「おい、こいつ猫なのに表情がデレデレのデレデレだぞ」
チャラがどんな顔をしてあんなセリフを言ったのか気になったのか、匡がわざわざチャラの顔を確認できる位置に移動して茶化した。
「ンニャーッ!」
「ドン!」
「ごふっ!?」
人間の言葉を理解できる上、流暢に喋れるチャラが茶化した匡の右頬に、あくまでも軽く猫パンチをお見舞いした。
「何も殴らなくても良いだろがっ!」
「ポカッ!」
「ンニャーーーーッ!」
喰らったチャラの猫パンチ程度に調節して匡が殴り返し、一人と一匹がポカポカと音を立て戯れ合うように殴り合う。
「もう戯れ合うのはその辺にしてそろそろ家を出ようか?」
暫く黙って様子を見ていた八神が呆れ顔で声をかける。
「は、はい。行きましょう」
「ニャッ」
半分本気、半分戯れ合っていた一人と一匹がピタッと止まり、最後は匡の頭をチャラが丸ごと甘噛みしていたが、頭から血が流れているのはご愛嬌ということで…
今の世界で社会が正常な状況であれば、休憩のために人の家を黙って借りる行為は不法行為となるが、幸い?にして日本国家は崩壊しており、法律や社会通念という概念も一緒に崩壊してしまっているため、三人の人間には少しばかりの罪悪感がよぎる。
「お邪魔しました~」
家屋から外へ出る際に、結月が何となく誰も居ない屋内に向かって礼をしたのだった。
ともかく、体力と精神力がぼちぼち回復した三人と一匹が屋外に出て、化け物カラスの探索を再開しようと周りを見渡したのだが…
「…何これ、酷いことになってるわね…」
化け物カラスの大群との戦闘中に眠り続け、戦闘の成り行きと結末を聞いたばかりだった結月が周りの光景に絶句したあと、幽霊を目撃したかのような表情をして呟いた。
彼女のリアクションは無理もない。
この周辺に1000羽ほど集まっていた化け物カラスのほとんどは、匡の能力によって消滅してしまったわけだが、 その内2割から3割の化け物カラスの残骸や黒く大きな羽がそこら中に積もり、ちょっとした地獄絵図となっていたのだから…
「まぁ結月ちゃんのような若い女性には少しきついかも知れないね。でも、先ではこういった光景を目にすることが多くなるだろうから、良くも悪くも慣れていくはずだよ」
人間関係があまり得意で無い八神が、あまり慰めになっていないが慰めの言葉をかけたのだった。
「ん~、八神さんの言う通りかも知れないけれど、わたしはあまり慣れたくないかも…」
そう返した結月は、生命に対する自分の価値観が変わってしまうことを恐れていたのである。
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