そんな葵を見て歳下の美琴が気を使い声をかける。
「葵さんは今のまま力を温存してくれてたらそれで良いの!いざという時に嫌というほど回復をしてもらうんだから」
そう言われた葵の眉間に皺が寄る。
昨夜の飲み会でメンバーが以前より打ち解け、話し方に馴れ馴れしさが表れ出しているが、眉間の皺の理由は無論そんなことが理由では無かった。
「ありがと美琴。でもね、二人の後ろでぼ~っと眺めているだけってのは結構歯痒いんだよぉ」
葵は元来働き者である。
医療の知識はもちろん、頭の回転や体力、コミュニケーション能力や根性といった要素が必要な看護師をやっていたのだから、ただ何もせずに二人の後ろで甘んじんているのは本当に辛いのかも知れない。
ボマー能力を使い、短時間で100羽以上の化け物カラス達を葬ったのにも関わらず、疲れた顔を一切していない紫門が話しかける。
「葵さんが暇なんだったら、ヒーリングのバリエーション増やす練習したら良いんじゃねえの?」
「例えばどんな?」
戦闘に関してはメンバーの中で一番センスがあるであろう柴門に質問で返す葵。
「ん~そうだな…葵さんの治癒能力って今は対象に掌かざしてやってんじゃん。それをさ、10m先のオレや美琴に使えるようになればすっげぇ便利なんじゃね?」
「なるほど、遠距離からのヒーリングってわけか…確かに使えるようになれば便利そうだわ。さっすが柴門君ありがとう♪」
葵は「これは得たり!」と嬉しそうな表情をして柴門の肩を「パシッ」叩いた。
日頃から性格上の問題から素行の粗さが目立ち、自ら人を突き放すタイプの紫門は、人から褒められることに慣れていない所為か、少し顔を赤らめ葵と美琴から顔を逸らす。
そこから、相変わらず人の姿や気配の無い住宅街を柴門が先頭で歩き、後ろを葵と美琴が横並びに歩きついて行く。
「ん!?」
暫くのあいだ化け物カラスと遭遇することも無く歩き続けていたが、柴門が二階建ての一軒家の前で急に歩く足を止め、葵と美琴も合わせて止まった。
柴門が半開きになった車庫のシャッターを見ながらそこへ近づく。
「どうしたの?柴門さん」
柴門の動作を気にした美琴が質問した。
「あ、いや…この車庫に使える車があったらと思ってな」
「車ねぇ…」
この住宅街の住民達は「神の戒告」後カラスの早い覚醒と台頭に寄り、他の土地の者に比べていち早く避難している。
その為、事故や故障で道端に捨てらた車が稀にあったが、まともに動く車は見受けられなかった。
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