母はこたつの上にクリスマスカードを置き、手を添えボソボソとした聴き取れない声で呟きながらメッセージを書き出した。
そのメッセージの内容は今でも一言一句覚えている。
小学生当時のクリスマス翌日の朝、父にはプレゼントに対する感謝の気持ちを伝えたが、誰よりも伝えたかった母には伝えることが出来なかった。
仮に今この瞬間、母の目の前に突然僕が姿を現し、感謝の気持ちを述べたら優しい笑顔を見せてくれるだろうか?
想像するとわくわくして来るが、叶わない現実を突きつけられると虚しさもひとしおというものなのだけれど…
「オッケー、大したメッセージじゃないけど凪が喜んでくれると嬉しいなぁ」
母が完成したクリスマスカードを眺めながらそう言った。
貴方の息子はめちゃくちゃ喜んでますよ~。恥ずかしながら17歳になった今でも大事に持ってるし…
クリスマスカードをプレゼントの箱に挟み、母は僕の部屋へ運びベッドの枕元に置いた。
父と母は、僕が小学生のあいだだけでもサンタクロースがプレゼントを運んで来るという夢のある感じにしたかったらしく、その思惑は残念ながら途絶えてしまうことになる。
僕がサンタクロースの不存在を知ったのは、忘もしない小学3年生のクリスマスの夜。
日頃から二人より早く寝る僕が、クリスマスの夜だからといって夜更かしすることもなく、いつも通りの時間に自分のベッドで就寝していたのだが、その夜はジュースを飲み過ぎた所為かトイレに行きたくなってしまった。
我慢できなくなってしまい、掛け布団を跳ね除けムクっと起き上がると。
「っわぁっ!?」
「おっ!?」
「きゃっ!?」
僕が寝ているあいだにクリスマスプレゼントを枕元に置こうとした二人と目がバッチリ合ってしまい、三人とも一斉に驚いて声を出した。
その時父が両手にプレゼントの箱をしっかり抱えているのを目撃してしまう。
「父さん、それってもしかしてクリスマスプレゼント!?」
作戦が失敗してしまい喪失感に駆られている両親をよそに、トイレに行きたかったのも忘れプレゼントに気を取られた僕が質問してしまった
「そ、そうよぉ。今年はサンタさんが忙し過ぎて、代わりに父さんと母さんが凪に持って来たのよ」
「ありがとう!父さん!母さん!」
サンタクロースの諸事情や両親の心情などを全く考えず、父からプレゼントを受け取りさっさとリボンを解き、包装紙をビリビリと破いて箱を開けたのだった。
翌日になり、朝ごはんを食べている最中に両親からサンタについて苦しい言い訳があったけれど、次の年から我が家でサンタの名が語られることは無くなった…
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