殿の柴門が遠くのカラス達の動きを警戒しながら八神の示した電波塔へ辿り着き、四人は化け物カラスの目の届かない電波塔の裏手に身を潜めた。
そこから少しだけ顔を覗かせた八神が、まだ遠くに見える化け物カラスの群れを確認する。
「カラス達はまだ遠くを探索しているようだけど、あと数分も経てばここまで辿り着くだろうね」
「よっしゃ!気合い入って来たぜ!もうあんな無様な姿は晒せねぇ!」
「あれはあんたが油断してたからでしょ。あれだけ酷い怪我だと治すわたしも結構疲れちゃうんだからね。今度からはもっと慎重に戦って欲しいものだわぁ」
気合いが入り過ぎて気負っている柴門は競馬でいうところの「かかってる」状態であった。それを見兼ねた葵が少し怒った顔をして注意喚起?する。
「へいへい、わ~ってるよ。出来るだけ葵さんの世話にはならないように気をつけま~す」
柴門はふざけた感じで返していたが、葵の言葉が刺さったようで、良い意味で気合いが抜けリラックスした表情になっていた。
「僕の考えた作戦を伝えたいんだけど良いかな?」
三人が黙って八神に注目して頷く。
「敵の数はおよそ200だ。バラバラになって戦っては効率が悪いし危険度が高すぎる。だから葵さんと美琴さんは互いに離れず、奴らに見つからない場所に隠れて僕達をフォローしてくれないかな?」
「なるほどね。確かにバラバラに戦ってたら敵の圧倒的な数に押されてすぐにボロボロになってしまいそうだわ。了解。わたしと葵さんはあのマンションに身を隠しましょ」
話し手の意図を理解することに長けている美琴が素早く分析を済ませ、近辺を見渡し3階建ての小さなマンションを指さした。
「オッケ~♪部屋の中の方が安全そうだもんね♪」
葵が微笑み、嬉しそうに美琴の腕に飛びつく。彼女は攻撃面では自分の能力が全く役立たないことを認めていて、それを歯痒く悔しいと思っていたが、敵を倒す術を持たないため、戦闘の際に孤立してしまうことを恐れていたのである。
美琴がそばにいてくれるというだけで安心感が芽生えたのだ。
「僕はここに残って暫く身を潜める。柴門君は単独でカラス達の前に出て気を引き一箇所に集めてくれないか?」
淡々と話す八神の作戦をただ「うんうん」聞いていた柴門が「ハッ!?」とする。
「俺の聞き間違いか?今の話しだとまるで俺だけ前に出て囮になれと言っているような風だったけど?」
八神が得意ではない笑みを浮かべて言う。
「『まるで』じゃなくて『囮』になって欲しいとストレートにお願いしてるんだよ」
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