僕達の世界線は永遠に変わらない [真空崩壊という現象]

僕達の世界線は永遠に変わらない

僕のような青二才が年上の人に言うのは失礼かなと思いつつ言ってみたのだが…

 八神さんは怒ることなく、右手の指を眉間に当てながら苦笑していた。

「ククク…だよな。君のような少年でもやっぱりそう思うよね」

 こちらを向かずにそう言った八神さんが、ビールを勢いよくゴクゴクと一気呑みする。

「ぷはぁ~!…久しぶりでアルコールが回ってしまうのが早いけど、暑い夏のビールは格別に美味い!」

 そんなに美味く感じるのか!?今の僕には分からない境地だ…大人になれば分かるかもだが、その頃にビールが存在していれば良いけどな…

 青白い肌が一瞬にして薄赤色になった八神さんが、着用している白衣の内ポケットに右手を入れ何かを取り出した。

 その何かを左の掌に乗せて僕に差し出す。

「これって例の…」

「そうだよ。青酸カリはこの手にあるので全部だ…さっき寝ている間に飛鳥井君と柴門君の話しが少し聴こえたんだが、匡君のナインスセンスって物体を消滅させることができるんだよね?」

「そうみたいですけど…」

「その能力でこいつを完全に消してくれないかな?」

 大真面目な顔からして、酔った勢いではなく真剣に考えて言っているようだ。
 
「まだ経験が浅いので上手く消せるかどうか分かりませんがやってみます!そこに置いてください」

「分かった。ここで良いかい?」

「はい。そこで大丈夫です…じゃあやってみますね」

 僕のナインスセンスが覚醒したのは今日の今日で消し飛ばした物体は二つだけ…化け物カラスの頭と木の幹。
 こんな小さい物体のみを狙って能力を発動させたことはまだ無い。
 
 要領は一応掴めているいるつもりだ。
 テーブルに置かれた十粒ほどの青酸カリを集中して見る。
 この粒だけを消滅させるイメージを想い浮かべながら、ゆっくり右手の人差し指指を突き出した。

「消えろ]

「ジュッ!」

 やった!十粒ほどの青酸カリを一瞬で消滅させることに成功した!

「お!?おお…]

 驚きの表情を浮かべる八神さんが物体の存在していたテーブルの上に手を当てる。

「す、凄い!テーブルは無傷だ。規模は全然違うが、これはまるで[真空崩壊]のような現象だな…」

 何だそれ?初めて聞く単語だ…

「あの、[真空崩壊]ってなんですか?」

 問いかけると八神さんは顎に手を当て「う~ん」とうねり、何かを考えるような仕草をする。

「…今の回らない頭ではちょっと説明が難しいんだよねぇ…[真空崩壊]というのは物理の法則を覆すような現象なんだよ…」

 知りたくて気軽に訊いたわけだが、科学者だった八神さんですら難しいと思うような話を聞く体力など僕には残っていない。
 
「申し訳ないんですけどその話はまた今度に…」

 言い終える前に話を聞くことがない事を知った。
 八神さんは既にテーブルの上へ突っ伏し、寝てしまっていたのである。

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