夢中の少女 [タイムトラベラー]

夢中の少女

 こたつとテレビの電源点け、朝のワイドショー番組を視ながらお茶を飲む母。

 そんなゆっくりとお茶を飲む姿を見ながら、ふと自分の状態について考える…

 喉は渇かないし食欲も無い。
 普通の人に僕の姿は見えないし声も届かない。
 僕はこんな自分の状態を知る限りの知識から勝手に「幽体」と呼んでいるけれど、本当のところは何者になっているのだろうか?

 中学生の頃、何故かは覚えていないが幽霊に興味を持った時期があり、雑誌やネットなどで様々な情報を調べたことがある。

 幽霊の存在には諸説あるが、その中でも特別おもしろいと思ったのがタイムトラベラー説だった。

 それは、未来の世界ではタイムトラベルを可能とするタイムマシンが存在していて、未来から過去を訪れる未来人が完全な姿を保つことができず、透明化したような姿で人の前に現れ、目撃した人々には未来人であるという発想が無いために、ポピュラーで身近?な存在の幽霊だと証言するからだという内容だったような気がする。

 僕の今の状況から考えると、タイムマシンこそ使用していないが、正にタイムトラベラーだと言えるのではないだろうか?

 もし僕が現代人の知るところの幽霊では無く、タイムトラベラーだったとしたなら…

 …そもそも僕を過去の世界や謎の少女と接触した世界へ飛ばしているあの光球の正体は?

 いずれ全ての謎が解けてくれれば良いのだが…

 そんな事を考えていると、母が何かを思い付いた表情をして立ち上がり、居間を出て夫婦の寝室へと移動した。

 寝室は僕の部屋と同様、和洋折衷的な部屋になっている。簡単に言ってしまうと、古い純日本風だったものが徐々に洋風の備品が持ち込もまれ、布団からベッドに替わり、床も畳からフローリングに張り替えられていた。でも押し入れの入り口は襖だったりするのである。

 母が寝室の片隅にある鏡台の隣りの襖を開け、押入れの中でゴソゴソと動き何かを取り出した。

 赤い紙で包装され緑のリボンが巻かれている箱。

 その箱が何であるかを僕が忘れる筈もない。小学6年生のクリスマスにもらったプレゼント…

「さてと、プレゼントに添えるクリスマスカードでも書かくとしますか」

 母はそう呟くと、プレゼントを大事そうに持ち居間へ戻ってこたつの上に置いた。

 そして、居間にある白いカラーボックスの中に並べられた料理本を一冊取り出し、料理本を開き一枚のクリスマスカードを取り出す。

 更にカラーボックスの上にある鉛筆立てから黒のボールペンを選んで手に取った。

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