僕達の世界線は永遠に変わらない [環境適応能力]

僕達の世界線は永遠に変わらない

 匡が大勢の化け物カラスの群れを「真空崩壊拡散砲」を撃ち葬ったあとの空を見上げると、幸運にも難を逃れた十数羽の者が集まり飛鳥井らの様子を窺いながら旋回している。

「飛鳥井さん。残ってるあのカラス達はどうします?」

 飛鳥井が腰に付けた革製のナイフケースからサバイバルナイフを取り出し、匡の質問に答える。

「もちろん逃がさないさ。あれくらいの数なら掃討するのにさほど時間は掛からない。片付けてくるからちょっと待ってて」

「ヴン!」

 言い終わると同時に匡の視界から姿を消す飛鳥井。

 匡が化け物カラス達に目線を戻すと、飛行速度を合わせ、整った円環状の旋回模様は崩れ、「ガァ!ギャーッ!」と化け物カラス達の鳴く声が響いていた。

 無論、これは飛鳥井の攻撃によるものである。

 化け物カラスの首の後ろあたりに現れてはサバイバルナイフを「グサッ!」と脳天に突き刺し、直後に次の標的に瞬間移動して同じく一撃必殺で次々に撃ち落としていく。

 世界がどのような状態であれば平穏平和であるのか?という疑念は別として、人間にとって世界が平常運転であると云える状態なら、彼の行っている行為は動物虐待に該当し、発狂の動物愛護団体から鬼のように非難が殺到するのは間違いないだろう…

 が、現在の世界は悪夢の「神の戒告」以来、地球上の生物に空前絶後の突然変異が巻き起こり、人間社会だけでなく、自然界に生きる全ての動物達にとっても明らかに世界は変わってしまった。

 「神の戒告」以降の狭義的な世界の変遷だけをとってみれば、少なくとも人間にとっての世界は良からぬ方向へ進んでいるけれど、動物達はこの変化を果たしてどのように感じているのだろうか?

 とまぁ、細かいところまで考えればキリのない戦闘シーンのテンポを悪化させてしまう話はさておき、匡の隣に並んで立ち、絶叫と血しぶきを上げ絶命し落下する化け物カラス達の様を見て呟く。

「飛鳥井さんの瞬間移動って本当に便利な能力ね」

 今となっては絶滅危惧種とされ得るうら若き大和撫子品川結月17歳の着眼点もこんなものだ。普通の女子高生がこのような悲惨な光景を目の当たりすれば、「キャー!キャー!」などと悲鳴を上げるか気絶して然るべきかもしれないが、やはり恐るべきは人間の環境適応能力である。

「だな。まるでマーベルヒーローがリアルに戦ったらこうなります的な戦い方だ」

 この高校男児の環境適応能力も大概である。
 世界の異変を一ヶ月以上経験している結月と違い、彼の場合はコールドスリープから目覚めてまだ一日と数時間しか経過していないのだから…

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