「ありゃん♪二人仲良く寝ちゃったわねぇ♪」
普段はクールな女性であろう美琴さんが二人のそばに寄り、背中を人差し指でツンツンしながら楽しそうにそう言った。
「いや、片方の人は寝てるんじゃなくて気絶してるんですけど…」
当然の如く僕のツッコミは完全に無視される。まぁ「睡眠」と「気絶」は似たようなものかな…
「二人に何か掛けてあげないと風邪ひいちゃうわねぇ♪…」
美琴さんが辺りを見回し、二組の二段パイプベッドの方向で目を止め掌を前に出す。
「あの毛布を掛けてあげよっかなぁ♪ほいっとぉ♪……あれ?あれあれあれ~♪」
サイコキネシスを使って毛布を動かしたかったらしいが、同時に敷布団まで一緒に浮いて動き出してしまった。
「ヴァサァーッ!」
柴門さんと葵さんが倒れている場所へ、毛布と敷布団が真上から落下する。
「これで良いわ~♪…ふぁ~…わたしも眠気が来たから先に寝るわねぇ…」
美琴さんは千鳥足で二段ベッドまで歩き、下段に飛び込んで毛布に包まり眠ってしまった。
「ハハハ~♪この二人、明日の朝起きた時にビックリするだろうなぁ♪楽しみだぁ♪」
確かに他人事なのだが、他人事のように敷布団と毛布に埋もれた二人を指差し笑っている。
「ベッドに移動してあげた方が良いんじゃないですかね?」
「いやいや匡♪こんなに面白いものを敢えて壊すことも無いさぁ♪んじゃ、俺もそろそろ寝るなぁ♪」
「ヴン!」
飛鳥井さんは美琴さんの眠る二段ベッドの上段に瞬間移動して、数秒後にはイビキをかきながら寝てしまった。
最後の酔っ払いである飛鳥井さんが寝たことにより、起きているのは僕と八神さんを残すのみ…
さっきまで騒がしかったシェルター内の部屋がシーンと静まり返る。
「匡君。こっちに来て寝る前に少しだけ話さないか?」
酔ってはいるが他の人と違い落ち着いた雰囲気の八神さんが僕を誘う。
「はい、僕もビールをあと一本だけ呑んで寝るつもりでした」
ビールを3本呑み干し、苦味にも多少は舌が慣れて来ていた。
八神さんの隣の席に座り、二人で新しい缶ビールを開けて軽く乾杯する。
そして、八神さんが真面目な顔をして話し出した。
「あのさ…誤解して欲しくないんだけど、別に僕は自殺願望があるわけじゃないんだよ。色々なケースを想定して、苦しい死に方をしたくないから青酸カリは持ち歩いてるだけなんだ」
八神さんの中では柴門さんとの一件がまだ尾を引いていたらしい…
「何となくですけどその気持ちは分かりますよ。ただ、柴門さんは最後の最後まで八神さんの命を諦めて欲しくないからあんな風に言ったんだと思います…」
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