僕達の世界線は永遠に変わらない [正義の医師]

僕達の世界線は永遠に変わらない

「その総合病院の待ち合い室には十数人の患者が座っていたかな、みんな揃って元気の無い顔をしていたよ。そんな人達に悪いと思いながらも、俺達は受付けのお姉さんに美琴を急いで診て欲しいと頼んだんだが、順番を待ってくれの一点張りでダメだった」

 ここで神妙な表情をした葵さんが口を挟む。

「あの時の状況ではどうしようもなかったから、受付けの女性の対応は間違ってなかったかと想うわ」

「大丈夫、わかってるよ葵さん。その時に受付けのお姉さんから病院内に医師が一人しか居ないことを聞いたからね。あ、匡。もう予想はついてると思うけど、葵さんはその大きな総合病院に二人しか残っていなかった看護師の一人なんだ」

「話の流れと『病院』というキーワードから大体の察しはついてました。でも、医師や葵さんは何で病院に残ったんですか?もうその時点では普通に働いている人達は居なかったと想うんですけど…」

 飛鳥井さんに聞いた話では日本政府が崩壊して国が無くなってしまったのだから、人間社会に今まであった仕事と呼ばれる類のものは機能しなくなり消滅してしまったのではないだろうか…
 そう考えると病院に残って仕事をしていた医師や葵さんの心理を知りたかった。
 葵さんが考える素振りを少ししたあと答える。

「ん~。何だろうねぇ…たまたま正義感の強い先生について居たからかなぁ。元々あの病院には全部で20人以上の医師が居たんだけど、最後まで残ったのは石崎さんという先生ただ一人だった。他の先生方も神の戒告があってから暫くは病院に来てたんだけどね…だってこんな世界になっても病院を頼りに訪れる患者さんは多かったんだよ」

 なるほど、素晴らしい医師に同調したといったところなのかな…
 話しているうちに葵さんは何かを想い出したのか声が震え出し、目からは涙が溢れていた。
 そんな葵さんを見兼ねて飛鳥井さんが話し出す。

「葵さん、続きは俺が話すよ。結局、順番が来るのを素直に待ち、その石崎先生に美琴を診察してもらえたんだけど、俺達は石崎先生の顔を見て驚いた。なんせ患者を含めた病院内の誰よりも死にそうな顔をしてたんだからね…詳しくは聞かなかったが恐らく寝不足や過労でそうなったんだろうな。それでも石崎先生は懇切丁寧に美琴を見てくれた。そして診察が終わってからニコリとして言ったんだ。『危ないところでしたがもう心配しなくても大丈夫ですよ。あとは点滴を打って一晩眠れば彼女は回復するでしょう。貴方達が彼女を救ったようなものです』とね。だが石崎先生は俺の肩をポンと叩き、そのまま崩れるように倒れてしまったんだ…」

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