「と、通りま~す。あっ、ごめんなさい。ごめんなさい。本当にごめんなさーい!」
千歳に半ば強引に突き動かされ、樹様を女学生達が囲む中に入り、謝りながら人混みを掻き分けていく。
何とか樹様が視界に入る位置まで辿り着いたけれど、宝城さんが樹様の手を覆うようにして握りお礼をの言葉をかけているところだった。
なっ!?なぜお礼を言うだけなのに手を握る必要があるの宝城さん!?
その疑問を声には出していない。
だけど何だろう、気持ちがぞわぞわして落ち着かず、手を握っている光景から目を背けたくなる…
「えっと、宝城さん。礼は結構ですよ。彼、松本玄次郎は少し歳の離れた俺の従兄弟なんです。彼の両親から頼まれて駆けつけただけですので」
「いいえ、従兄弟だろうと何だろうと助けて頂いた事に間違いはございません。いつかご自宅の方へ改めてお礼をしに伺いたく想います。是非とも所在地などを教えていただきたいですわぁ♪」
そう言われた樹様が困ったような顔をしている。
ある意味、宝城さんの図々しさを羨ましく想う部分もあるけれど、人を困らせるほど強引に話を進めるのは如何なものだろうか!?
わたしは遂に我慢が効かなくなり二人の会話に割って入る。
「宝城さん!樹様が困っていらっしゃるようですわ。事件の当事者なのだから心が落ち着いたのであれば、そこの松本様とお話しをした方が良いんじゃないかしら?」
「そ、そうですわね…加賀美さんのおっしゃる通りかも…少し松本様とお話して来ます…」
テンションがダダ落ちした宝城さんは意外なほどあっさりと話すのを止め、縄で縛られ正座をしている松本様の方へ歩いた。
「これはこれは、司さんじゃないか!ここは君の通う学校だったんだね?」
樹様がわたしを覚えていてくださった!と一瞬だけ喜んでみたものの、考えてみれば昨日逢ったばかりで忘れられてもねぇ…でもやっぱり嬉し~!
「そうなんです。ここがわたしの通う学校で図画の授業中だったんですよねぇ…っと、さっきは危ないところを助けていただき本当にありがとうございました!」
樹様の顔を見て目が合ったわたしは顔に火がついたような感じがして、それを隠そうと深々とお辞儀した。
「いやぁ、司さんに怪我が無くて良かったよ。と言ってもあの人は俺の従兄弟だから申し訳ない気持ちもある」
頭を掻き苦笑いを浮かべて樹様はそう答えた。
「あの殿方はこれからどうなるのでしょう?」
「…そうだなぁ。彼の両親から許可も出ているから、可哀想だけど警察に連れて行かなきゃならないだろうね」
事情はどうあれ、あれだけの事をしてしまったのだから身内とはいえ仕方ないことなのだろう…
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