寝坊するという失態があったものの、師匠とお祖父様のお陰で門下生への指導も無事に終わった。
今は12時を少し回ったところ。
千歳との待ち合わせは午後2時に学校前でということになっている。
わたしは急いで部屋へ戻り、汗を拭いて着替えながらふと考えた。
「あれ!?着物を着て行くつもりだったけれど、この格好では剣術の手合わせをするのは難しいわねぇ…」
かと言って道着姿で伺うのも何か違う気がするし…そもそも今日わたしと千歳が伺うことを樹様は知らない…電報で事前に知らせておけば良かったかなぁ…
昨日までは樹様に逢える喜びで有頂天になっていたけれど、出掛ける直前になってから様々な考えが頭に浮かび、不安がぞわぞわと急速に湧き上がる。
「うわぁ~、どんどん時間が無くなって行く~どうしよう…」
千歳との待ち合わせ時間は近づいて来てるし考えいる時間はもうない。
でもお腹がペコペコで昼食を抜くわけにもいかなかった。寝坊してしまい朝食も摂っていないから、何も食べずに出掛ければ途中で倒れてしまう可能性もあるかも知れない…
「ええい!もう考えてる場合じゃないわ!」
わたしは不安と焦りでヤケ気味に箪笥から道着を取り出し、風呂敷を広げてサッと包んでギュッと結ぶと、着物の姿で昼食を摂りに食卓へ小走りで向かった。
家族が揃って厳かに食べているなか、バタバタと椅子に座り「いただきます」を言って料理を口に放り込む。
「司よ。日曜だというのに何をそんなに慌てているのじゃ?」
お祖父様が驚いたような顔をして、ごもっともな質問をして来た。
「ふまくひえませふがふぉにはふひそいでいふんでふ」
「そうか、事情はよく分からんがとにかく急いでいるんだな?」
「ふぁひ」
口いっぱいに料理が入っていて上手く話せなかったけれど、何とかお祖父様との会話は成立したようだ。
「まぁまぁ。司ったら本当にお行儀が悪いわねぇ」
最近小言の多くなりつつあるお母様の言葉だったが、今は相手にしている時間は無い。
料理を無我夢中になって食べ終わり、お茶を一気に喉に流し込む。
「ぷは~。ご馳走様でしたぁ。では行ってきま~す!」
そう言って椅子から立ち上がり風呂敷を手に持って外へ出た。
確認はしなかったけれど、家族はわたしの行動に今頃ポカンとしていることだろう。
「お嬢様ー!お急ぎくださーい!」
今日は仕事が休みになっていた伊達さんが手を振ってわたしを呼ぶ。
実は昨日のうちに無理を言って学校に送って欲しいとお願いしてあったのだ。
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