警察の人を玄関で見送ったあと、落ち着いた優しい顔をして父が言う。
「凪、まだ風呂にも入って無かったな。直ぐに沸かすから準備しておいで」
「ありがとう父さん」
着替えを取りに自分部屋へ行き、タンスを開けて着替えの準備をしながらふと思う。
母さんが洗濯物を取り込む時間は何時頃だっけ?
いつも夕方になったら取り込んでいたけど…
物干し場は当然だが外の庭にある。
僕は慌てて部屋のカーテンとガラス窓を開け、物干し場の洗濯物を確かめた。
物干し場に洗濯物は干されていない。
そうか、確か天気予報では午後から雪マークが出てたし、実際に学校の帰り道でも降っていた。
でも、洗濯は毎日欠かさずしているはず…
僕は雨の日は風呂場で乾かしていた事を思い出し、父がいるであろう風呂場へ向かった。
風呂場では父が浴槽の掃除をしている最中で洗濯物は見当たらない…
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
掃除をしていた父が僕に気付き訊いてきた。
「あ、いや。洗濯物が干してあったかどうかが気になって…」
「洗濯物は干しっぱなしだったから、父さんが取り込んでそこに纏めたぞ…そうか、母さんが何時までいたのか分かると思ったんだな?」
「…うん」
「洗濯物があったということは夕方になる前に母さんは居なくなったんだよ。警察の人達とそれは話してある…でも良いところに気付いたな」
「…ごめん。掃除の邪魔しちゃったね」
「いいさ…」
そっか、警察の人達と家の中を見て回った時に話があったんだ…
僕は少し残念な気持ちで自分の部屋に戻り、着替えを取って居間のこたつに入った。
それから暫くして風呂に入り、湯船に浸かって身体がほかほかの状態で風呂からあがる。
しっかり身体を拭いて寝巻きを着て居間に戻ると、父がこたつに入ってテレビを視ていた。
僕がこたつに入って間もなく父が話し出す。
「凪、警察の人達が言うにはな…家の中が荒らされている形跡も無いし、今のところ事件として見ていないという事だったよ…明日は朝から母さんを探してみる…だから今日はもう寝なさい」
ゆっくり話す父の声から仕事と母さんの件での疲労が感じられた。
今日は精神的にも肉体的にも疲れたろうな…
母さんが夜中にひょっこり帰って来るかも知れない可能性を考え、本当は居間で待機しておきたかったけれど、わがままを言うと父の負担になると思い素直に従うことにした。
「分かった…父さんもしっかり寝てね…おやすみなさい」
コメント