礼者で冷静沈着で無表情な殿方が、ニコリとした笑顔になりお礼を言ったのだ。

 不覚にも?わたしの頬は火照り、胸が高鳴ってしまった…

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