夢中の少女 [プレゼントより…]

夢中の少女

「気を使ってくれてありがとな…おやすみ」
 
 父と就寝前の挨拶を交わし居間を出て自分の部屋に移動すると、エアコンが点き程良く暖まっていた。
 日頃はエアコンを使用しないのだけれど、今日のような特別寒い日は父か母が点けてくれる。

 明日からは冬休みで学校に行く準備をする必要も無い。

 部屋の灯りを消そうとして木製のベッドを何となく見ると、枕元に綺麗な赤い紙で包装された箱が置かれているのに気付いた。

 クリスマスプレゼントであることは一目瞭然。僕の胸は高鳴りベッドに上がって直ぐにその箱を手に取る。

「なんだろう?…」

 箱を巻く緑のリボンの隙間に、可愛らしいデザインのクリスマスカードが挟んであるのに気付いた。

 見覚えのある母の字でこう書かれている。

“メリークリスマス 
 父さんと母さんの子供でいてくれてありがとう。
 わたし達はとっても幸せよ♪
 これからもよろしくね。凪♡“

「母さん…僕も幸せだよ…だから帰って来て…」

 僕は大粒の涙を流しながらカードに向かって話しかけていた。

 正直、母さえ帰って来てくれたらプレゼントなんて要らない…

 頭の中で想うことはただ、ただ、ただ、母が優しく笑いかける顔をもう一度見たい…という事だけだった。

 実の父親から捨てられ、この家を訪れた時から実の子供以上に可愛がってくれた二人…

 父には悪いと思うけど、実の父親から受けていた虐待がトラウマとなり、暫くのあいだはなかなか父には懐けずにいた…

 逆に母に対しては何の抵抗も無く直ぐに慣れ、幼かった僕は母に愛情を求めてとにかく甘えていたが、母は求める以上の愛情を与えてくれた…

 もちろん父もなかなか慣れない僕を諦めず、粘り強く接してくれたお陰で今がある…

 とにかく、とにかく帰って来て欲しい…ただそれだけだった…

 涙がプレゼントの包装紙に染み込んで柔らかくなり、箱に手が触れている部分が破けて中が見える。

「買ってくれたんだ…」

 それは、半年近く欲しい欲しいとねだり続けたゲーム機だった。

 家が裕福じゃないことは子供ながらに感じている。
 父と母はきっと僕のために無理をして買ってくれたのだろう…
 
「明日になったら父さんと母さんにお礼を言わなくちゃ…この世に神様がいるのなら聴こえてるでしょ…だからお願い…明日は二人にお礼を言わせてください…」

 僕は神様に届いて欲しいという気持ちを込めて独り言を呟いた。

 プレゼントを勉強机の上に置き、灯りを消してベッドに上がり布団を被る。

 「どうか神様お願いします…」、と頭の中で繰り返しながら眠りに落ちた。

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