急激に食欲が失せ冷蔵庫から何も取らずにドアを閉めた。
テーブル上のザルに盛られたみかんを一つだけ握り、台所を出て冷たい廊下を歩き居間へ戻る。
それからは、こたつに入って何となくテレビを視ていたのだけれど、母のことが気になり内容が全く頭に入って来なかった…
2時間ほど経過した頃に玄関の戸が開く音がした。
父は母を見つけられただろうか?
僕が急いで玄関に向かうと、そこには母の姿は無く、青ざめた顔の父が長靴を脱いでいるところだった。
表情から察してはいたが訊かずにはいられない。
「父さん!母さんは見つかったの?」
父が首を横に振り答える。
「ここら一帯を探してみたんだが、どこにも見当たらなかったよ…家に電話は無かったか?」
「…うん、無かった…」
「そうか…」
互いに吉報をもたらすことが出来ず、意気消沈して肩を落とす。
世間の人達が年に一度のクリスマスというイベントを楽しむ日に、うちの家族はそれどころではなくなってしまった…
「凪、お腹が空いてるだろ?父さんが作るから待ってなさい」
「僕も手伝うよ」
「じゃあ一緒に作ろう」
「うん」
二人で台所へ行き、父が冷蔵を開ける。
「今日はクリスマスだったな…凪、これを居間に持って行ってくれ」
そう言って父が冷蔵庫からケーキの入った箱を取り出して僕に手渡した。
「か…」
「ん?どうした?」
「ううん、なんでもない…」
僕は歯切れの悪い返事をして両手に抱えたケーキの箱を居間へ運ぶ。
本当は「母さんを待ってあげないの?」と言おうとしたのだが、父さんが悲しむといけないと思い、言い切れずにいたのだった。
母さんは何処へ行ってしまったのだろう…
こんなことはもちろん初めてだったし、昨日までそんな前兆は母の様子から全く感じられなかった。
帰って来て欲しい…
「ビックリした~!?」とか言いながら押し入れから出て来ないかな…
そんなことを考えながら台所へ戻ると、木製のテーブルの上には湯気を出している焼かれたチキンが置いてあった。
「父さん、これ」
「ああ、それは母さんが準備していた料理が冷蔵庫の中にあったからレンジで温めただけだ。他にも下準備された料理があるからわざわざ作る必要は無さそうだな」
動いている電子レンジの中を覗くと、美味しそうなピザが回っている。
父が必要な食器を棚から次々に出し、僕はそれを居間に運んで行く。
こたつの上には母の作ってくれていた料理が並び、クリスマスの食卓らしい豪華なものとなった。
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