神楽坂先生と女学生らの全員が教室へ戻ったのは丁度お昼休みの頃である。
あんな事件の後だから女学生達の食欲も無く…と思いきやそんな事は無く、いつもと変わらぬ光景が展開されていた。
わたしと千歳もいつもと変わらず二人でお弁当を食べていると、神楽坂先生が警察の制服を着た一人の殿方を連れて教室へ入って来た。
そこからは、わたしと宝城さんが神楽坂先生に呼ばれ、白髪混じりの警察の方から今回の事件について事情聴取をしたい旨を告げられる。
お弁当を食べ終わったあと、先に宝城さんが別室で事情聴取を受け、宝城さんと入れ替わるような形でわたしも受けた。
その際に、警察の方から松本様の処分は重くなるだろう事を伺ったわたしは、松本様の処分より樹様の心境を案じたものである。
事情聴取は想定していたよりも短時間で終わり、教室へ戻って午後の授業を普通に受け、あっという間に帰りの時間となった。
「じゃあまた明日!今度の日曜日に樹様の道場へ行こうね~」
「なっ!?」
千歳が屈託の無い笑顔で爆弾発言を残し教室から去って行く。
事件があったばかりだし、暫くのあいだは行くのを我慢しようと想っていたのに…でも今すぐというわけでも無いからまぁ良いかなぁ…樹様に早く逢いたいもの。
わたしの葛藤はすぐにそう結論付けられたのでした。
樹様に逢いに行く時のことを想像しながら教室を出て伊達さんの待つ校門へ向かう。
「伊達さんお待たせしましたぁ!」
逆方向を向いていた伊達さんが振り向き呼びかけに応じたのだけど…
「おっ!お嬢様!ん?いつもより元気で嬉しそうな顔をしてますけど、何か良いことでもあったので?」
頭の中ではわたしと樹様が仲睦まじい感じで会話を楽しむ姿を想像していたため、知らぬうちにその喜びが顔や動作に表れていたらしい…
「ま、まぁ。今日も色々ありまして、た、楽しくは無いのですけど楽しくて嬉しいかなぁ…なんて、アハハハァ」
などと恥ずかしさでしどろもどろになりながらそう話すと、伊達さんは「そうですか」言って不思議そうな顔をしたけれど、幸いなことにそれ以上は訊いて来なかった。
屋敷に帰り着き、いつもならお茶を飲んでから剣術の鍛錬をするのだけど、今日は部屋に戻って早々と道着に着替え、足早に道場へ向かう。
「日曜日に樹様と逢うのであれば剣術の腕を磨いておかなくちゃ。恥ずかしいところは見せられないわ」
普通の恋する乙女なら絶対に言わないであろう言葉を呟きながら、普段の倍以上に剣術の鍛錬に励むわたしなのでした。
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